お泊りデイサービスは、なぜ必要なのか

2017/06/16

『お泊りデイサービスは、なぜ必要なのか』 前書きと目次

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お泊りデイサービスは、なぜ必要なのか
~「樹楽」が提案する、地域に必要とされる介護のカタチ~


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著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-430-3
初版発行:2017年1月21日
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 はじめに

アベノミクスの新3本の矢のひとつに、「安心につながる社会保障」として「介護離職ゼロ」の目標が掲げられている。しかしながら、理想と現実は、あまりにも大きくかけ離れているような気がしてならない。

総務省が5年に1度実施している「就業構造基本調査」の平成24年(2012年)版によると、介護や看護のために離職を余儀なくされている人は年間約10万人にのぼる。やむにやまれぬ事情で、1人で親の介護をすることになって生活が破綻し、介護疲れから精神的に追い詰められて自殺したり、介護者が被介護者を殺害あるいは心中するといった、悲惨な事件もしばしばニュースで報じられる。そうした過酷な介護の現実を前にすると、「介護離職ゼロ」というのは、やはりむなしい響きでしかないように感じる。

政府は、具体的な施策として、介護が必要な高齢者の受け皿として、特別養護老人ホーム(特養)の増設をはじめ、在宅・施設サービスの拡充を図ろうとしているが、特養への入所待機者数は、2014年の時点ですでに全国で52万人を超えているのが実情だ。とりわけ都市部では、数年待ちというのもあたりまえで、それがにわかに解決されるとは思えない。しかも、介護が必要な高齢者は、今後も増え続けるのだ。

介護認定は、要支援1と2、それに要介護1から5までの、全部で7段階に分かれている。特養には、以前は要介護1から入所できたが、2015年の介護保険制度改正で、新規入所については要介護3以上という厳しい条件が設定されることになった。これは、立ち上がりや歩行が自力では難しく、排泄、入浴、着替えなどに介助が必要で、問題行動や理解力の低下なども見られるという、中重度レベルだ。

そうした高齢者を在宅でサポートするには、ヘルパーなどの支援があったとしても、家族の誰かが仕事を辞めて対応せざるをえないケースも出てくるだろう。一人暮らしや老老世帯となれば、要介護1や2であっても、在宅での生活が困難になることもあるはずだ。

介護保険で使えるサービスのなかで、365日24時間サービスが受けられるのは、特養などの施設サービスということになるが、かといって介護問題は、単純に施設を増やせば解決するというものでもない。なぜなら、介護が必要な高齢者本人はもとより、家族も高齢者を施設に入れることには抵抗があり、その多くが、できるだけ住み慣れた地域で暮らし続けたいと望んでいるからだ。

そもそも施設介護を増やすというのは、これまで政府が推進してきた在宅介護の流れと逆行するのではないかとの指摘もある。それに、仮に要介護者全員を施設でのケアに切り替えるとすると、年間約9兆円とも言われる介護保険給付費が倍増するという試算もあり、現在の国の財政状況では、とうてい対応しきれない。

2000年に介護保険制度がスタートして16年が経過したが、その間、高齢者は年々増え続け、総務省の推計によると2016年9月15日現在で3461万人に達している。総人口に占める割合は27・3%となり、実に国民の4人に1人以上が高齢者という超高齢社会を迎えているのである。

それに伴い、要支援・要介護認定者の数も増え続け、2014年度には600万人を超えた。介護保険サービスも、利用者負担を除いた給付費が8兆9005億円にまでふくれあがり、過去最高となった。高齢者の増加は国民医療費を増大させることにもなり、こちらも2014年度には40兆8071億円と過去最高を更新。いまや、わが国の介護保険財政、医療保険財政は、ともに危機に瀕している。

これに追い打ちをかけるのが「2025年問題」だ。2025年には団塊の世代全員が75歳を超え、国民の5人に1人が後期高齢者となる。そうなれば当然、医療や介護の必要性も増すことから、いま以上に財政が逼迫し、現行の社会保障制度の行き詰まりも懸念される。厚生労働省によると、利用者負担を除く介護給付費は、現在の2倍以上の20兆円近くにまで増加すると推計されている。

そこで政府は、介護保険制度の抜本的な改革に着手。介護保険制度は3年ごとに見直しが行われているが、2015年4月には、利用者の負担増や要支援者向けの訪問・通所介護サービスを2017年度までの3年をかけて市区町村事業に移管するなど、これまでにない大幅な改正を実施した。

さらに2018年の改正に向け、介護の必要度が低い要介護1や2の人向けの生活援助についても介護保険サービスからはずして自治体事業へ移行させることや、車椅子や介護ベッドなどの福祉用具レンタル支援などのサービス縮小が検討されてきたが、介護現場の負担を考慮し、生活援助の自治体への移行については、ひとまず見送られる方向となった。

