技術立国 日本の復活

2017/12/11

『技術立国 日本の復活』 前書きと目次

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技術立国 日本の復活


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-385-6
初版発行:2013年6月21日




 はじめに

平成二十四(二〇一二)年十二月、日本中が歓喜に湧いた。

京都大学教授・山中伸弥氏にノーベル生理学・医学賞が授与されたのだ(英・ケンブリッジ大学名誉教授・ジョン・ガードン氏と共同受賞)。受賞理由は、世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)をつくり出したことによるものだ。

iPS細胞の登場により、生命科学はこれまでとはまったく異なる次元に足を踏み入れていくことになった。いまや世界中の研究所、大学、医療ベンチャーや医薬品メーカーがiPS細胞の実用化に向けた研究に取り組んでおり、かつてない熾し烈れつな競争が繰り広げられている。

ものづくりから知財立国へ。日本はいま、歴史的な転換点に立っているといえるだろう。たしかにiPS細胞をつくり出したのは日本だが、今後は世界レベルでの研究・開発(R&D)競争に打ち勝っていけるだろうか。

その行方が案じられてならない最大の理由は、日本のR&D環境が欧米諸国と比べ、いや、最近では中国、シンガポール、インドなどの新興国と比べてもかなり見劣りすることが国際競争力の足を引っ張っていることにある。

日本の国際競争力は一九九〇年代には世界のトップクラスを誇っていた。しかし、その後急落し、二〇一二年では世界第二七位となっている。ちなみに第一位は香港、第二位は米国、第三位はスイスで、近隣の競争国である韓国は第二二位、中国は第二三位と日本の上位にランキングされている。

日本の競争力低下が、すべてR&D環境の立ち遅れに起因すると断じるのは行き過ぎだろう。だが、人間は環境の動物だといわれている。恵まれない環境にあれば研究の効率が下がり、研究者のモチベーションも高まるわけはない。

三十五年前、日本の劣悪なR&D環境をなんとかしなければと立ち上がった男がいる。本書で紹介するオリエンタル技研工業株式会社(本社:東京千代田区)の代表取締役社長・林進氏である。

「私は日本の研究環境やインフラがあまりにひどいことに怒りさえ感じ、なんとかしなければという思いから起業に踏み切ったのです」

と語る林氏は、理化学系の機器メーカーの仕事を通じて大学の実験室や研究所に出入りするうちに、3K(暗い・汚い・臭い)とまでいわれていたR&D環境をなんとかしなければ優秀な研究者が育たない、それどころか研究者志望の若者も減ってしまうという危機感を抱き、安定した職を捨てて起業を決意する。

創業当初は、よりよいR&D環境の実現をサポートするというビジネスモデルを理解してもらえず、苦しい時期もあったというが、現在では研究施設の設計・施工から装置や機器の開発導入、メンテナンス、リフォームまでをワンストップで手がけ、使う人(研究者)の立場になってもっとも使いやすく、居心地もよく、最先端の進化形R&D環境を実現する、ラボづくりの専門企業として際立った存在感を放つ企業になっている。

大学の研究室や実験室、創薬メーカーなどの研究室、実験動物室、バイオ実験室など、全国各地の重要かつ主要な研究施設への納入実績からも、オリエンタル技研工業が各研究施設からどれほど信頼されているかがうかがえるだろう。

林氏にとって、オリエンタル技研工業の成長・拡大以上にうれしいのは、最近では日本でもR&D環境に対する認識が高まり、まだ限定的ではあるが、質の高いR&D環境を備えた研究室が出現してきていることだという。

だが、大半のラボはいまなお決して満足すべき水準に達しているとはいえず、林氏の実感では、日本の研究施設は欧米、特に米国から十年以上は遅れているという。
こうした事情を踏まえ、現在、林氏の視点は二つの方向に向けられている。

一つは、R&Dの最先端方向だ。世界のトップ研究施設はすでに次世代型のグリーンラボラトリーとスマートラボラトリーをめざす方向に向かっている。グリーンラボとは地球環境を意識し、省エネ発想を貫いたラボのことをいう。一方、スマートラボは最新のICT技術(Information and Communication Technology=情報通信技術)に対応し、より自由で快適なデータ活用が可能になるラボをいう。

さらに進んで、グリーンラボとスマートラボを融合することにより、研究拠点全体のエネルギー効率が改善され、省エネ・省コスト化が大幅に促進される次世代、いや近未来型の研究施設も視野に入っている。

そうしたなかにあって、オリエンタル技研工業は研究施設を取り巻くすべての環境においてグリーン化を推進し、スマートラボの進化にも積極的に貢献していく決意を固め、研究施設づくりで世界の最先端を走ろうとしている。その一方で、研究者のモチベーションを高めるために、居心地のよさに最大限配慮したラボづくりにも全力を注いでいる。

もう一つの視線は、最先端ラボのキャッチアップを実現するために、ラボに新しいテーマや新技術に即応するリノベーションを積極的に進め、R&D環境を引き上げることだ。R&D環境を改善することは必ず、研究成果の結実に結びついていくと確信しているからである。

「ひらめきの出るラボをいかにしてつくるかがわれわれの使命」という言葉には、国内外のR&D環境を長年見つめてきた林氏の深い思いがこもっている。

資源少国で技術立国の道しかない日本にとって、R&Dには未来がかかっているといっても過言ではない。オリエンタル技研工業は、技術の生命線を握るR&Dの舞台になる研究施設、ラボ設備の専業企業として、今後の日本をしっかりと支えていく重要な使命を担っているのである。

