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2018/02/01

『日本の医療現場を考察する』 前書きと目次

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日本の医療現場を考察する
~「改革」のために、いま、何をすべきか~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-379-5
初版発行:2012年11月1日




 はじめに

「なんとなく具合が悪い。ちょっと医者に診てもらおうか」

体調が思うにまかせないと何げなくそう思う。そして、実際にごく気軽に、病院や診療所に出かけていく。だが、こんなふうに医療との距離感が近く、ハードルが低いのは、先進諸国でも日本くらいのものなのだ。

そのうえ、日本の医療技術は、ほぼすべての診療領域で世界の最先端を行く高水準にある。医師の多くは医療に純粋な情熱を抱いており、われわれは自分の体、いや、自分の人生を預けるのに躊躇は感じない。

こんなに医療に恵まれた国はないのだが、それを日々享受していると、われわれ国民は、しだいにあたり前のことに感じられ、この“ありがたさ”は「当然のもの」、そして、「この後もいつまでも持続するものだ」と思い込んでしまう。

ところが現在、日本の医療制度は極めて“重篤な状態”に陥っているのが実情なのだ。少子高齢化などからくる健康保険財政の悪化、そこに長引く景気低迷が襲いかかり、日本が誇ってきた国民皆保険制度は赤字が常態化。しかもさまざまな手を打っても赤字はふくらみつづけ、いまやにっちもさっちもいかなくなり、存続の危機に立つ健康保険組合も多い。

医療の質に対する評価が行われていないことから、結果的には患者満足に対し積極的な努力をしない病院のほうが経営はラクというおかしなことにもなっており、患者にとって必要な良心的な医療を行う病院ほど赤字になるという矛盾も抱えている。

赤字体制をなんとかしようと、小泉内閣以来、医療費の抑制政策が取られてきたが、医療現場はさらに苦境に追いやられてしまった。最近、医療給付金はわずかにアップされたが、焼け石に水同然で、医療機関の大多数は赤字。赤字が許されない民間病院では、医師を筆頭に看護師をはじめ、コメディカルスタッフの待遇を抑えざるを得ず、それでも彼らは医療への情熱から、厳しい勤務条件のなかで熱心に医療に取り組んでいる。だが、それもいつかは限界に達しよう。

弱り目にたたり目とでもういうべきか、そこに深刻な医師不足や看護師不足が重なっている。とりわけ地方の中堅病院では、医師不足から診療科の閉鎖に追い込まれたところも出てきているありさまだ。

「現場の医師は数時間から十数時間、立ちっぱなしで、神経を極限まで集中して手術を行い、それが終わるとほとんど休む間もなく次の手術に向かう。満足に休日も取れず、個人の時間はほとんどない。しかも、勤務医はそれほど高い報酬を得ているわけではない。そうした医師たちの自己犠牲のうえに成り立っているのが現在の日本の医療なのです」

こう語るのは、株式会社メディカ・ライン(本社:東京都文京区)の代表取締役社長・佐藤望氏だ。

メディカ・ラインは医療の現場に山積する諸問題を改善していこうという思いの下、医療機関をサポートするさまざまな事業を展開している企業である。

佐藤氏は以前、医療機器メーカーの社員として主に脳神経外科医に最先端の医療機器を紹介する仕事をしていたが、その仕事を通して医師たちのハードすぎる日々を間近でみつめることになった。医療の高度化にともない、医療機器のなかには相当高額なものも増えてきて、その購入やメンテナンスが医療機関の大きな負担になっていることにも気づく。たとえば、最近では多くの医療機関に配置されているMRI(核磁気共鳴画像装置)だが、その維持費だけで、数年後には新品が購入できてしまうほどの金額に達するという。

ところが、この高額な医療機器の選択や購入に関して、詳細な情報を持っているのは医師ではなく、もっぱら医療機器メーカー側なのだ。そのため、メーカー主導の導入が行われることが多く、その結果、必ずしも適正機種、適正価格で導入されるとは限らないことも目につく。はっきりいえば、必要以上に高度な機器を購入することになったり、適正な価格とはいえない価格で購入していることも少なくないのが実情なのだ。

こうした現実を見ているうちに、佐藤氏のなかにある決意が浮かんだ。「自分の知っている医療機器情報を、医療機関側に立って提供しよう。そうすることによって、苦しい医療機関の現状を少しでも改善することに貢献していきたい」

