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2019/11/28

『生きる力を支える医療』 前書きと目次

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生きる力を支える医療
~歯科からはじまる医療革命~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-368-9
初版発行:2012年6月8日 初版発行




はじめに

東日本大震災から一年が経過した。しかし、東北の被災地はいまだ復興の途についたばかりであり、これからが本格的復興に向けて、日本の底力が試されるときである。

今回の震災では命の尊さとともに、「生きる力」について改めて考えさせられた人も多いのでないだろうか。震災直後には一人でも多くの命を救うため、国内各地はもとより、海外からも医療支援チームが続々と被災地入りした。そうした一般の医療チームの陰に隠れ、その活躍ぶりが意外に知られていないのが歯科医療チームの存在である。

災害発生時にまず歯科医師に求められる重要な任務が身元確認作業だ。東日本大震災による死者・行方不明者は約一万九〇〇〇名にのぼるが、日本歯科医師会によると、震災翌月の四月時点で一一〇〇名を超える全国の歯科医師が身元確認派遣に登録。早速、被災地や警察庁の要請を受けて被災各県に派遣され、身元確認作業にあたった。

歯科医療界の震災復興支援活動は、震災直後の身元確認作業から、その後は本来の役割である歯科医療や避難所で生活する人たちの口腔ケアなど、歯科保健活動が重要な仕事となっていった。

そこで、全国各地の歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士の歯科医療チームが現地入りするとともに、歯科医療機器メーカーからは緊急支援物資として歯科器材、薬剤、歯ブラシ、口腔清掃材、義歯洗浄剤などが提供され、歯科医療界と歯科医療産業界が一体となって復興支援活動に取り組んだ。

日本歯科医師会でも会長・大久保満男氏を中心に、いち早く災害対策本部を立ち上げ、被災地を訪れて状況把握に努め、政府に対し、仮設歯科診療所の設置を要望した。というのも、ほとんどの歯科診療所が全壊・流出した地域も多く、そうした地域の歯科医療確保のために、国による設置を求めたのである。

政府も歯科医療の重要性を認識し、その案件は第一次補正予算に盛り込まれ、二一カ所の仮設歯科診療所が設置された。

また、避難所や仮設住宅には介護する人がいなければ自分では外に出られない高齢者も大勢いた。避難所のなかには当初、水道がなかなか復旧せず水不足が続いていた地域も少なくなく、そのために口腔ケアが行き届かないことで誤嚥性肺炎を引き起こす危険性も高い状況にあった。

それに加え、高齢者のなかには、入れ歯をなくしたり、入れ歯が合わなくなって、ものが食べられずに困っている人も多かった。そこで巡回診療用に二〇台以上の車が用意され、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士たちがチームを組んで避難所や仮設住宅を訪問し、訪問歯科診療を行っている。

一般医療が「命を支える医療」とすれば、歯科医療は「生きる力を支える医療」といわれる。生きることは食べつづけることであり、口や歯は人間が日々生きていくためのエネルギーを取り込んだり、人とコミュケーションをとるために会話をするうえで非常に重要な役割を果たしており、それらを支えるのが歯科医療というわけだ。

被災地ではこれからもまだまだ長い戦いが続くだろうが、被災者の復興に向けた生きる力を支えつづけていくためにも、歯科医療界、歯科医療産業界が果たすべき役割はますます大きくなっていくものと思われる。

もちろん、口や歯の健康にかかわる歯科医療の重要性は被災者に限ったことではない。口腔の健康は生活の質(QOL)の向上に直結するもので、歯科疾患による歯の喪失は、食べる、話すといった機能が損なわれるだけでなく、糖尿病、動脈硬化、肺炎など全身疾患とも関連することがさまざまな研究データから明らかになっている。

平成元(一九八九)年からは、当時の厚生省と日本歯科医師会により、「八十歳になっても二〇本、自分の歯を保とう」という「八〇二〇運動」が提唱され、国民運動として展開されてきた。一生、自分の歯で健康的な食生活が楽しめるよう、子どものころからのデンタルケアの重要性を打ち出したものだ。

