大学教育再生への挑戦

2017/06/19

『大学教育再生への挑戦』 前書きと目次

433_daigakukyouikuweb


大学教育再生への挑戦
 ~震災の地から始まる日本人の心の革命~


-----
著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-433-4
初版発行:2017年3月30日
-----

 はじめに

まばゆい輝きに満ちた東北の海。一面に光の粒子を撒き散らしたようなその光景は、実に美しい。

だが、6年前の2011年3月11日、この海は突然、牙をむいて、人々に襲いかかり、計り知れないほどの大きな被害をもたらした。

しかし、人の力はさらに大きいものだったのだ。この甚大な被害に負けることなく、いま、東北は着々と復興の歩みを進めている。

長年、ジャーナリストとして時代を見つめてきた私は、東日本大震災のあと、何度となく現地に足を運んできた。そうしたなかで頻繁に耳に入ってくるのが、「東日本国際大学/いわき短期大学」の名前だった。被災地のひとつである福島県いわき市にある両校の学生たちは、復興のために力強く働く多くの若者たちのなかでも、ひときわ光る意思力と行動力を発揮し、地元をはじめ、多くの人々に勇気と希望を与える大きな存在になっているというのである。

いわき市にある、東日本国際大学/いわき短期大学は、学校法人昌平黌が運営する教育機関だ。ほかにも、東日本国際大学附属昌平中学・高等学校、いわき短期大学附属幼稚園などを擁している。

昌平黌の教育の核にあるのは、儒学の理念である孔子の教えにもとづく「人間主義」だ。儒学を謳う教育機関は、あまり例がない。いや、ここまで徹底して儒学教育を展開しているところは、日本では昌平黌だけかもしれない。その理念のすばらしさに感銘を受けた私は、昌平黌が教育にかけてきた歴史や建学の理念、それにもとづく教育の実際などについて広く知ってほしいと、『心の革命』(小社刊)という書籍を1996年に上梓した。

そうした縁から、震災後の混乱が落ち着いたころを見はからって、昌平黌の理事長である緑川浩司氏に連絡をとったところ、耳に飛びこんできたのは次のような言葉だった。

「あの震災は、わが校にとってはある意味で再生のきっかけとなりました。震災を経験したことで、昌平黌の建学の精神を、よりいっそう進化させることができたのです」

どういうことかとたずねると、こういうことだった。

震災前の東日本国際大学/いわき短期大学は、大学の厳しい生き残り競争にさらされており、ともすれば学生数の確保を優先するあまり、学生たちの人間的な資質を磨くことは後手にまわりがちだった。だが、震災という未曽有の悲劇に遭遇したときに長年受け継いできた儒学の精神が覚醒し、学生や教授陣、大学運営にあたる関係者たちは、誰が言うともなく、被災者を助けることを最優先として活動し始めたのである。

「昌平黌は建学以来、孔子の教えを教育の核においてきました。その精神、具体的に言えば、仁義礼智信(儒学で説く、人が常に守るべき5つの徳。五常、五徳)を基本とした人間教育を徹底しているのですが、その成果が震災時に開花し、被災者支援、さらには復興支援に結実したのです」

と、緑川氏は誇らしげに語った。

あらためて述べるまでもなく、震災は、学舎の倒壊などを含め、昌平黌にも有形・無形の多大な被害をもたらした。特に震災の翌日に発生した東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故の余波は大きかった。東日本国際大学/いわき短期大学は、福島第一原子力発電所にいちばん近い大学だったのだ。

といっても、福島第一原子力発電所からは40㎞も離れており、実際には放射性物質が漏洩したことによる危険や影響はほぼなかった。だが、そんな実情とは関係なく風評被害は容赦なく広がっていき、東日本国際大学/いわき短期大学に大きな痛手を与えたのである。

東日本国際大学は、世界に開かれた大学として広く知られる存在で、在学生の約5分の1にあたる129人(このほか、留学生別科生137人在籍。2017年2月現在)が海外からの留学生だ。中国、韓国、タイ、ベトナム、ミャンマーなど、その国籍は十数カ国にのぼる。彼ら自身の不安はもちろんだが、遠く離れた異国に子どもを送り出している彼らの両親などの不安は、いかばかりのものだっただろうか。

