目覚めよ、薬剤師たち!

2017/12/12

『目覚めよ、薬剤師たち!』 前書きと目次

Yakuzaishiweb


目覚めよ、薬剤師たち!
~地域医療を支える薬剤師の使命~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-389-4
初版発行:2013年11月16日




 はじめに


現代人の生活は、多かれ少なかれ「薬」と無縁ではいられなくなっている。たとえば、病気になって医者にかかれば、たいていは薬が処方されるし、病院に行かないまでも体調不良と感じれば、薬局やドラッグストアで一般用医薬品(OTC薬)を購入するなど、なんらかのかたちで薬に頼ろうとする。

わが国では、その薬を取り巻く環境が、ここ半世紀あまりの間に随分様変わりしてきた。かつての薬局は“町の科学者”などと称され、地域の人たちにとっては健康に関する「よろず相談所」のような位置づけで、非常に頼りにされ、尊敬もされていた。

やれ子どもが熱を出しただの、ヤケドをしただの、何か困ったことが起きたら、まずは薬局に駆けつけたものだ。

しかし、ドラッグストアの台頭により、むかしながらの“クスリ屋さん”は徐々に姿を消し、代わって一九九〇年代後半以降、医薬分業により急成長を遂げてきたのが医師の処方せんを扱う調剤薬局だ。

さらに、ここにきて薬の販売方法にも新たな動きが見られる。安倍政権は成長戦略の一環として、インターネットによる一般用医薬品の販売を解禁する方針を打ち出したのである。いまではさまざまな取引がネット上で行われるようになったとはいえ、われわれアナログ世代からしてみれば、医薬品までネットで購入できる時代になったのかという驚きを隠せない。

日本医師会や日本薬剤師会などの業界団体は、安全性が確保できず、国民の健康を危険にさらしかねないとの理由から、ネット販売にはあくまでも慎重な構えだ。
では対面販売なら本当に安全といいきれるのだろうか。実際、薬局やドラッグストアでOTC薬を購入する場面を思い浮かべてみると、われわれがかつて体験した古きよき時代の薬局と違って、はなはだ心もとない気もする。

本来ならOTC薬についても、薬の専門家である薬剤師が患者からの相談に応じ、適切なアドバイスのもとに販売されるべきだろうが、そうしたシーンはほとんど見受けられない。購入する側も薬剤師の存在すら意識していないのではないだろうか。

残念ながら世間一般が薬剤師に抱いているイメージは、「調剤室に閉じこもって調剤作業をしている人」というものだ。医薬分業が進み、調剤薬局が増えるにつれ、そうしたイメージがすっかり定着してしまった感がある。

薬剤師自身も、調剤作業が自分たちの仕事と思い込んでいる人が少なくないだろう。処方せんどおりに正確かつ速やかに薬剤をピッキングして、できるだけ待たせないよう患者に手渡す。しかし、それだけでは薬剤師としての専門性は発揮されず、患者に対し存在価値を示すことができないわけだ。

すでに調剤の現場では、さまざまな作業が機械化されているという。薬剤師がいつまでも調剤作業にばかりとらわれていたのでは、この先、機械化がさらに進めば、薬剤師不要論さえ起こりかねない。

薬剤師の本来の役割は調剤作業ではなく、患者にOTC薬も含めた服薬を指導して効果をたしかめるとともに、副作用の有無をチェックすることにあるはずだ。

行政が医薬分業を強力に推進してきたのも、もともとは医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担することで、効果的な薬物療法を実現し、国民医療の質的向上をはかろうとの意図があったからだ。加えて、それまでの薬漬け医療を是正することで、増大しつづける医療費を抑制しようとの思惑もあった。

その結果、わが国の医薬分業は、いまでは六五%を超えるまでに至っている。病院や診療所の門前はもとより、町のあちこちに調剤薬局の看板が見られ、その数はコンビニエンスストアの数を上回るほどだ。薬局はすでにオーバーストアの様相を呈しはじめ、薬局業界はドラッグストアも交えての再編・淘とう汰たの時代に突入している。

