大学からの地方創生

2017/06/22

『大学からの地方創生』 前書きと目次

Daigakukaranoweb


大学からの地方創生
 ~挑戦し続ける大学が地方を元気にする~


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著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-410-5
初版発行:2015年7月10日
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 はじめに

「地方が元気になれば、日本が元気になる」

政府はこうしたかけ声とともに、これまでも地域活性化のためのさまざまな施策を打ち出してきた。しかし、東京を中心とした大都市圏への人口流入は依然として続く一方で、地方では少子高齢化による深刻な人口減少問題に直面するところが多く、格差はなかなか縮まらない。

そうした状況下、安倍晋三内閣では、地方の人口減少問題に本腰を入れて対処するべく、「地方創生」を重点政策のひとつに掲げている。若者にとって魅力ある町づくり、人づくり、仕事づくりを推進することで、地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を食い止めようというのがねらいだ。

政府は地方創生の一環として、地方の大学の活性化をも企図している。地方の大学への進学者を増やし、地元への就職を促すことで、人口減少に歯止めをかけようというわけだ。そのためにも、国公立・私立を問わず、地方の大学には、地域再生・活性化の核としての役割が期待されているのである。

しかしながら、現実問題として、地方の私立大学のなかには、少子化による18歳人口の減少により、学生の確保に苦慮し、経営が不安定となっているところも少なくない。日本私立学校振興・共済事業団が行った平成26(2014)年度の調査によると、全私立大学603校中、実に46%の大学が定員割れしているという厳しい状況だ。

ましてや大学関係者は、目前に迫った「2018年問題」に危機感を募らせている。いまは横ばい状態にある18歳人口が、この年からふたたび減少に向かい始めるのだ。そのため、大学間の志願者獲得競争がいちだんと熾烈をきわめることは想像に難くない。定員割れの大学がこれまで以上に続出し、経営破綻に追い込まれるところも出てくるだろう。大学の淘汰・再編が本格化し、小規模の私立大学は相当数が消滅の危機にさらされるのではないかと指摘する声もある。

地方大学の行く末に暗雲が立ち込めるなか、

「地方再生の核となる大学を潰すようなことがあってはならないと思うのです。それに、学校は持続してこそ社会的に意義を有するものであり、永続性の確立は私学経営者の使命です」

と言い切るのが、本書で紹介する高崎健康福祉大学の理事長兼学長・須藤賢一氏である。

地元(群馬県)では「健大」と呼ばれ、親しまれている同大学の前身は、群馬女子短期大学。それが平成13年に開学して、いまや医療・福祉・教育分野の総合大学となり、15年という節目を迎えている。

須藤氏が、群馬女子短期大学の創設者である叔母の須藤いま子氏の遺志を継いで理事長に就任したのは、平成10年のこと。このころにはすでに少子化が進みつつあり、短期大学のままでは生き残れないとの考えから、四年制大学を立ち上げることにした。その際、少子高齢化の将来を見すえ、時代のニーズに応えるべく「福祉や医療を学べる大学をつくろう」と決意したのだという。

「人類の健康と福祉に貢献する」を建学の理念とする同大学は、設立当初の1学部3学科体制から、いまでは人間発達学部、健康福祉学部、保健医療学部、薬学部の4学部7学科体制へと教育範囲を広げた。学生数は、大学院も含めると約2400人にのぼる。

地方にありながら同大学がとりわけ注目に値するのは、なんといっても受験志願者数の多さにある。医療系の専門学部では毎年、志願倍率4~6倍を誇るほどの人気ぶりで、全学部平均でも3倍を超えている。

人気の要因は、教育内容を医療、福祉、教育の分野に特化し、それぞれの分野におけるスペシャリストを育成している点が、まず挙げられるだろう。さらに、一学年の定員を学科ごとに40~100名に抑えた少人数制によるきめ細かな指導や、最新の施設・設備の充実ぶりにも定評がある。

また、平成26年10月には、大学に隣接する敷地に「高崎健康福祉大学附属クリニック(健大クリニック)」を開設している。整形外科とリハビリテーション科からスタートし、平成27年4月には内科を開設。また、同時に「訪問看護ステーション」「女性・妊産婦ケアステーション」も新たにオープンした。