昌平黌の関係者は、まず海外からの留学生たち全員を安全圏に移し、一時的に帰国させるという判断を瞬時に行った。そして、各国大使館や領事館など、それに各航空会社と連携して、全員を無事に母国へと帰国させたのだ。

その間、精神的に衝撃を受けている学生たちに対しては、大学関係者が付き添い、メンタルケアも含めて、できるかぎりのサポートを実施した。

そのときの対応がいかに誠心誠意のものだったかを示すかのように、震災で母国に戻った留学生たちの約90%が、その後ふたたび大学に戻ってきたという。

国内の学生たちの行動もすばらしかった。彼らは率先して復興作業や支援活動に加わり、積極的に活動したのである。その様子や姿を見た人々のあいだで「東日本国際大学/いわき短期大学の学生の人間力はすばらしい」という評判が立ち、震災後、両大学の評価は、いやがうえにも高まっていったというのだ。

このときの体験は、昌平黌の関係者にも強い自信を甦らせた。

「私たちが長年行ってきた、『論語』を中心とした人間教育に間違いはなかった、偏差値や成績、ビジネスでも結果や実績ばかりを評価しがちな現代にあって、人間教育の重要性を主軸においた昌平黌の教育は、結果的に時代のニーズを最も先取りするものだった、ということに気づかされたのです」

緑川氏の言葉に力がこもるのも当然だ。

こうした結果から、地域と共存することの重要性をあらためて嚙みしめた昌平黌は、現在、「グローカル」という新しい価値観を世にアピールしている。

グローカルとは「グローバル」と「ローカル」を合わせた造語で、グローバル=国際的な視野や力量を持ちつつ、その視点や力を自らが生きる地盤であるローカル=地域にも活かしていく、という姿勢を言う。

現在、東日本国際大学の学長は、早稲田大学名誉教授で、2011年3月までサイバー大学の初代学長を務めていた、エジプト考古学研究で世界的にその名を知られる吉村作治氏である。エジプト考古学と儒学とは、一見ミスマッチに見えるが、人間性を重んじ、人間としての誠を大事にする姿勢や「人が真摯に生きる」ことの価値は、古今東西、変わらないのだという。

世界的な知名度を持つ吉村氏が学長に就任した効果や、真の人間性を育む儒学教育、さらに、「寺子屋教育」と称し、小規模できめの細かい教育に徹してきた揺るがぬ方向性などが評価され、近年、東日本国際大学の評価はじわじわと高まってきている。それを実証するのが、東日本国際大学、いわき短期大学ともに、就職率100%という信じられない実績を数年にわたって続けていることだ。しかも、卒業生たちの多くは福島県下で就職している。両校は、明日の地域づくりに欠かせない人材の供給源として、貴重な成果をあげているのである。

この事実は、いくつもの課題を抱える地方にとって、大きな励みとなるはずだ。また、両校の取り組みは、地域社会と大学がみごとなWin‐Winの関係を構築するという、明日の日本のための教育機関の理想形のひとつとして、全国的にも注目を集める存在になっている。

震災のダメージからの復活と、そこからさらに飛躍してグローカルという新たな価値軸を確立し、今後の日本の人材育成をリードしていこうとしている昌平黌の奮闘ぶりを、つぶさにうかがった私は、ここに、日本の高等教育が、さらには社会がめざすべき、ひとつの方向性が示されていると感じた。

現在、日本の教育は、大きな壁にぶつかっている。偏差値偏重教育は明らかに頓挫してしまった。大学進学をめざす学生や、子どもを持つ親、いや、日本人全体が、あらためて大学で学ぶことの真意を見つめなおす必要があり、その具体的な答えのひとつが、東日本国際大学/いわき短期大学にはある。そうした意味で、本書は、日本の未来を真摯に考えようとするすべての人に、多くの示唆を与えるだろうと自負している。

なお、本書の執筆にあたっては、学校法人昌平黌理事長の緑川浩司氏、東日本国際大学学長の吉村作治氏、いわき短期大学学長の田久昌次郎氏をはじめ、多くの方々のお力添えを得た。ここに厚く御礼を申しあげる。