さらに二十一世紀に入ったころからは、日本で唯一のラボプランナーである設計事務所「PLANUS(プラナス)」と共同で多くの研究施設を手がけるようになり、それまで以上にデザイン性あふれるR&D環境の実現に力を発揮している。また、ラボデザインの世界的権威であるケネス・A・コーンバーグ氏と固い絆で結ばれていることも、オリエンタル技研工業の大きなアドバンテージになっている。

本書では、日本の再生のためにも、日本のR&D環境の現状と世界との大きな距離に焦点をあてながら、R&D環境を充実させることの重要性についての再認識をうながし、さらには研究者をリスペクトし、研究者志望者を増やしていくためのいくつかの提言も試みていきたいと考えている。

同時にR&D環境の向上と進化に取り組んできたオリエンタル技研工業のこれまでの実績にもふれながら、さらには今後への大きな期待と可能性に筆を伸ばす。

オリエンタル技研工業創業者・林進氏の企業人としての足跡にもふれていきたい。三十五年前、誰も考えたこともない独自のビジネスモデルを発案し、今日まで育成してきた林氏の先見性、強い意志と実行力、さらに将来を予見する力などは、どの領域で生きていく場合にも力となる多くの示唆、教えを含むものだろう。読者にとっても貴重な指針となる一冊として愛読していただければ、これ以上の喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただくことを、あらかじめお断りしておく。

平成二十五年四月   鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 ノーベル賞受賞から見えてきた日本の研究開発のいま ――iPS細胞に見る、世界の激烈なR&D競争――

日本の大きな夢と希望
生命科学、医療の未来が革新的に変わる新技術
日本チームの受賞
マラソンで研究費集め
マウスまでは圧倒的にリード
間一髪の差だったノーベル賞
米国から帰国後うつになった山中
日本の研究環境は“後進国”だ
利根川博士も日本のR&D環境の立ち遅れを指摘
異常なカーブを描く日本の研究論文数
国の総力と見識が問われる時代へ
明日の研究者が出てくるか


第2章 研究開発からはじまる技術創造立国 ――モノづくり大国から知財大国への転換ははかれるか――

低下する一方の日本の国際的プレゼンス
経常収支の赤字続きは国の経済の危険信号
科学技術創造立国宣言
科学技術創造立国構想
第四期科学技術基本計画の概要
主要国の研究開発費の推移
トップ研究者に集中投資
主要国の研究者数とその中身
止まらない頭脳流出
人材のグローバル化を進める各国
研究の「場」の充実が急務
研究環境の改善をミッションとする企業
国も本腰を入れる研究環境の改善
知財産業の中核を担う創薬・医療産業
二〇一六年には一兆二〇〇〇億ドル市場になる世界の医薬品市場
日本の医薬品市場は世界第二位。だがメーカーの力は……
「二〇一〇年問題」のその先に


第3章 ノーベル賞が生まれるラボをつくる ――世界のラボを知り日本のラボを牽引してきたオリエンタル技研工業――

進化しつづける欧米の研究施設
研究施設の聖地・コールドスプリングハーバー研究所
地域一帯が“研究村”を形成
ファームリサーチキャンパスと呼ばれるハワード・ヒューズ医学研究所
この研究環境から米国の科学の奥深さが生まれる
連携スペースをどうつくっていくか
留学後、研究者が直面する日本のラボラトリーの現実
これまでの研究施設づくりではもう通用しない
研究環境づくりの歩を加速させた貴重な出会い
ラボデザインの世界的オーソリティ・ケン・コーンバーグ
ケン・コーンバーグと林の出会い
研究者が心地よく、研究成果も上がる最先端ラボのあり方とは
「インサイドアウト」という新たな発想方法
徹底的な聞き込みからはじめる
研究者の動きや思いを知り尽くしたオリエンタル技研工業のプロダクツ
人を中心に据えた研究環境をつくる
ケン・コーンバーグの新たな傑作・沖縄科学技術大学院大学
設計・デザインはケン・コーンバーグが担当
山中が率いる京都大学iPS細胞研究所
米国仕込みのオープンラボを実現
ノーベル賞受賞者が生まれるラボをつくる


第4章 ラボの進化とともに成長するオリエンタル技研工業 ――ラボ機器メーカーからラボ環境全体を構築するラボ総合企業へ――

3K研究室への怒りから起業
常識を塗り替える実験機器を開発
いまも主力製品の中核を占めるドラフトチャンバー
常にオリジナリティに富んだ製品で勝負
念願の自社工場を建設
大阪営業所の開設
全国に広がる営業拠点
グローバルネットワークの構築
品質のたしかさを実証するラボラトリーデザインセンター
実際にふれて試せるショールーム
常に世界基準を意識した製品づくりを推進
世界の厳しい製品テストをクリアした安心・信頼のモノづくり
ラボ文化の発信者として
軌道に乗ってきた人材育成


第5章 次世代R&Dで世界に貢献する ――グリーンラボ・スマートラボ時代を牽引――

R&D競争と日本の危機
理想の研究環境を追いつづけてきた
《グリーンラボラトリー》省エネを“見える化”したオリエンタル技研工業のグリーンラボ
《スマートラボラトリー》研究環境のすべてを二十四時間マネジメントするスマートラボ
《ラボ・リノベーション》最先端リノベーション技術で研究施設をアップグレード
高い評価を得ているオリエンタル技研工業の付加価値
世界でただ一つのビジネスモデルを確立したオンリーワン企業
アジアのラボづくりのリーディングカンパニーに

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