さらに最近では、「医薬分業は果たして国民のためになっているのだろうか」と疑問視する声が医療関係者だけでなく、分業を誘導してきた行政サイドからも湧き起こり、メディアでも頻繁に取り上げられるようになった。

単に院内処方から院外処方に切り替えるだけでは、患者にとっては二度手間となり迷惑にほかならない。技術料などの費用負担も増しているわりに、その効果が実感できないというのが多くの国民の本音だろう。

こうした指摘は、当事者である薬局業界からもあがっており、本書で紹介する株式会社ファーマシィ(本社:広島県福山市)の代表取締役社長・武田宏ひろむ氏もその一人だ。

同社の創業は昭和五十一(一九七六)年。武田氏は東京薬科大学を卒業後、いったんは大手製薬会社に入社している。当時は薬剤師の免許を持っていても、保険調剤は医師に独占されてほとんど扱えず、薬局の薬剤師はOTC薬や物品販売に力を傾けざるを得ない状況だった。そのため武田氏にとって薬剤師は職業的な魅力がまったく感じられず、日本の医療分野における薬剤師と薬局の立場の弱さには、正直なところ失望していたという。

そんな武田氏がアメリカに渡り、目まのあたりにしたのが、医療人として医師と対等の立場で活躍する薬剤師だった。その姿に触発された武田氏は、日本でも確固たる薬剤師の職能を築き上げたいという信念のもと、医薬分業元年といわれた昭和四十九年の二年後に、国立福山病院(現国立病院機構福山医療センター)前に、最初の調剤薬局を開設。まさに医薬分業の先駆け的存在だった。

「当時の厚生省が医薬分業を明確に打ち出したことから、その将来性に賭ける気持ちだったのです」

しかし、武田氏自身が「無鉄砲な開業だった」と振り返るように、当初は国の舵かじ取りもむなしく、日本の医薬分業は遅々として進まなかった。そのため、国は医療機関が院外処方に切り替えると優遇措置を与えたり、院外処方の技術料を高く設定するなどの策を講じて、医薬分業を全面的にバックアップ。分業率は次第に高まり、一九九〇年代後半以降は目に見えて進捗したため、調剤薬局業界は著しい成長ぶりを見せてきたのである。

ファーマシィもいまでは中国・四国、関西圏、首都圏に七四の薬局を展開しているが、大手調剤薬局チェーンのM&Aなどによる拡大路線とは一線を画す。

「薬剤師の業務の質が問われようとしているいま、優先させるべきは規模の拡大よりも、中身の徹底した充実です。むしろ規模が小さくても、どうすれば生き残れるかを考えたほうがいい。私が薬局経営に乗り出したのは、いい薬剤師を育て、地域に根ざした信頼される薬局をめざしたいというのが原点でした。その思いは創業以来、一貫して変わっていません」

それだけに、薬剤師が単に調剤作業だけで満足していてはいけないのだと、武田氏はことあるごとにいいつづけてきた。「薬剤師は地域住民にとって健康相談のできる、いちばん身近な存在であるべき」というのが武田氏の持論だ。そのためにも、薬剤師は調剤室を飛び出し、地域に根ざした活動に積極的に取り組んでいかなければならないという。

超高齢社会を迎え、医療ニーズ、医薬品ニーズは今後もいっそう高まると思われるが、それを支える財源が逼ひっ迫ぱくしていることは周知のとおりだ。今後は医療、介護、日常生活を地域のなかで支援する地域包括ケアシステムへの移行が課題となっている。その中核となるのが在宅医療・在宅介護である。

同社では、薬剤師として本来の職能を発揮すべく、地域医療チームの一員としての在宅ケアにも力を注ぐ。そのため、無菌調剤室の設置や在宅専門薬剤師を配置して二十四時間三六五日対応の体制を整備するなど、患者本位の施策を次々に実施している。それでも武田氏にとっては、「まだ本来の薬局をつくれていない」との思いがある。

平成十八年から薬学教育が六年制に移行し、薬剤師の専門的職能への期待はますます大きくなっているはずだ。地域包括ケアシステムへの参画はもとより、地域におけるプライマリ・ケアの実践、セルフメディケーション支援など、薬剤師の活躍できるフィールドは今後、さらに拡大していくと武田氏は見ている。

