薬局新時代 薬樹の決断

2017/06/22

『薬局新時代 薬樹の決断』 前書きと目次

Yakujuweb


薬局新時代 薬樹の決断
 ~「まちの皆さま」の健康を支えるために~


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著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-409-9
初版発行:2015年6月22日
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 はじめに

医師の処方せんを扱う調剤薬局が一般的になり、医薬分業率が七〇%近くに達している現在。

最近は「医薬分業は国民のためになっているか」という再点検の声が、医療関係者だけでなく行政サイドからも起こり、メディアでもとりあげられるようになってきた。

先日、テレビ東京の経済情報番組「ワールドビジネスサテライト」(WBS)でも、「医薬分業は誰のため~患者負担をどう軽減するか」というタイトルで、医薬分業に関する特集が放映された(平成二十七年三月十七日)。患者目線で医薬分業をもう一度考えてみるべきという提言が盛り込まれた内容で、院内処方に戻した医療関係者や患者が主な発言者となっていた。調剤薬局には厳しい印象があったが、そのなかで薬局の新しい役割を打ち出す実例として紹介されたのが、「訪問薬樹薬局瀬谷」の薬剤師の活動である。

訪問の薬剤師は、在宅治療の患者をケアするチーム医療のメンバーの一員である。在宅治療のがん患者の家にあがり、「お薬はうまく飲めていますか?」と同じ目線で確認。上あごを切断したという女性患者が「大丈夫」という表情でうなずくと、症状を見ながら一つひとつの薬の説明に入る。患者の家族は「月に一回訪問される薬剤師さんには、いろいろ勉強させてもらってありがたい」と、安心した様子で語っていた。

番組のコメンテーターである大和総研チーフエコノミスト・熊谷亮丸氏は、調剤室から飛び出した新しい薬局の手ごたえを感じたのだろう。「やる気のある、ああいう薬局が伸びていくような、そんな世の中にしなければいけないですね。付加価値のあることが必要だと思います」と感想を述べた。

本書でとりあげるのは、この訪問薬局を運営する「薬樹株式会社」。新しい理念と提案を掲げ、地域社会と共に歩む二十一世紀型の薬局である。

薬樹の代表取締役社長・小森雄太氏は、

「薬を売ることより健康を守ることが、本来、薬局の果たす役割です。実績を積み上げて、頼りになる存在として地域に根ざしていく必要があると思います」

とコメントした。

小森氏は本書の中心人物で、医療人としての自覚を強く持ち、かつ経営者としても次世代を見すえた発想力と行動力を堅持。薬局のあるべき姿を追求し、成長力ある事業を次々と展開している人物である。

番組のテーマは、医薬分業における患者の自己負担の実態に関してであったが、在宅医療の現実と支援の様子が強く印象に残るものとなった。

薬樹株式会社は、首都圏を中心に一都五県に調剤薬局を約一五〇店舗展開している企業である。

調剤薬局は現在、全国に約五万五〇〇〇店ほどもあり、その数はコンビニエンスストアを上回っている。全国展開している企業もあり、調剤市場は六兆円超えという一大マーケットとなっている。

そのあまたある薬局のなかでも異彩を放っているのが「薬樹株式会社」であることは、ずいぶん前から意識していた。

昭和三十九年生まれ、経営者としては若い五〇歳の小森氏は、創業者である父親の侃氏から受け継いだ薬樹株式会社に独創性と近代性による改革を遂行し、新しい薬局をめざして挑戦を続けている渦中にある。

ダイナミックな動きのなかで、現在のスタンスを最も簡潔に表していると思われるメッセージはこれである。

「薬樹は、あえて全国展開はせず『地域に根ざした薬局』をめざしています。単に処方せんに従ってお薬を提供するだけでなく、一歩進んで地域の皆さまの健康なライフスタイルの実現をサポートしていきます」

ここには、これからの超高齢社会にとって重要な、三つのコンセプトが提示されている。①地域密着、②処方せんがなくても気軽に入れる薬局、③地域のヘルスケアの中心的役割、の三点だ。