実際、高齢になって歯がたくさん残っている人ほど元気で、認知症にもなりにくいというデータもあり、仮に歯がなくなっても、しっかりした義歯が入っていれば、健康悪化の度合いは低くなる。

だが、日本人の場合、一般的には歯が痛いなど、なんらかの異常を感じはじめてから歯科を受診しようとする人が多く、欧米に比べ、予防に対する意識が低いことも否めない。これは、日本の医療保険制度が治療重視のかたちをとってきたことが、大きく影響していると考えられる。

こうした事態を考慮し、政府は平成二十三年八月に「歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)」を制定・施行している。この法律では口腔の健康が国民の健康を維持するうえで極めて大きな要因になっているという事実を示すとともに、口腔の健康は日々の予防活動によって実現することが明記された。

まして日本は世界に冠たる長寿国である。いくつになっても健康で自立した生活を営める健康長寿社会の実現に向けて、歯科医療の果たすべき役割はいちだんと増してくる。

小さいころからの歯磨き習慣の定着などにより、むかしに比べ、むし歯の患者数は激減したが、代わって増えてきたのが歯周疾患患者だ。それにともない、歯科診療の形態は局所的な治療にとどまらず、口腔機能の改善、維持・向上をはかるため、予防を中心とした疾病管理へとシフトしつつある。そうした診療形態の変化に即した新たな歯科医療技術を確立するためには、新規医療機器・材料の開発が不可欠になってくる。

日本の歯科医療技術は、いまや世界的にみても高い水準にあるが、医療技術の高度化は歯科医師の技術だけで実現されるものではなく、歯科医療機器や歯科材料の改良・開発なしには考えられない。事実、これまでも、日本のものづくりの技術から生み出されるすぐれた歯科医療製品の数々が、歯科医療の発展に大きく貢献してきたのである。

とりわけ歯科医療技術と歯科材料工業は唇歯輔車(言葉の意味の詳細は本文にて)の関係にあるといわれるように、わが国の歯科医療技術は歯科材料の発展とともに育まれ、その歴史はおよそ九十年前にまでさかのぼる。

当時、歯科材料は外国からの輸入に依存していたのだが、国産の歯科材料としてセメント材料の独自開発・製品化を成功させたのが、株式会社ジーシー(本社:東京都文京区、代表取締役社長:中尾眞氏)である。

創業は大正十(一九二一)年。一般の人への社名浸透度は低いものの、歯科医療総合メーカーとして長年、わが国の歯科医療産業を牽引してきた同社は、世界の大手メーカーとも肩を並べ、現在では世界一〇〇カ国以上で約六〇〇種類の製品が販売されている。ジーシーの歩みは日本の歯科医療機器産業の歴史と歩を同じくするといっても過言ではない。

同社には創業者の一人で、現社長の祖父にあたる中尾清氏が提唱した「施無畏」の精神、すなわち、相手の立場に立って考え、行動するという教えが社是として脈々と受け継がれ、相手の身になった真のものづくりが実践されている。

歯科医療製品を通じて、世界中の人々に「生きる力を支える医療」を提供するとともに、健康長寿社会の実現に貢献する企業グループでありつづけたいというのが同社の基本的な考えだ。

歯科材料分野では国内ナンバーワンであり、国内シェアの約三割を占めているが、非上場の方針は一貫して揺らぐことはない。企業として利益を確保するのは、あくまでも歯科医療製品の研究・開発を続けていくためであり、歯科医療の発展を使命と考えるからだ。同社では社員をはじめ、歯科医療従事者をなかまと呼んでいる。それは、「会社は投資家が動かすのではなく、なかまが動かすもの」というスタンスで、創業以来、貫いている。