こうして創設したのがメディカ・ラインである。当初は主に、脳神経医療を中心とした最先端医療機器のコーディネートや医師の開業支援を行っていた。医療機関側に立って、それぞれの医療機関にもっとも適した機器をコンサルティングし、コーディネートするという業態は、医療機器流通業界では初めてで、医療機関を開業しようとする医師や運営する医師にとっては何よりもありがたい存在となっていった。

佐藤氏は医師にも負けない医療への熱い情熱と医師へのリスペクトを持っている。医療への純粋な気持ちは多くの医師にも受け入れられ、脳神経外科でいえば、日本を代表するトップ中のトップの医師たちと緊密な人間関係を築いている。

その豊富な人脈から、メディカ・ラインは開業支援、さらには病院経営のコンサルティングも行うようになり、現在では経営サポート、医師の紹介、薬局の経営などと業容を拡大していき、年商七五億円とコンサルティング企業としては堂々の規模に成長させている。

今回の取材を通じて痛感したのが、医師たちが佐藤氏をいかに信頼し、頼りにしているかということだった。日本を代表する高名な医師たちが、口々に「佐藤さんのおかげ」「メディカ・ラインに助けられている」と言葉を尽くして佐藤氏への、そしてメディカ・ラインへの感謝を表するのだ。

佐藤氏と話せば、多くの医師への尊敬の念が伝わってくる。医師と佐藤氏の間には、双方向の尊敬と信頼の関係が確立していることに気づく。その関係を築いてきたことを想像すると、佐藤氏の努力に、私は驚嘆するばかりである。

佐藤氏は、たとえば医療機器の販売一つをとっても、「古い慣行から脱却し、医師および患者視点の流通の透明化を実現させたい」と熱望している。そのためには、メディカ・ラインのスタッフは日本の医療制度や医療技術の進化などについてしっかりした知識と、常にいちばん新しい情報を身につけていなければならないと、医療に関する各種勉強会に積極的に参加させるなど、積極的な人材育成にも力を入れている。

佐藤氏がめざすのは、医療機器のコーディネートや経営改善のコンサルティング活動を展開することを通じて、医療機関をサポートすることにとどまらない。究極の目標は「日本の医療に貢献し、人の和と心で医療の世界を結ぶ架け橋になる」という壮大にして高遠なものなのだ。

その第一歩は確実に踏み出されており、近い将来、中国をはじめとするアジアの医療との連携を考え、すでに平成二十三(二〇一一)年に上海に国際貢献事業を目的とした会社を、脳神経外科医師らとともに立ち上げている。

本書は、日本の医療の現状についての理解を進めていただこうと、まず苦境に立つ医療の現実をさまざまな角度から検証し、次いで山積する課題の解決策について、佐藤氏や私が構想するいくつかの提案を述べていく。

解決策は、行政、医療機関、そして患者の三方向から、現実に即し、実行可能な具体策でなければならない。それほど、医療問題の改善は喫緊の課題なのだ。

読者もぜひ、自身の問題としてその解決の道をともに考え、自分にできることから実行に移していただきたいと強く願う。

また、医療の現場にあり、日々、現実と直対している医療機関の長にも話をうかがい、忌憚のない現場の声をコラムにまとめた。すぐれた医師が医療・病院経営に腐心される様子には頭が下がるが、同時に、現場の意識を改革すれば、医療経営はここまで改善できるという事実もわかり、希望が湧いてくる。

合わせてメディカ・ラインの取り組みについても紹介し、改めて、メディカ・ラインが取り組もうとしている医療改善への貢献もクローズアップしたいと思っている。

本書が、日本の医療の将来を考えるうえでの貴重な指針となることを願ってやまない。

なお、本文中の敬称は略させていただくことを、あらかじめお断りしておく。

平成二十四年九月   鶴蒔靖夫




 はじめに


第1章 存続の危機に立つ日本の国民皆保険制度

「ありがたい」健康保険制度
世界トップクラスの健康達成度
世界有数の健康保険制度
先進諸国の医療保険制度はどうなっているか
日本の健康保険は慢性的な赤字構造に
健康保険制度を追い詰める少子高齢化
無保険者
社会保障、税の一体改革は功を奏するか