そのコンセプトを具現化すべく打ち出したのが、薬局であることの原点とも言える「健康ナビゲーター」宣言(健ナビ宣言)である。

平成二十一年から出店を開始した「健ナビ薬局」の特色は、管理栄養士が店の顔となり、食生活や生活習慣の改善の指導にあたること。薬剤師と管理栄養士の連携によって、一人ひとりに合った健康プランを提供し、地域の健康度アップに貢献しようというものである。六年目を迎えた現在は「健ナビ薬樹薬局」として各地域に定着し、管理栄養士のアドバイスを受けるため、わざわざ電車に乗って訪れる客も少なくないという。「かかりつけ薬局」として地域の予防・未病の拠点に育っていこうとしている。

健康ナビゲーターの役割でもうひとつの柱となっているのが、テレビ番組でも扱った在宅医療である。薬剤師による在宅医療は、始まって間もない分野と言ってよく、手がけている薬局はまだ少数である。薬樹は平成二十二年から訪問健ナビ薬局として先陣を切るかたちでスタートし、現在「訪問薬樹薬局」として首都圏に三店舗を展開している。

注目すべきは、ターミナルケアを中心に居宅をまわるという業態である。残された日々を自宅で過ごす患者と向き合い、「最後の薬剤師」として触れ合う体験は、医療人としても人間としても大きな影響を受ける。本文中には訪問薬樹薬局の立ち上げからかかわってきた薬剤師の証言を掲載したが、生と死の最前線で訪問医師や家族、患者の間で交わされるやりとりは、重たい感動を伝えるものである。

つながりを持った人々の一生を丸ごと看ようという小森氏の思いは、地域に根ざした医療人の覚悟と言えよう。

薬樹の理念(薬樹では「〝進〟理念」と言う)は、

「まちの皆さまと共に、健康な毎日をつくり笑顔とありがとうの輪を広げる」

である。小森氏の魅力は、こうした「深さ」と同時に「広さ」をいかんなく発揮しているところにある。

健康へのこだわりは、突き詰めると個人の健康だけにとどまらないとして、小森氏が生み出したのは「健康な人、健康な社会、健康な地球」のすべてを包括した「健康さんじゅうまる」という概念であった。

「地域社会や自然環境という広がりのなかでとらえ、これらすべてが満たされていることが真に健康な状態」と小森氏は提言する。

「健康な社会」「健康な地球」をめざして、薬樹グループではそれぞれ特色のある取り組みが行われているが、代表的なものは、地域の障がい者が働く「特例子会社・薬樹ウィル株式会社」であろう。そこで働く障がい者たちの存在を通して社員たちがやさしさを取り戻していくという話は、現代社会に貴重な示唆を与えると思う。

また、「健康な地球」をめざして立ち上げたNPO法人「Liko‐net」と「スロースタイル薬樹薬局Liko」は、商品を購入することで地域や地球への貢献ができるという新しいライフスタイルを提唱している。東京の麻布十番にある「スロースタイル薬樹薬局Liko」では、地球にやさしい商品の販売と共にエコ関連のイベントも頻繁に行われ、地域の人たちにとって自然との共生を再考する大事な場所になっているという。

そうした「深さ」と「広さ」に加え、「新しさへの挑戦」も忘れてはならない要素である。

三菱商事との業務・資本提携を皮切りに推し進められている、異業種・異業態とのアライアンス。サプライチェーンの全体最適化をめざして開発・導入した業務サポートシステム「PRESUS(プレサス)」は、日本初の薬局版POSシステムとして話題を呼んだ。システム導入にいたる経緯はまことにドラマチックであるが、小森氏もスタッフも、よくこれほどの困難に合いながらも撤退しなかったものだと感心させられる。変わることへの恐怖に立ち向かい、それを乗り越える様子は、ぜひ本文を読んでもらいたい。

小森氏の話を聞きながら幾度も浮かんできたのは、「まちの小さな薬局から、新しい風が吹いている」という印象であった。地域医療に携わる薬局は、社会インフラの一環を担っているという強い自覚。薬局の職域として、日本の社会保障制度を守る責務があるという深い認識。

外に向かって挑戦を続ける薬樹は、新しい薬局のかたちを見せると同時に、新しい社会に向けた啓発と連帯の種を振りまいていることを実感する。

本書は、薬樹株式会社の事業活動を紹介すると同時に、小森氏の理念、足跡に関しても詳しく語っている。親子二代にわたる型破りな人間ドラマを存分に味わってもらいたい。

同時に、医薬品関連の事業に携わっている人のみならず、過渡期を迎える医薬分業を窓口にして超高齢社会のあり方を考えていく、貴重な指南の書となるであろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