同社代表取締役社長・中尾眞氏は、平成二十三年六月まで六年間にわたり、日本歯科商工協会会長を務めていたが、その間、平成十九年には、臨床分野の日本歯科医師会の会長・大久保満男氏、学術分野の日本歯科医学会の会長・江藤一洋氏らとともに臨学産の三者協議を進め、歯科医療界としては初めての「歯科医療機器産業ビジョン」をまとめ、政府に提言。これは現政権の新成長戦略にも盛り込まれている。

世界最速で超高齢社会へ突き進んでいる日本は、健康長寿社会を実現するためにも、生きる力を支える歯科医療を充実させ、世界にその範を示していく必要がある。

本書では、わが国の歯科医療の現状と課題を検証しつつ、世界的に高齢化が進むなか、多様化・高度化する歯科医療へのニーズに応え、地球市民のQOLの向上をはかるために、歯科医療産業の果たす役割について、ジーシーの活動を例に考察したい。

本書をご一読いただき、健康長寿社会の実現に向けて、一人でも多くの方が生きる力を支える歯科医療の重要性を認識し、最先端の歯科医療技術、ならびに歯科医療機器・材料の開発に理解・関心を示してくだされば、これに勝る喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年四月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 生涯にわたり「生きる力」を支える歯科医療

健康寿命延伸のカギを握る口と歯の健康
目標値を上回る「八〇二〇運動」の成果
先進国ほどむし歯は減少傾向に
むし歯は補綴治療から予防の時代へ
世界的な広がりを見せるMIの概念
むし歯に代わって増加してきた歯周病
歯科疾患と全身疾患とのかかわり
欧米諸国に比べて低い歯科受診率
歯科医師は本当に供給過剰か?
歯科医療の新たな可能性を探る
口腔衛生に目を向けはじめた国の施策
生涯を通じた口腔ケアを推進
臨学産の連携で策定された歯科医療機器産業ビジョン


第2章 品質力を誇る日本の歯科医療製品

歯科医療分野でも高評価の日本のものづくり
ユーザーの声を反映した新製品開発
WHOとの共同研究で開発途上国の歯科医療に貢献
MIコンセプトにもとづく研究開発
画期的なボンディング材を開発
ユーザーの利便性を追求した機能包材
歯科医療製品の国際競争力を強化
「絶対品質」をテーマにした生産拠点
世界のものづくりをリードする人づくりにも注力
高品質な製品づくりを支える品質経営


第3章 歯科医療情報の発信とサービスの提供

歯科医療関係者が集うコミュニケーションの場が誕生
歯科医療従事者と歯科材料製造者は唇歯輔車の関係
歯科医療のグローバル化に向け国際歯科シンポジウムを開催
臨床テクニックが学べる各種セミナーを開催
歯科医療の未来を担う人材育成をサポート
医療のMRに着眼したDR構想
「創る人」「売る人」「使う人」の相互関係
教育サポートでディーラーとの連携を強化
生活者への口腔保健の啓発活動を展開


第4章 日本の歯科材料の進化と歯科医療の発展とともに

歯科材料の国産化時代の幕開け
変革の時代を迎えた昭和初期の歯科医療界
歯科材料の輸入品全盛時代の終焉
戦争という激動の時代を乗り越えて
戦後の混乱から新生日本へ
歯科材料業界の復興に向けて
世界品質に向けての第一歩を踏み出す
歯科医療界の転機となったアメリカ歯科使節団の来日
歯科材料に初のJIS制定
歯科医療の近代化への布石
歯科医療のグローバル化に向けて
世界市場に向けたオリジナル製品の開発
ユーザーの潜在ニーズを掘り起こし予防歯科分野に進出
世界戦略を見据えて社名変更


第5章 健康長寿社会の実現に向けて

二十一世紀は健康の世紀
生涯にわたる「かかりつけ歯科医」のすすめ
高齢化で高まる在宅歯科医療の重要性
在宅用歯科医療機器への開発ニーズ
診断・予防の充実による新時代の歯科医療
インプラント、CAD/CAMへの挑戦が課題
日本の強みである再生医療技術を応用した製品開発
アジアを基盤に日本の歯科医療のさらなる発展を


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