このように介護を取り巻く環境が大きく変わるなか、小規模通所介護(小規模デイサービス)事業を中心に、要介護者の介護と自立のための支援システムを構築し、着実に業績を伸ばしているのが、本書で紹介する株式会社アクロス(本社:大阪府吹田市、代表取締役社長:原田健市氏)である。

なお、2016年4月から、定員18人以下の小規模通所介護は、市区町村が指定を行う介護保険の地域密着型サービスへと移行し、地域密着型通所介護と呼ばれるようになった。地域密着型サービスとは、認知症高齢者や中重度の要介護高齢者が、できるだけ住み慣れた地域での生活を継続できることを目的に、提供されるサービスである。

アクロスが介護事業に進出したのは2009年のことだ。定員10名の地域密着型通所介護、いわゆる小規模デイサービス施設の「樹楽」をフランチャイズで全国展開しており、7年間でその数は100カ所を超えるまでになった。
「樹楽」で注目すべきは、一般民家を利用して、家庭の団らんのような雰囲気をつくり出していることだ。

「人里離れた場所に立つコンクリート造りの施設に、自分の親や祖父母を送り出すのは、家族として忍びがたいものです。それだけに、住み慣れた地域にある一般住宅を利用した施設で、気心の知れたスタッフや近隣の顔見知りの人たちと親しく交わることができるサービスというのは、高齢者本人はもとより、家族にとっても、安心につながるのではないでしょうか」

と、同社社長の原田健市氏は語る。

「樹楽」では、定員10名に対し、法令で定められた人数の2倍以上となる最低4名のスタッフを常時配置し、きめ細かなサービスを提供していることも、特徴のひとつにあげられる。

原田氏がとりわけ強調するのが、「樹楽」では介護を担う家族のニーズに応え、24時間・365日の対応をしていることだ。通所介護は、主に在宅で介護を受けている高齢者が送迎つきで通って、食事や入浴、レクリエーションなどを受けられるサービスをさすが、「樹楽」では、利用者の条件が合えば、そのまま「お泊り」することも可能だ。老老世帯で夫の介護を担っていた妻が病気で入院することになったとか、親戚に不幸があって急遽、家を空けることになったなど、お泊りを利用する理由には、家族の都合や負担軽減など、さまざまなものがある。

こうした「お泊りデイサービス」は介護保険の適用外だが、近年は小規模の通所介護事業所を中心に、このサービスを提供するところが増えている。その背景には介護保険で宿泊できる高齢者施設が慢性的に不足していることがあげられるが、原田氏は、画一的なサービスになりがちな施設介護を増やすことには異を唱える。

お泊りデイサービスについては、東京都や大阪府など、一部の自治体では運営基準が早くから定められていたものの、その多くは介護保険制度外の自主事業ということで、運営方法などは事業者に一任されていた。そのため、利用者の個々のニーズに応じてサービス内容を柔軟に設定する優良事業者がいる一方で、狭いスペースに何人もの高齢者を押し込めて雑魚寝をさせるというような、劣悪な環境で運営する悪質な事業者の存在も明るみに出て、これが社会問題化した。

こうした事態を受けて、厚生労働省は、2015年の介護保険制度改正に伴い、介護報酬の引き下げを行うとともに、通所介護施設での宿泊サービス、すなわちお泊りデイサービスのガイドラインを作成。都道府県等への届け出を義務づけ、人員体制や基準を強化することで最低限の質を担保し、悪質業者の一掃を図ることにしたのである。

結果として、厚生労働省としても、お泊りデイサービスに対し、利用者の一定のニーズがあることは認めているかたちだ。この基準強化により、今後は家族や利用者にとって、なくてはならない介護保険外のサービスとして位置づけられることが期待される。

「日本では2025年から本当の超高齢化時代、大介護時代が始まるのであって、いまはまだ序章にすぎません。人口が減少し、国の財政が緊縮していく状況を考えると、国の介護保険制度だけに頼るのではなく、町会など地方の自治組織のような単位で、介護の必要な方々をケアしていかざるをえなくなるのではないでしょうか。すなわち、たがいに支えあうという『村意識』が必要とされる時代になると思われます。
そうなったときの介護のかたちとしては、地域に密着し、顔見知りどうしが共同で生活するような、小規模なデイサービスがいちばんいいはずです。一般民家を活用し、お泊りも含めて、家族のように接しながら、24時間お世話させていただく。介護サービスの最後の砦として、まさにこれしかないと思うのです」

と、原田氏はお泊りを含む地域密着型通所介護、いわゆる小規模デイサービスの必要性を力強く語る。

「樹楽」の利用者は、平均すると要介護2・7くらいとのことで、医療行為が必要な人や寝たきりの人は断らざるをえないが、認知症の場合は、どんなに重い症状の人でも受け入れる、原則的には「断らない介護」を標榜しているのだという。地域のデイサービスが断ったら施設に入るしかなく、その施設にも入れないとなると行き場を失ってしまう。そうなると、家族の誰かが在宅で世話をする必要に迫られ、介護離職を生じさせることにもなりかねないからだ。