  平成二十七年五月  鶴蒔 靖夫


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はじめに


第1章 超高齢社会に求められる薬局・薬剤師の役割

社会保障にとって最大のヤマ場「二〇二五年問題」
地域かかりつけ推進改定と受けとめる 
医薬分業、日本の歴史はまだ四〇年 
薬局の店舗数はコンビニエンスストアよりも多い 
医療提供施設のひとつとして位置づけられる 
調剤医療費の増加と批判 
医薬分業のそもそもの目的とは 
門前薬局型ビジネスモデルの終焉 
六年制の薬剤師の時代に 
地域包括ケアシステムにおける薬剤師の役割 
薬局にしかできないことを追究 


第2章 地域のかかりつけ薬局に ~次世代型薬局・健康ナビゲーター

まちの健康ナビゲーター、健ナビ薬樹薬局 
管理栄養士常駐の画期的スタイル 
「クスリ屋」から「健康支援」へ 
産みの苦しみを経て誕生した「健康ナビゲーター」 
五年間は学びの時期、毎年二割の成長
手本も何もないところから始まって 
『健康ごはん』出版、管理栄養士の奮闘は続く 
地域の健康をサポート、薬不要になるのを喜ぶ薬局 
調剤業務に特化した薬樹薬局、健ナビ薬局との連携 
在宅医療に薬剤師が加わりはじめた 
最も困難なターミナルケアから始めよう 
二四時間、三六五日態勢の在宅医療 
チーム医療に携わる一員として、命と向き合う薬剤師 
その人らしい逝き方を支える使命 ― 訪問薬剤師第一号・永瀬航の話 
訪問栄養士の役割とユニークな見守り 
東日本大震災の試練を通して薬剤師と管理栄養士が認め合う 
原点回帰 ― 地域のかかりつけ薬局として 


第3章 薬樹の理念 ~さんじゅうまる・エコ活動・オハナ

全一四七店舗のリニューアル、新生薬樹に込められたもの 
「健康さんじゅうまる」とは 
「健康さんじゅうまる」のもとで取り組むさまざまな事業 
すべての人と家族であり仲間である「オハナ」 
「クレド」に掲げられていること 


第4章 革新的システム実現による次世代型薬局の姿

国民を驚かせた「くすりの福太郎」事件 
オペレーションシステム「PRESUS」の効果と特徴 
在庫確認と発注作業は職人技の世界だった 
早い時期から取り組んできた業務効率化、PRESUSに変えることに全員が反対 
混乱を乗り越え、もう元には戻れない 
PRESUS導入後のメリット 
PRESUSを広めるのは私企業の利益を超えた社会正義ゆえ 


第5章 小森父子、二つの異なる個性が飛翔の力を生んだ

薬剤師のいない薬局、誕生 
ドクターと連携、新しい調剤薬局スタート 
社名は「薬樹」に決定、命名者へのお礼はクロスの万年筆 
「八・九・一〇」の符号 
ケンカあり家出あり、自立心が生んだ反抗の少年時代 
推薦で日大薬学科へ 
大学院では死に直面し、MR時代は人間の普遍的欲望を知る 
三〇歳を機に武田薬品を退職し薬樹へ 
異様で不思議な会社だった薬樹 
貸し剥がしにあい、綱渡りの日々 
「やらない」と決めたこと 
放浪の日々、今日はどこへ行こうかと 
二度目の「八・九・一〇」 
広さと深さ 


最終章 人を育て地域を守り健やかな社会をつくる薬樹

日本の医療問題を解決するキーパーソンとして 
未病・予防への働きかけ 
異業種との連携 
変えるべきことと守るべきこと 
障がい者も地域を構成する一員として迎えて 
志を同じくする人財にきてほしい。チームづくりの第一歩は「共感」 
近未来の薬局はドラスチックに変化する 
まるごと一生お世話をするのが地域の薬局の責務 


◦コラム◦
《顧客の懐深くまでかかわっていく》 神奈川事業部 事業部長 吉田圭吾  
《一人前になるためのお膳立てをするのが自分の役割》 東京事業部 事業部長 町田剛  
《自らのキャリアをデザインし実行できるスペシャリストの育成を》 常務取締役 吉澤靖博  
《元祖・健ナビ、健康さんじゅうまる》 NPO法人Liko‐net理事長 照井敬子  
《PRESUS導入奮闘物語》 情報本部 本部長 兼 営業推進本部 本部長 金指伴哉  


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