同大学は「地域に開かれた大学」「地域に貢献できる大学」をめざしており、また理事長の須藤氏は「21世紀は健康の世紀になる」と考えていたため、大学設立当初から、いずれはクリニックを開設したいという思いが強くあった。学部の範囲も広がり、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、社会福祉士などコ・メディカル人材を養成するようになったいま、いよいよ機が熟したということだろう。

実は、私は以前にも、地方にあって特色ある教育を展開する同大学の人気の秘密に迫ろうと、須藤氏へのインタビューなどをもとに『夢のその先に』(IN通信社刊/平成20年発行)と題する書を上梓している。

当時は、3学部5学科を擁する大学のほかに、群馬女子短期大学から改称改組した短期大学部が併設されていたが、短期大学部は平成24年に四年制に改編され、人間発達学部子ども教育学科となった。ほかにも学部・学科の改編が行われ、看護学部は保健医療学部と名称を改め、看護学科のほかに新たに理学療法学科が加わり、チーム医療に必要なさまざまな知識を学べる環境が整えられた。

そして大学設立15周年を前に、念願のクリニックの開設にこぎつけたというわけだ。

このクリニックは、同大学の学生・教職員の健康管理センターや学生の実習施設として機能するだけでなく、地域住民が利用できる医療施設としての役割も担っており、まさに「地域貢献」を具現化したものとなった。同時に、クリニックの開設は大学自体の付加価値を高めることにもなりそうだ。

同大学では、このほかにも「地域に開かれた大学」として、地域住民の一般参加を目的とした医療・福祉・教育分野の公開講座の開催、学生のボランティアや市民活動への参加、子ども・家族支援センターの設置など、地域密着型の活動を積極的に行っている。これらの点も、地域の人たちに「健大」として親しまれ、県内外の若者たちから支持を集める要因として挙げられるだろう。

もうひとつ、同大学を特徴づけているのがキャリアサポートの充実ぶりだ。

「きめ細かな指導で学生たちの持つ可能性を育てています」

と須藤氏が自負するだけあり、看護師、理学療法士、管理栄養士など、国家資格の合格率は98%前後と、全国平均を大きく上回る高い率を毎年維持している。また、教職や保育者をめざす学生には、各学科の教員および教職支援センターが一丸となって、学生一人ひとりに対し、採用試験合格に向けての徹底した支援を行う。

さらに、学生たちの就職活動を全面的にバックアップするのがキャリアサポートセンターだ。就職率は毎年90%を上回り、なおかつ学生たちの80%近くが、大学で学んだ医療・福祉・教育等の専門分野を活かした仕事に就いているという。

こうした国家試験合格率や就職率の高さが、受験生やその保護者からの評価につながっていることは言うまでもない。

超少子高齢社会を迎えつつある日本では、今後も医療や福祉分野の専門知識や技術を有する人材のニーズは高まる一方だ。理事長として学校経営を委ねられた須藤氏は、改革を推し進めるにあたり、その点にいち早く着目。医療・福祉のスペシャリストの育成や、地方創生の核となるべく地域密着を前面に押し出した特色ある教育を展開してきた。

また、平成27年4月22日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、「どう育てる? グローバル人材」と題された特集のなかで、同大学の薬草園での取り組みが紹介された。

東アジアで注目を集める漢方薬。同大学で行っている生薬の研究を、ベトナムの薬科大学とパートナーを組み、この分野でのグローバル化を図ろうという試みだ。成長の見込まれる特定分野に絞り、グローバルな人材を育てていく計画だ。

そうした独自性を打ち出したことが功を奏して、四年制大学としての歴史はまだ浅いにもかかわらず、「新設、地方、小規模」という一般にはマイナスととらえられがちなイメージをことごとく払拭した。少子化の波が押し寄せ、多くの大学が受験志願者獲得に苦戦を強いられるなか、同大学の健闘ぶりが際立つ。

「大学も、常に動いていることが受験生の注目を集めるための必要条件ではないか、と考えます」

と語る須藤氏は、開学以来、学部・学科の増開設や再編を行うなど、常に攻めの姿勢で進み続けてきたことも成功の要因ではないかととらえている。

平成26年度には、大学院保健医療学研究科看護学専攻修士課程に、助産師を養成する助産学分野を新設。少子高齢社会だからこそ、確かな知識とノウハウを持つ助産師を養成し、即戦力となる人材を育てたいとの考えだ。

