保育士がたりない!

2017/06/20

『保育士がたりない!』 前書きと目次

Hoikuweb


保育士がたりない!
 ~待機児童問題が突きつけた日本の現実~


-----
著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-422-8
初版発行:2016年8月19日
-----


 はじめに

「保育園落ちた日本死ね!!!」

これは、2016年2月15日に投稿された、ある匿名ブログのタイトルである。なんとも物騒な文言だが、追いつめられた投稿者による、怒りと不満に満ちたその内容は、すぐさまインターネット上で大きな話題となった。

このブログは同年2月29日の衆議院予算委員会でもとりあげられたが、ブログの投稿者が匿名であったことから、一部の議員から、その信憑性を疑問視する声があがり、また、杉並区議が「便所の落書き」と一蹴したことなどにより、国民の猛反発を招くことになった。特に同じ立場におかれた女性たちの怒りはすさまじく、「保育園落ちたの私だ」と書いたプラカードを掲げた女性たちが国会前でデモを起こす騒ぎにまで発展した。

こうした一連の出来事からも、いまの日本で保育園に子どもを通わせるということが、いかにたいへんかがうかがえる。

けっきょく、この騒動を受けて安倍首相は、参議院本会議で、待機児童問題の解消に向けた保育士不足の対策として、保育士の待遇改善の具体策を近々示す方針を明らかにした。たった1人の匿名ブロガーの声が国を動かす結果となったのだ。

いま、世界に類を見ないほどのスピードで高齢化が進みつつある日本は、2つの大きな問題を抱えている。「少子化」と「労働力不足」である。

その2つの問題を解決に導く鍵となるのは、「働くお母さん」という存在である。しかし、子どもを産んでも保育園に預けることができず、職場復帰も望めない女性が多くいるというのが日本の現状だ。

日本では、女性の社会進出が、先進諸国と比べて大幅に遅れていることをご存じだろうか。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート2015」で、男女格差をはかる「ジェンダー・ギャップ指数」が発表された。これは、政治への参加度合いや、職場への進出、教育など、さまざまな分野の項目をもとに男女平等の度合いを指数化し、総合順位を決めたものだが、それによると、調査対象145カ国のうち、日本は101位だった。また、日本は国際労働機関(ILO)などの国際機関からも、雇用慣行における男女の格差是正が遅れていることを、たびたび指摘されてきた。

つまり、われわれが考える以上に、この国は、依然として「男女平等」と言える社会からはほど遠く、世界レベルで考えても「働く女性にとって非常に厳しい国」であるということだ。

もちろん、日本政府も、ただ手をこまぬいているわけではない。

2014年10月、政府は女性の活躍を後押しするために「すべての女性が輝く政策パッケージ」を決定した。これは、女性が働きやすい環境づくりや子育て環境の改善を柱に、子育て、介護、働き方など6分野38施策で構成されたものである。遅きに失した感もあるが、政府にはぜひ、これらの施策の実現に全力で取り組んでもらいたいと思う。

女性の社会進出を促進するためには、女性を支えるインフラの整備が欠かせない。その手立てのひとつが、2015年4月にスタートした「子ども・子育て支援新制度」である。新制度の大きな柱となっているのは「認定こども園」の普及だ。いまや社会問題となっている待機児童を減らし、子育てに時間をとられている母親たちの社会進出をはかるのが狙いである。

しかし、ここにひとつのジレンマが生じる。女性が社会進出を果たし、仕事を持つようになると、どうしても出生数の減少が否めないということである。それでは、「労働力不足」問題はプラスに転じたとしても、「少子化」問題は深刻さに拍車がかかりかねない。

これまでの出生の実態を見てみよう。女性1人あたりの生涯出生数の平均を示す「合計特殊出生率」は、1940年代後半の第1次ベビーブーム期には4・3人を超えていたが、1950年に3・65人となって以降は急激に減っている。その後は、第2次ベビーブームを含め、ほぼ2・1人台で推移していたが、1975年に2・0人を下回ってからは、ふたたび低下傾向を示すようになり、2005年には過去最低である1・26人まで落ち込んだ。2013年には1・43人と微増したものの、いまだ低水準にとどまっている。

前述のとおり、「少子化」と「労働力不足」という2つの問題は、まさに国の将来を左右するものだ。それを解決するためにも、「女性の社会進出」と「出生数の増加」は、ともに必ず解決しなければいけない事案であり、政府はもとより、国民全体が創意工夫を凝らして克服せねばならないテーマである。

この「女性の社会進出」と「子育て支援」という二律背反の難しい課題に、正面から取り組んでいる民間企業は多くある。本書を執筆するにあたって取材協力をいただいた「アスカグループ」も、その一例だ。

アスカグループは、保育士を中心とした人材派遣・人材紹介事業を手がける株式会社アスカ(本社:群馬県高崎市、代表取締役会長:加藤秀明氏)を核としたグループ企業で、創業は1994年12月。アスカグループが保有する保育求人サイト「保育情報どっとこむ」に登録している保育士を、全国各地の保育所の要望に応じて派遣・紹介する、保育士専門の人材会社である。保育士のあいだでは、口コミなどを通じて、アスカグループの存在は広く知られている。