また、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

  2017年2月  鶴蒔靖夫


-----


はじめに


第1章 「3・11」からの復興 ―「天、我に徳を与える」―

史上かつてない規模の自然災害
学生たちは絶対に守る
留学生は安全な都内へ避難
留学生の一時帰国
さらに続いた緑川らの奮闘
9割の学生が戻ってきた
じわじわ評価が浸透しつつある昌平黌の人間教育
昌平黌の真髄をいかんなく発揮
復興から学んだことを次代に活かす
「義を行い以てその道に達す」


第2章 学校法人昌平黌と孔子の教え ―「義を行い以てその道に達す」―

いまこそ求められている真の人間教育
再認識される「教育=人間力の育成」という考え方
「利は義の和から生じる」と考える儒学の教え
2000年あまりにわたりアジアの人々の法灯となってきた儒学
昌平坂学問所の誕生
儒学の根幹を成す「仁」「義」「礼」「智」「信」
明治以降の「昌平黌」の歩み
学校法人昌平黌の前身である開成夜学校の誕生
学校法人昌平黌へと続く道
学校法人昌平黌の生みの親である田久孝翁という人物
昌平高等学校の移転問題
昌平黌短期大学の創設
新生昌平黌のスタート
山岡荘八が名誉学長に就任
後半生を儒学教育に捧げた山岡荘八
4年制大学を持つ教育機関へと成長
儒学教育を象徴するペンと剣の校章、大成殿の建設
引き継がれた「昌平黌」の理念
巨木、倒れる
緑川、理事長に就任

《人間力育成を心に銘じて》……学校法人昌平黌理事長 緑川浩司


第3章 グローカル人財を育成し、地域と明日の日本に貢献する ―「性相近く、習い相違し」―

東日本国際大学から生まれた進化型人材「グローカル」
世界的なエジプト考古学研究者の吉村作治を学長に迎える
「OPEN MIND」に根ざした人財育成のスキーム
平和経済学を掲げて開校
ICTを基礎に経済・経営を学ぶ「経済経営学部」
実社会で役立つ実践力と即戦力を体得する2つのコース
一人ひとりの「幸せ」を考える「健康福祉学部」
多様な福祉行政やサービスに対応する3つのコース
平成の寺子屋と呼ばれる少人数ゼミと各種資格取得
資格取得を全面的に支援
エクステンションセンターの資格取得講座
2つの特別プログラムでキャリア形成の実現をサポート
海外との架け橋となる国際部の活動
日本から海外への留学生を増やす
充実した奨学金・特待生制度
活発なスポーツ活動による人間力育成
寮や学生マンションで暮らし、健康もサポート
100%を誇る驚異的な就職率
就職支援力120%、キャリアセンターの働き
人財の地元定着や留学生の就職支援のための精力的な活動
中・高一貫教育で高い評価を得ている東日本国際大学附属昌平中学・高等学校

《「中庸」を原点に、真に社会が求める人財育成を進めていく》……東日本国際大学学長 吉村作治


第4章 地域を支える人財を育成する、いわき短期大学 ―「勉学積徳」―

いわき短期大学は学校法人昌平黌の原点
「商経科」から「幼児教育科」を持つ大学へ
福祉専攻コースの誕生と東日本国際大学への移行
心に届く幼児教育のプロフェッショナルを育てる
人としての生活のすべてをカバーする幼児教育
附属幼稚園での教育実習で現場力を培う
「幼稚園教諭」と「保育士」の2つの免許・資格を取得できる
東日本国際大学へ編入する道もある
グローカルな人間力育成を加速する「英語特別講座」
東日本国際大学との積極的な交流も魅力のひとつ
安心の寮生活で学生の暮らしをサポート
地域の高校と連携授業を開催
5年連続就職率100%、圧倒的な地域からの信頼感
「いわき短期大学だから夢をつかめた」と語る卒業生たち

《地域貢献型の人財育成という使命に徹していく》……いわき短期大学学長 田久昌次郎


第5章 昌平黌が描く将来ビジョン ―「義と和の中に未来がある」―

『論語』は未来に向かう人間力の原点
地域貢献の拠点「地域振興戦略研究所」を立ちあげる
昌平黌論語を確立し、発信していく
現代の寺子屋「昌平塾」で学ぶ昌平黌論語
昌平黌のオンリーワン資質、存在意義を磨いていく
偏差値偏重教育を脱し、知力・体力・徳力教育を進めていく
2023年には地方大学のトップになる


-----


その他のカテゴリー

カテゴリー

無料ブログはココログ