感謝な心

2017/06/21

『感謝な心』 前書きと目次

Kanshaweb


感謝な心 Kansha na kokoro
 ~医療と福祉の垣根を超えた高齢者ケアの理想を追求~


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著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-417-4
初版発行:2016年1月15日
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 はじめに

「日本は高齢社会の現状を哲学的に変えていく必要があります」

こう指摘したのは、アメリカの老年学の教授であった。

日本が高齢化社会を迎えたのは1970年のことである。それからの約40年で世界一の高齢社会に上り詰め、いまや国民の4人に1人が高齢者である。高齢化のスピードは予想を超えたもので、家族のありようも、ライフスタイルも、経済活動も、大きな渦に巻き込まれるように、めまぐるしく変遷していった。

団塊の世代が75歳以上になる2025年が迫りつつあるが、それに対応する明確なグランドデザインはまだ描かれていない。介護移住や地方創生など、さまざまな案が立ち上がっては沈んでいる。圧倒的な財源不足のもとでの対症療法のみに追われる状況で、国にも個人にも「哲学」を生み出す余裕はないのかもしれない。

哲学とは、人の心に判断の基準を与え、未来の道標を示すものだ。それが希薄ないま、多くの老人が残りの人生に不安やおびえを抱きながら孤独に生きている。そして市民の大半は、そんな老人たちに無関心のままである。それぞれの心をつなげる共通のものが見つからないままなのだ。

介護保険制度が施行されて15年。国も個人も総がかりで、この先の社会のあり方を、覚悟を持って考えなければならないときがきている。

高齢者が幸せでない国は、国民全員も幸せになれない国である。誰もが自分の問題として取り組み、高齢者とともに未来を拓くつもりで動くことが必要ではないだろうか。

しかし、人々はなかなか動こうとしない。

そうした模索を続けるなかで、天宣会グループ理事長の西浦天宣氏と、仕事を通じて知己を得ることとなった。

天宣会グループは、千葉県東葛地区を中心にリハビリ総合病院、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどを運営している、医療法人社団および社会福祉法人の複合組織である。

西浦氏との出会いはなかなか強烈だった。最初に会ったときから「これは違う」とのインパクトがあった。強い理念の持ち主であることが、ほとんどすぐに確信できた。

はたして西浦氏は、介護老人保健施設(老健施設)の概念を日本で初めて提唱した人物だった。赤字病院の再建に奮戦するなかで、「人生の最後の日々を安らかに豊かにすごせる理想の施設を」という夢をふくらませた。そして独立後、ゼロの地点からほとんど独力で老健施設をつくりあげて、グループ化も果たした。

「口先だけの達人ならごまんといる。私がどんな人間で、どんなことを考えているかを知りたかったら、私のつくった施設を見てほしい」

余計なことは説明せず、そう促した西浦氏の要請を受け、私は天宣会の代表的な病院と施設をいくつか見てまわった。そして大きな感動を得ることになった。

圧倒的な規模の壁画や天井画、緑深い遊歩道、細やかな気配りが行き届いた飾りや小物など、高齢者施設とは思えぬクリエイティブな空間演出が展開されていたのである。しかも、部屋ごとに違う壁紙、どの部屋からも緑が見える構造など、細部にいたるまで徹底して利用者に配慮したつくりとなっていたのだ。

館内にあるもの、館外を構成するもの、すべての要素が連動し、癒やしと生きる喜びを利用者に与えていた。こんな施設が日本にあるとは驚きだった。しかも、その建物の構造から小物にいたるまで、すべて西浦氏の指示によるものだという。

施設内では、医療と介護の間の垣根は取り払われて、職員はみな平等にチームの一員としてリハビリやケアに取り組んでいた。西浦氏は職員に明言する。

「天宣会は人を助ける組織である。人を助けるためなら上司も飛び越えてかまわない」と。

アメイジングなつくりの施設も、職員へのメッセージも、すべては利用者優先の信念から生まれたものだ。

そうしたことのすべての基本になっているのが、「感謝な心」という、西浦氏がつくった独自の理念である。

「感謝な心」は、初めて聞く者には、只者ではない雰囲気が漂う謎の言葉だ。そこには、ひとりの人として向きあい、緊張感を持ちながら深い交流を続ける極意が秘められていた。

「感謝な心」は、「あなたと私」という対等な関係のなかで本当のやさしさを培い、その心を与えあっていくものであるという。だとしたら、それは世界中の人にも通じる理念ではないだろうか。