アクロスでは、地域のなかで支えあう介護を実現するためには、将来的には中学校区ごとに1つ、つまり全国に1万2000カ所の、お泊りデイサービスを含む地域密着型通所介護事業所が必要と考え、当面の目標として、2020年までに「樹楽」を、現在の倍の200カ所で展開することをめざしたいとしている。

本書を執筆するにあたり、実際にいくつかの「樹楽」を訪問し、オーナーのみなさんにも取材させていただいたが、それぞれの介護事業への強い信念と熱き情熱とが言葉の端々から感じられた。それに、家庭的な雰囲気のなかで、高齢の利用者たちが穏やかで楽しそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

老いは誰にでも訪れるものであり、いまは介護する側の人も、いずれは介護される側になるかもしれない。そうなったとき、どうすれば住み慣れた地域で安心して最後まで暮らすことができるのか。介護のあり方を国民一人ひとりが真剣に考えておく必要があるのかもしれない。

本書は、一般住宅をベースにした地域密着型通所介護サービスを全国でフランチャイズ展開するアクロスの事業活動、ならびに、フランチャイズに加盟する事業者たちの介護現場を紹介するとともに、アクロス創業社長・原田健市氏の経営理念と介護哲学に迫るものである。

介護を必要とする高齢者や、そのご家族、あるいは介護事業に携わる方々にとって、これからの介護サービスのあり方を考えるうえでの一助となれば、これに勝る喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

 2016年12月  鶴蒔靖夫


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はじめに


第1章 急速に進む高齢化と介護サービスの現状

国民の4人に1人が高齢者という超高齢社会に突入
高齢化の進展に追い打ちをかける「2025年問題」
地域包括ケアシステムの構築に向けて
介護離職や老老介護に見る厳しい現実
入所待ちが50万人以上の特別養護老人ホーム
要介護高齢者の住まいとしての居住系サービス
アベノミクスの新3本の矢が掲げる「介護離職ゼロ」
宿泊を伴う地域密着型サービスの拡充が鍵
お泊りデイサービスの先駆けとも言える「宅老所」
厚生労働省が宿泊サービスのガイドラインを制定


第2章 「誰でも気楽に過ごせるもうひとつの我が家」

24時間・365日対応の小規模デイサービス
個別に柔軟な対応が可能なお泊りデイサービス
個別対応ならではの居心地を提供
施設の判断基準は「自分の家族を預けることができるか」
ニーズがある以上、「断らない介護」を標榜
認知症の特効薬はコミュニケーション
お泊りデイサービスが介護離職の歯止めにも
介護は小規模であるほど満足度が増す


第3章 地域密着型のデイサービス「樹楽」の現場リポート

独自色が鮮明に打ち出された各地の「樹楽」
言葉がやさしく交差する場をつくる
  介護という「インフラ」に参画して地域に貢献
  幸せの原点はコミュニケーションにあり
  お泊りデイサービスでは安全性を最優先
  スタッフの成長をも後押し
  介護事業の王道は、よいサービスを提供すること
常識破りの「喜怒哀楽介護」を実践
  自分から行きたくなるような楽しいデイサービスを
  お客様扱いせず、家族のように接する
  要介護5が半年で要介護1に
  地域密着型サービスへの移行を機に「樹楽 団らんの家 五浦」を開業
地域のなかで必要とされることが生きがいに
  最初は単にビジネスとして介護事業に着目
  介護に懸ける覚悟で事業をリセット
  お泊りデイサービスにこそ、やりがいを感じる


第4章 高齢者介護の新地平を開く「樹楽」のフランチャイズ制度

介護施設らしからぬ光景に感動
超高齢社会を救うお泊りデイサービスの充実
開業には初期投資1000万円+運転資金が必要
営業では「樹楽」のよさや必要性をアピール
感謝される事業であることを伝える
付かず離れずの関係でオーナーをサポート
合理的な手順を踏む開業までの道筋
開業への申請書類の作成を代行
開業後も本部がオーナーやスタッフを手厚く支援
介護事業に求められるコンプライアンスの徹底
現場での万が一の事故に備える
介護事業こそフランチャイズ化すべきとの想いを強める


第5章 アクロスが描く福祉事業の近未来図

いまこそ求められる「村意識」の復活
日常生活動作の向上を図る「フィット&デイ」
「樹楽」を高齢者介護サービスのトータルブランドへ
障がい児を支援する「放課後等デイサービス」
2025年に向け、高まる介護人材ニーズ
家族のように寄り添い、看取るまでが、本当の介護
快適空間の提供により社会に一灯を燈す
株式上場を中止、捲土重来を期す
お泊りデイサービス1万2000カ所体制の実現に向けて


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