東北の小さな大企業

2017/06/19

『東北の小さな大企業』 前書きと目次

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東北の小さな大企業
 ~圧倒的な技術と品質で世界の医薬品業界に挑む~


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著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-434-1
初版発行:2017年6月19日
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 はじめに

内憂外患。この言葉は、近年の日本にぴったりとあてはまる。

資源は乏しく、人口は多い日本。しかし国民は、優れた製造技術でモノづくりに励み、ほどほどの豊かさを甘受してきた。だが、近年、そうした成功モデルは過去のものとなり、世界における日本の存在感は急勾配で下がってきている。

今後の日本は、どのようにして活路を開いていけばいいのか。

そんな思いにとらわれるときに、ふと脳裏に浮かんでくるのが、日新製薬株式会社と、この企業を率いる代表取締役の大石俊樹氏のことだ。

日新製薬は、山形県天童市に本社をおく、ジェネリック医薬品のメーカーである。売上高は約300億円弱(販売会社の日新薬品株式会社との合算)で、現段階では中堅クラスのメーカーと言うべきだろう。

注目すべきは、その成長力と、そのパワーの源となっている、常に前を見つめて進む大石氏の、ぶれのない強固で誠実な精神性である。

実は私は、2012年にも日新製薬に関する著書を上梓している。当時の日新製薬は、売上高は143億円で、従業員数は700人だった。それが現在では、売上高は約300億円と、わずか5年のあいだに約2倍に成長を遂げ、従業員数も約1000人となっている。

同じ「売上高2倍」でも、売上高143億円を300億円にするのには、10億円を20億円にするのとは比べものにならないほどのパワーが必要だ。大石氏はそれを、まるであらかじめ敷かれていたレールを進んでいくように、淡々と、余裕に満ちた構えで実現してしまったのである。

あらためて説明する必要もないだろうが、ジェネリック医薬品とは、特許切れの医薬品の処方をもとに、飲みやすさなどの使用性を高めて製造された後発医薬品を言う。その最大の特徴は、新薬を世に出す場合と比べて、開発コストが圧倒的に低く、医療関係者に説明するための営業コストもかからないため、コストパフォーマンスが抜群によいことだ。そのため、高齢化の進展とともに医療費が拡大するばかりの先進国では、医療コストの引き下げに貢献する大きな力となり、医療費の高騰により高度な先進医療の恩恵にあずかれない人々にとっては、リーズナブルなコストで医療を受けられるという大きな恵みとなっている。

日新製薬は、このジェネリック医薬品のメーカーとして、ある意味で「日本一」と言われているメーカーである。

ここで疑問を持たれた方もいるだろう。たしかに売上高だけを見れば、日本国内にも日新製薬をしのぐ企業が何社もある。それでも日新製薬が「日本一」だと称されるのは、日新製薬がつくる製品のクオリティの高さと、そのクオリティを生み出すバックグラウンド体制ゆえである。特に製造工程では、大手ジェネリック医薬品メーカーがうなるほどの最先端設備を完備している。

これらは、日新製薬を率いる大石氏が、

「ジェネリック医薬品は、絶対になくてはならない薬だ」

との信念のもとに、ジェネリック医薬品のクオリティアップに徹底的にこだわり、全力を注いできた成果にほかならない。

大石氏は、日新製薬がまだ地方の弱小メーカーにすぎなかったころから、製品の品質向上に惜しみなく力を注ぎ、そのための大胆な先行投資を積極的に行ってきた。次々と最新・最高の性能を持つ機械を導入し、新工場を建設していった、その決断力と勇気には、ただ脱帽するのみである。

たとえば、高出力の光を瞬間的に照射することでボトル内を滅菌する非加熱滅菌法「パルス光滅菌」を、世界で初めて医薬品製造で実現したのは日新製薬である。ほかにも、いくつもの「業界初」と言われる取り組みを実施してきた。

その結果、日新製薬には「日本で初めて」「日本一」という形容が枕詞のように冠せられてきた。最近では、それがさらに一段階上がり、「世界で初めて」「世界一」へと変わってきている。

また、日新製薬では、ジェネリック医薬品だけではなく、新薬メーカーの製造受託事業も展開している。前述のような、ジェネリック医薬品メーカーとしての製薬技術レベルの高さや、製品クオリティに対する高い評価により、受託事業も成長の一途をたどっている。受託企業は国内外50社以上を数え、しかも、そのリストには大手医薬品メーカーの名がずらりと並んでいる。

日新製薬は、いまや日本の医薬品製造市場になくてはならない存在となり、日本の医療を力強く支えていると評しても、けっして過大評価ではないだろう。その傑出した存在感は誰もが認めるところであり、これまで、中小企業研究センター主催の「グッドカンパニー大賞グランプリ」、日刊工業新聞社主催の「優秀経営者顕彰 地域社会貢献者賞」、山形県主催の「山形県産業賞」、公益社団法人発明協会主催の「山形県発明協会会長賞」など、さまざまな賞に輝いている。