また、このところの高崎健康福祉大学高崎高校野球部の甲子園での活躍も、健大の名を全国的に知らしめるのに大きく貢献しているのではないだろうか。いまや甲子園の常連校となりつつある野球部は、平成27年春の甲子園で準々決勝にまで駒を進めた実力を持つ。

須藤氏の胸の内には、さらに大学の新学部開設の構想も描かれているようだが、一方で学園全体としては、既存の附属幼稚園と高校に加え、小学校・中学校の創設も検討中とのことだ。今後も同大学の動きにますます目が離せそうもない。

本書は、大学淘汰の時代が迫り来るなか、独自性を打ち出すことで地方大学経営の可能性を広げた高崎健康福祉大学のさまざまな取り組みを紹介しつつ、理事長兼学長・須藤賢一氏の教育理念と経営哲学に迫るものである。大学進学を志す受験生やその保護者のみならず、教育に携わる人々、そして日本の教育問題に関心を寄せるすべての人にとって、本書がこれからの教育のあり方を考察するうえでの一助となれば、これに勝る喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

  平成27年6月  鶴蒔靖夫


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はじめに


第1章 地域に開かれた「健大クリニック」を開設

大学に隣接した附属クリニックがオープン
整形外科と内科がそろい、いよいよ本格稼働
地域住民の健康寿命延伸に貢献するために
臨床実習の場としてチーム医療の実践を学ぶ
在宅医療への貢献を見すえた訪問看護ステーション
女性にとって心強い、女性・妊産婦ケアステーション
クリニック以外にも地域密着型の活動が目白押し
地域貢献を促進するボランティア・市民活動支援センター


第2章 医療・福祉・教育分野の総合大学、高崎健康福祉大学

建学の理念は「人類の健康と福祉に貢献する」
人間愛を基盤にした全人教育を実践
少人数制によるきめ細やかな教育
チーム医療を担う人材を育てる保健医療学部
看護師育成の需要に応じて定員を100名に増やす
予防医療分野で期待される理学療法
福祉マインドを持った福祉・介護の専門職を育成
医療と情報技術の2領域が学べる医療情報学科
健康と栄養のスペシャリストである管理栄養士を育成
医療や創薬の最前線に立てる力を養う薬学部
保育・教育の高度な専門職を養成する人間発達学部
自分なりの保育観・教育観の確立を
独自のグローバル化策により世界で活躍できる人材を育成


第3章 学生の進路を全力で支援するキャリアサポート体制

安定性を求める若者に根強い資格志向
全国平均を大きく上回る国家試験の合格率
教員が一丸となって国家試験合格を徹底サポート
全員受験・全員合格をめざして
安易に妥協することなく弛まぬ努力が実を結ぶ
教職、保育職をめざす学生のための「教職支援センター」
就職活動を丁寧にバックアップする「キャリアサポートセンター」
医療現場の人材不足に対し、高まる地方大学への期待
地域貢献への評価が高い就職率を後押し
卒後教育を視野にリカレント教育にも注力


第4章 「地方創生」と地方大学に求められる役割

人口減少克服のために政府が掲げる「地方創生」
地方創生に向けて意識変革が求められる地方大学
地方の中小私立大学支援への特別補助も
受験生の支持を集める魅力ある大学づくり
将来なりたい職業を意識した大学選びの傾向も
いよいよ現実味を帯びてきた「2018年問題」
学生の関心を引きつけられるかが生き残りのカギ
必要に迫られる大学教育改革


第5章 理事長・須藤賢一の教育理念と経営哲学

「森林総合研究所」で好きな研究に打ち込む
研究者から教育者へ、第2の人生がスタート
女子短大から共学の四年制大学への転換
経営者に求められる「分析力」「決断力」「実行力」
学園の永続性を図り、教職員の生活を守る
生来の人徳と人を引きつける力
大学の使命は教育と研究の両輪にあり
「自利利他」の精神を教育理念に掲げる
社会と向き合い、地域に貢献できる大学として
弛まぬ改革で進化し続ける


第6章 高崎健康福祉大学が描く未来図

コ・メディカル養成のさらなる学部学科増設の可能性
発展性が期待される人間発達学部のこれから
食糧危機に備えて農学部新設の構想も
地域住民の「well‐being」をサポートするために
地域の薬学ネットワークで課題解決に取り組む
小・中学校の新設で一貫教育体制の確立も視野に
高大連携事業の推進で選ばれる大学へ
地域での評価を確たるものにするために


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