第2章 知らなかったではすまない、日本の医療の現状

日本の実質的な医療費は先進国中最低水準
そのしわ寄せは医療機関に
深刻な医師不足が起こっている
外科医や小児科医、産科医の深刻な不足
医師の偏在を加速した新臨床研修制度
疲れ切っている勤務医
決して多くない勤務医の生涯年収
病院から医師がいなくなる
看護師も足りない
大病院の赤字経営と診療所の経営難
他業界への転出を考える医師たち


第3章 崩壊しつつある日本の医療を建て直すには

その1・医療機関・医師が取り組む改善策
 医療財政改善の決定打――医療機器コストの見直し
 医療機器導入の見直しで黒字化を達成したある病院
 医療機器導入、メンテナンスコストなどのサポートで経営に光明を
 医師でなくても医療に貢献できることはないか
 OECD平均の四倍近いCTスキャン、MRIの保有率
 医療機関側に立って、メーカーにいた強みを惜しみなく発揮
 開業時にすべてを新品でそろえる必要なし
 医師に代わって、開業準備を滞りなく進める
 経営不振は医療の質低下に直結する

《病院にも求められる経営感覚。その結果、よりよい医療を実現できる》
《現場発の改善が奏功、高い患者満足度を実現した》
《「いつでも誰でもなんでも」をモットーに》
《経営のことはおろかお金のことは考えたこともなく医療に没頭してきたが……》
《TQMの徹底でいまや国立医療機関は黒字転換》

その2・行政が取り組む改善策
 しっかりしろ! 日本の政治
 病診の棲み分けを行う
 かかりつけ医→大病院→在宅医療
 スムーズな医療連携を広げていく
 ジェネリック医薬品の使用を拡大する
 ジェネリック医薬品の使用拡大を阻む理由
 薬局、患者の意識は向上している
 診療報酬のシステムを見直す
 混合診療を認める
 医療補助スタッフを新たに設ける
 一患者一カルテ制度の積極的検討

《医療機関の情報開示・連携を積極的に》
《絶対的に不足している脳神経外科医の存在感を高め、積極的な養成を》

その3・患者の意識改革も必要だ
 医療制度崩壊の一因は患者にもある
 コンビニ診療を自粛する
 現代の社会環境もコンビニ受診の増大の一因
 患者も病院を使い分ける
 土日・祝日診療を行う診療所
 モンスターペイシェントの増加
 「賢い患者」になる
 増加の一途をたどる医療訴訟
 救急車はタクシー代わりか?
 QOD・死の質を高める

《国民皆保険に甘やかされてきた国民。医療機関にも責任。どちらも問題》


第4章 いま求められる医療の産業化

新成長戦略の目玉・医療産業
メディカルツーリズム
 医療のグローバル化とメディカルツーリズム
 メディカルツーリズム大国はタイ
 周回遅れの日本のメディカルツーリズム
 オンリーワン技術とホスピタリティを訴求する
病院をまるごと輸出する
 海外に日本の病院をつくるという構想
 一〇件近いプロジェクトが進行中
医療機器の海外競争力を強化する
 輸出の主役であってよい医療機器だが……
 世界的に高い成長性が予想される医療機器市場
 医療機器メーカーの世界地図
 許認可期間の短縮が急務
 海外競争力を高め、ひいては国内シェアを取り戻す
 中古医療機器の活用


第5章 医療の架け橋、佐藤望とメディカ・ライン

離島医療と医療への尊敬
医者じゃなくても、医療に貢献できる
脳神経外科と運命的な出会い
医療機器のプロフェッショナルをめざそう
レーザーメス開発を間近で見守る
世界三大医療機器メーカーの一つ、フィリップス社で腕を磨く
医療機器導入コンサルティングで医師をサポートする
メディカ・ラインの創設
「神の指先」医師の開業もサポート
大きな経費節減効果
医療領域で人と人とをつないでいく
医療への貢献に情熱を持つ後継スタッフを育成する
十年後には三〇〇億円企業へ


終 章 開けいく医療の未来

世界の医療貢献へと歩を踏み出す
日本のプレゼンスを復活させる
日本をいま一度、洗濯する
お互いの感謝の思いが日本の活力を再生する


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