「日本一」「世界一」に通じるこの戦略は、企業経営の成功は「先の利」にあるという大石氏の信条から生まれたものだ。

「常に視点を〝先〟に向ける」

大石氏は、これが大事だと言うのである。将来から現在を見れば、進むべき将来に向けて、いまたりないものは何か、何をたせば発展するかが見えてくる。それを他に先んじて導入していけば、「先の利」をおのずと手にすることができる。これが、将来の発展を確かなものにする、ほとんど唯一の道だというわけだ。

日本人にたりないのは、まさにこの精神なのではないだろうか。日本の産業は、ほとんどの分野で世界の第一線レベルにあるのだが、そこから先に出ようとしない。それどころか、後追いを繰り返し、その結果、最先端からおいていかれてしまうことがしばしばある。これが、かつては世界で1、2を争った日本経済の国際競争力を、世界で26位(国際経営開発研究所(IMD)「世界競争力ランキング2016」)にまで引き下げてしまった最大の要因なのではないだろうか。

また、日本が直面している数多くある課題のなかでも、最も深刻なのは、日本人の幸福度の低さではないか、と私は考えている。国連による「世界幸福度ランキング」によれば、日本人が感じている幸福度は世界51位(「世界幸福度報告書2017」)。さすがに考えこまざるをえない状況だ。

そんななかで大石氏は、「働く人の幸福度アップ」にも力を注いでいる。「自分の仕事に誇りを持てること」「人として充実感を持って生きていくこと」「家族や友人などとともに毎日を楽しむ時間を持てること」など、いわゆるワーク・ライフ・バランスの整備に、大石氏は以前から力を注いできた。

雇用に際しての男女平等は言うまでもなく、最近では企業内保育所の設置なども積極的に進め、女性が安心して出産し、育児中も無理なく働き続けられるしくみをつくるなど、次世代型の雇用環境づくりを着々と進めている。

現在、日新製薬の従業員の男女比率は、男性約51%、女性約49%と、ほぼ同等の割合だという。これは、医薬品メーカーとしては希有な数字だ。これまでは、営業職、開発職ともに、どうしても男性偏重にならざるをえないと考えられてきた業界であるからだ。

しかし日新製薬では、実力があれば男女を問わずに責任のあるポストを与えるという姿勢であり、課長相当以上の女性社員も18%超いるという。

こうした取り組みが評価され、2016年には「山形県ワーク・ライフ・バランス優良企業知事表彰」を受賞している。
また、こうした評価はリクルートにも反映され、いまや日新製薬には、東北では人気ナンバーワン企業として、就職希望者が殺到するそうだ。

となれば、必然的に有能な人材を確保できることになり、企業のパワーはさらに高まっていく。

最近では、仕事に追われ、仕事だけに埋没する人生では、人として満足できないという認識が高まってきているが、日新製薬では以前から、仕事だけでなく、個人としての日々が充実し、楽しいものでなければならないと考えてきた。そうした日々が仕事にも張りややる気をもたらし、結果として企業をより輝くものにしていくという好循環を形成していくのである。

地方創生も、現在の日本が抱える重要な課題だ。日新製薬は、奨学制度などを通じて地方の興隆にも大きく貢献しており、山形県子育て推進部から「山形いきいき子育て応援企業」の「優秀(ダイヤモンド)企業」の認定も受けている。

いまや日新製薬は、日本の医薬品市場においてのみではなく、山形県の地方創生の要となる企業としても、かけがえのない存在になっていると言ってよい。

その日新製薬を率いる大石氏にとって、今年(2017年)は、70歳の喜寿を迎える節目の年にあたる。

いまから四十数年前に、当時は従業員32名という小さな製薬会社を経営していた大石家に婿入りしたことを機に、それまで縁のなかった製薬業界に足を踏み入れ、いまでは山形県下でも指折り数えられる超優良企業に日新製薬を育てあげた。その軌跡を振り返るときに大石氏の胸に去来するのは、どんな思いだろうか。

本書では、主にこの5年間の日新製薬の発展の足跡をたどりながら、日新製薬を今日まで引っ張ってきた大石俊樹氏の企業理念や人生哲学に迫り、経営者・大石俊樹と人間・大石俊樹の実像を描き出したいと思っている。冒頭に記したように、それは、混迷のなかにある現在の日本が、より光ある将来へと歩を進めていくうえでの、確かな道標となると思うからだ。