実際、「保育情報どっとこむ」への登録者数は4万人を超え、取引先保育所数は延べ4000カ所と、日本一の派遣・紹介実績を誇る。また、全国13カ所に支店を展開しており、毎月500人から600人の新規登録があるため、アスカグループが擁する保育士の規模は増大し続けているという。

アスカグループの企業理念は「社会貢献」である。

「人材ビジネスを通して世の中の役に立ち、そしてスタッフと社員の家族を大切にして、多くの人々に頼られるようになることが使命です」

と、アスカグループの創業者であり代表取締役会長の加藤秀明氏は語る。

加藤氏は、こう続けた。アスカグループが命題として掲げてきたのは、「保育士と保育所の期待に誠実に応えること」であると。

「保育士さんが願っているのは『よい職場で、よい賃金で働く』ということ。一方で保育所は『子どもの面倒見がよく、優れた保育士』を求めています。その双方の要望と期待に真摯に応えてきたことが、競争の激しい人材派遣業界で成長し続けることができた理由だと自負しています」

保育の現場に貢献するアスカグループは、同時に、女性の社会進出を推進させる試みも自社で実践している。アスカグループで働くスタッフの大半は女性であり、子どもを抱える「お母さん」も多い。本文でくわしく紹介するが、アスカグループは、女性たちが子育てをしながら働き、正当に評価されるしくみを、すでに確立しているのである。

また、そのしくみもさることながら、子育てと仕事を両立させようと奮闘する女性スタッフのたいへんさやがんばりを、経営陣が理解し、その力になろうとする姿勢を見せていることも、すばらしいと思う。

それに、このような取り組みを続ける企業があるということは、保育関係者だけでなく、育児休業から仕事へ復帰しようと考える女性にとっても、また、その女性たちの力を必要としている企業にとっても、なによりも心強いものに違いない。

本書は、日本の働く女性がおかれている現状や、保育現場の厳しい現実にスポットを当てながら、今後、われわれがめざすべき社会とはどんなものなのかについて述べていくものである。

子育て環境の充実は、いまや国をあげて取り組むべき課題である。それだけに、よりよい条件と環境のもとで保育所に就業することを希望する保育士や、優れた保育士を求める保育所・保育園の経営者のみならず、多くの一般読者にとっても、この国の未来を考えるうえで貴重な指針の書となるであろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

 2016年7月  鶴蒔靖夫


-----


はじめに


第1章 追いつめられる保育士たち

慢性的な保育士不足に悩む保育所
全職種平均より9万円も低い保育士の給与
国をあげて「潜在保育士」の職場復帰に注力
保育士と保育所のミスマッチの原因は
想像以上に苛酷な保育現場~追いつめられる保育士たち
エスカレートする保護者たちの要求


第2章 保育の現場から ― 国会に現場の声は届くのか ―

~高崎市保育協議会会長 狩野章に聞く~
 保育士の「数」と「質」をともに上げて『選ばれる園』をめざせ
~群馬県甘楽郡甘楽町町長 茂原荘一に聞く~
 子どもは町の宝、地域が、国が育てる覚悟を持とう
~現役保育士 篠村まどかに聞く~
 「フルタイムでも派遣」という働き方を選ぶ理由
~現役保育士 河藤洋子に聞く~
 経験の少ない潜在保育士が見つけた仕事のやりがい
国会に現場の声は届くのか
保育士を「生涯の仕事」にしてもらうには


第3章 子育て環境の整備に向けたさまざまな取り組み

「子ども・子育て支援新制度」から1年、いまだ解消されない待機児童問題
公表されたデータからは見えない「隠れ待機児童」
小規模保育所の定員拡大で待機児童問題を改善せよ
働く女性が利用しやすい企業内保育を増やせ
問題解決に向けた各自治体の取り組み
人口移動と切り離せない待機児童問題


第4章 女性が輝く社会の実現に向けて

日本がめざすべき「女性が輝く社会」とは
「結婚か、仕事か」「子育てか、仕事か」と二者択一を迫られる日本女性たち
女性の力は「我が国最大の潜在力」
求められるのは女性のライフステージに応じた支援
活躍推進に向けた全国的なムーブメントの創出
女性支援に不可欠な、子どもの保育・教育現場の充実


第5章 女性の社会進出を推進する企業

女性を支える仕事だからこそ、女性が働きやすい職場に
ウーマンパワーが支えるアスカグループ
女性だからこそ可能なスタッフとの絶妙な関係
産休・育休を取りやすい職場環境
パートでも管理職になれるキャリアアップシステム
ほかにもいろいろある、女性が働きやすい企業
「育休は取ってあたりまえ」を社会に浸透させよう


第6章 「お母さん」が大切にされない国に未来はない

女性の活用こそが日本の生き残る道
急がれる学童保育の充実
子どもの犠牲の上に成り立つ社会でいいのか
企業経営者は意識改革をすべし
ワークシェアリングの推進で子育てと仕事の両立を
「誰もが暮らしやすい国」の実現に向けて


IN通信社の本 セミオフィシャルサイトへ行く
-----


その他のカテゴリー

カテゴリー

無料ブログはココログ