天宣会のような創造的な施設が増えていけば、日本の超高齢社会の光景も変わっていくことだろう。そうなってほしいという希望も込めて、この本を書くことにした。

といっても、天宣会の紹介でもないし宣伝でもない。西浦氏の話のなかから私自身が刺激され、学びにもなった部分を抽出し、また参考として、高齢社会の現状と課題を探っていこうというものだ。

ここから何を感じ取るかは、読者の感性と判断に委ねたい。この本をきっかけに、高齢社会のなかで自分にできることを考えてもらえれば、うれしいかぎりだ。

そして首都圏に住む人は、時間が許せば、天宣会の施設を一度覗いてもらいたいとも思う。このアーティスティックでヒューマンな施設を眺めて何かを感じ、それが起点になって自分の「哲学」が構築される可能性もゼロではない。

この本が、よりよい高齢社会をつくるために少しでも役に立てたら幸いである。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

  2015年12月  鶴蒔靖夫


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はじめに


第1章 病院らしくない病院、施設らしくない施設が訴えるもの

心を打った「感謝な心」
医療や福祉に関連する多様なサービスを手がける
施設の雰囲気は「文化度」を伝える
アートを意識した「北柏リハビリ総合病院」「北柏ナーシングケアセンター」
圧巻の天井画と癒やしの庭
自然を活かしつつ、独特の手づくり感のある庭
神社とマリア像
スタッフからの発言―外出時には家族も参加
個室と4人部屋が併設―特別養護老人ホーム「流山こまぎ安心館」
受診者本位の動線を採用している「柏健診クリニック」
老健第1号「梅郷ナーシングセンター」
いちばん質の高い食事
「家庭的」と「手づくり感」に天宣会の精神が込められている
建物そのものがイズムでできている


第2章 「感謝な心」の背景にあるものを探る

高齢者の医療・福祉の仕事は究極のサービス業
ずっと以前からあった高齢者虐待問題
現場レベルでもできることを
介護職に必要なものは理念、確固たる哲学
「感謝な心」が伝えるパワフルな理念
「利害関係」に含まれている深い意味
感謝の気持ちを分かちあう
「感謝な心」が生む「ここに来てよかった」という言葉
トイレに貼られている「おかげさまで」
「人間と人間」として接してほしい
信念にもとづいた長期にわたるやさしさこそ


第3章 介護とは創造的な仕事

2025年には介護職員が38万人不足する
低い報酬、国の責任
福祉には、そろばんははじかれない?
実は離職率は低い?
人材マネジメントの基礎「自分で考え、自分で行動する」
人を助けるとはどういうことか。職業的使命が打ち出す徹底したモラリスト精神
横のつながりを重視し、個として立つところにイノベーションは生まれる
お正月には餅を提供、逆転の発想のサービス
「かきくけこ」の精神をいつも念頭に
茶髪でもオーケー、みなが平等のチャレンジ精神
介護は楽しい、働く人も幸せでなければならない
キャリアアップ、現職員の80%が介護福祉士の有資格者


第4章 医療・福祉と経営(介護ビジネス)

厳しい変革の時代を迎える医療界
医療機関の倒産数
名医は必ずしも名経営者にあらず
医療機関は民間企業のノウハウを参照すべし
アメリカには20年もの遅れをとっている病院経営
病院経営は一般企業参加の時代に入った
患者本位を実現するなら、よい経営をすべき
病院再建の奮闘で身につけた経営感覚
医療現場と経営マネジメントの分離方式を直観で決断


第5章 介護保険と老健の存在意義

介護保険制度施行から15年
最初から破綻していた介護保険制度
老人の悲惨さを救おうと発案した日本版ナーシングホーム
医療と福祉の壁を取り払い、社会のニーズに応える老健
介護保険制度が促した第二の特養化
責任を持って出せる人しか出さない
在宅強化型への転換が生き残る道か?
社会福祉法人という存在の特異さ
社会福祉法人に改革を
社会福祉法人のM&A
老健のターミナルケア
ターミナルケアへの思いは篤い
老健の新しい存在意義とは
老健は地域の人にとって頼りになる存在


最終章 高齢社会という未知の領域に挑む

福祉立国スウェーデンの厳しい現実
医療・介護は成長産業となりうるか
介護の労働力が大幅に増えていく
介護職に外国人労働者を受け入れるということ
国に依存せずに行動していく
在宅介護は難しい
ちぐはぐな社会保障政策が「縮み」を起こす
チャレンジャーは常に時代の半歩先を行く
情熱こそが人を動かす
オリジナルで勝負する


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