同時に本書は、人として「真に充実し、幸福度の高い人生を生きる」ためには何を大事にすべきかをも指し示す、人生の指針となる書でもあると自負している。

なお、本文中の敬称は略させていただくことを、あらかじめお断りしておく。

 2017年5月  鶴蒔靖夫


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 はじめに


第1章 「先の利」経営の象徴・日新製薬荒谷工場

圧倒的なスケールと先端的な装備
最先端システムを誕生させるまで
最高のクオリティの固形剤を生み出す最高の設備
完全ペーパーレス化を実現
指示待ち人間がいなくなった
連日、システム見学希望者の来訪が絶えない工場
むだなくスムーズ、安全性や効率も抜群の生産ライン
固形剤、特にステロイド剤では国内トップ
「先の利」戦略で日新製薬を倍速で成長させてきた
ステップ・バイ・ステップで企業を成長させていく


第2章 ジェネリック医薬品に吹く追い風

人類の明日の宝・ジェネリック医薬品
欧米ではジェネリック医薬品を使うのはあたりまえ
ジェネリック医薬品使用促進の動き
目標値達成のためのロードマップ
ジェネリック医薬品メーカーの正念場
パテントクリフで医薬品市場のマップが変わる
ジェネリック医薬品メーカーが躍進する時代へ
世界のジェネリック医薬品市場動向
出遅れた日本のジェネリック医薬品メーカー
最後に勝つのは、正しいことをやってきたメーカーだ
医薬品受託製造というもうひとつの市場
委託企業には世界の超大手の名が並ぶ


第3章 「日本一」「世界一」がずらりと並ぶ企業

「大手だから安心」とは言えない時代 ❖ 78
世界で初めて医薬品製造に「パルス光滅菌技術」を採用 ❖ 80
夢で啓示を得たパルス光滅菌の採用 ❖ 82
日新製薬が独自に証明したパルス光滅菌の滅菌効果 ❖ 85
パルス光滅菌研究では世界をリード ❖ 87
クオリティ日本一のポリエチレンボトル注射剤 ❖ 92
想像以上の困難が待っていたポリエチレンボトル製造 ❖ 94
ついにクオリティ世界一の
ポリエチレンボトル入り注射剤の製造に成功 ❖ 97
気体の透過に対応するブリスター包装機を導入 ❖ 100
世界一のフルコンテインメントシステム ❖ 103
品質管理体制でも日本一のクオリティを実現 ❖ 106
社員の20%が品質管理に関する仕事に従事 ❖ 108
競合も太鼓判を押した
ジェネリック医薬品業界トップのソフトとハード ❖ 110
慶応義塾大学先端生命科学研究所との連携 ❖ 112
日新製薬の医薬品は、他より高くても売れる ❖ 114
どこにも負けない競争力 ❖ 117


第4章 大石俊樹の足跡Ⅰ

大石が「真の山形県人」になった日
東京都足立区で始まった俊樹の人生
優秀な頭脳と抜群の運動神経、文武両道の才能に恵まれて
ものごとの本質をつかみ、行間を読み取る能力
悪ガキだが、言うことは常に正論
教会の牧師を論破
学生運動が吹き荒れるなかでの大学生活
選んだ就職先は電気部品の商社
入社早々、長年の経理の「不明」を徹底追及
半導体営業でもめざましい結果を出す
「知恵の営業」で市場開拓
大組織のサラリーマンか、小企業の経営者か
経営者の道を選択。そして「廣川」から「大石」へ


第5章 大石俊樹の足跡Ⅱ

結婚後、すぐに日新製薬に入社
日新製薬の創設
あまりにも大きかったイメージギャップ
気息奄々状態から再生の道へ
潰れる会社を継ぐのも悪くはない
改善に取り組み、わずか1年で赤字を解消
錠剤製造へ進出
大手メーカーのデータの不備を看破
正しいことだけをやっていこう
わずか3年で日新製薬を再生
受託事業と自社製品の2つの車輪が回りだした
大石俊樹、代表取締役社長に就任
日本最先端のレベルの製薬を実現
突然、右腕をもぎ取られる
自社開発のオリジナル路線を進んでいくことを選択
化学者のプライドを貫いてくれ
俺を乗り越えて進んでいってほしい
社会に「なくてはならない会社」になる
「人」にも惜しまず積極投資
鶏が先か、卵が先か
多頭数戦略で市場を切り拓いていく
「生産拠点」と「人」それぞれの拡大路線を突き進む
川越工場の誕生とリスク分散
継続的に投資し、進化し続けていく


第6章 明日の日本を担う企業へ進化

東北で就職人気ナンバーワンの企業
増えてきた地元志向
全国に主要産業の本拠地が広がる欧米型発展をめざす
地方創生へ政府も本腰を入れ始めた
雇用拡大で地方創生に最大の貢献
結婚できる給与水準
徹底的な教育で、従業員の質をさらに高める
従業員一人ひとりが充実した人生を送ってほしい
女性のキャリア形成ができない国・日本
日新製薬の「女性が働きやすい会社指標」
地域ナンバーワン企業を証明する数々の受賞歴
スケールアップする地元への貢献
企業存続のために、次世代へ襷をつなぐ
より高いところから経営を俯瞰し日本経済と日本社会を引っ張っていく
日本のジェネリック医薬品を世界にアピールする


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