その期待に応えられる「いい薬剤師」をつくるために、同社では教育研修を充実させるとともに、薬剤師の意識改革を進めている。

本書は、医薬分業の先駆けとして、「見える薬局・薬剤師」の実践をテーマに理想の薬剤師像を追求しつづけてきたファーマシィの事業活動、ならびに創業社長・武田宏氏の経営理念と哲学に迫るとともに、これからの地域医療における薬局、薬剤師のあり方について検証するものである。

本書をご一読いただき、薬剤師として医療に携わる人はもとより、これから薬剤師をめざそうとする人も含め、一人でも多くの方々が、薬局・薬剤師の本来の役割を見つめ直し、地域医療の未来のために大きく羽ばたく一助となれば、これに勝る喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

平成二十五年九月   鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 過渡期を迎えつつある「医薬分業」

行政主導ではじまった日本の医薬分業
分業率はそろそろ限界に近づきつつある?
処方せん調剤だけで患者満足が得られているか
専門性が発揮できなければ薬剤師の存在価値がない!
“経済分業”と揶揄される処方せんビジネス
医薬分業の費用対効果を疑問視する声も
調剤医療費不正請求の実態が明るみに
処方せん調剤のみの薬局は過去の薬局?
薬剤師は患者とのコミュニケーションが不足
薬学教育は創薬中心から薬剤師養成へ
薬剤師過剰時代がやってくる?


第2章 これからの薬局・薬剤師の役割とは?

チーム医療を支えるべく動き出した病院薬剤師
医師の薬剤師を見る目が変わった
病院の新機能として登場した薬剤師外来
在宅医療は薬局薬剤師の存在感を示す格好の場
薬剤師の使命感を持って在宅ケアに取り組む
本気度が問われる「訪問薬剤管理指導」の中身
薬剤師の視点で行うフィジカルアセスメント
在宅医療におけるCDTM(共同薬物治療管理)
病院と薬局の病薬連携を密にする
薬剤師が患者から引き出す情報は宝の山
「かかりつけ薬局」として薬の一元管理を担う
OTC薬を中心にセルフメディケーション支援


第3章 医薬分業の先駆け「ファーマシィ」の実力

経営理念は「地域に根ざした信頼される薬局の創造」
時代の要請に応え在宅支援薬局を立ち上げる
在宅では二十四時間三六五日体制の構築がカギ
薬剤師がかかわることで、安全・安心の薬物療法を実現
在宅医療ネットワーク「福山在宅どうしよう会」を発足
厚生労働省のチーム医療実証事業への参加
出雲地区でも地域の在宅医療チームに参画
行政と一体となって地域の在宅支援体制構築へ
地域住民の健康相談窓口として健康生活をサポート
薬局のさまざまな可能性をかたちにした次世代型薬局


第4章 患者に信頼される薬剤師を育成

社会人としての基本を身につける新入社員研修
ポジションに応じた研修プログラムと各種勉強会
現場での実践を重視した在宅医療研修
日ごろの研鑽や研究の成果を社内外で積極的に発表
大勢の前で講演することは薬剤師の自信にもつながる
薬剤師の職能を広げるNPhA主催の在宅医療研修
薬剤師は生涯学習を続けなければならない


第5章 創業社長・武田宏の経営理念と医療哲学

東京薬科大学を卒業後、大手製薬会社へ
人生を出直そうと決意し、アメリカに渡る
医薬分業の可能性を信じて調剤専門薬局を開局
日本でも確固たる薬剤師の職能を築き上げたい
医師への積極的なアプローチで医薬分業の道筋を
信用を担保に開局を支援してくれた恩人との出会い
地域の拠点として規模の大きい薬局づくりへ
自主運営の薬局をつくり薬剤師の士気を高める
全国の薬剤師向けの情報誌『ターンアップ』を発行


第6章 ファーマシィが提案する保険薬局の新しいかたち

調剤作業におけるテクニシャン導入の是非
“箱出し調剤”により薬剤師を調剤作業から解放
薬剤師のスキルが問われるリフィル処方せんの導入
プライマリ・ケアを担う身近な存在に
価値ある薬局をつくれば市場はまだいくらでもある?
生き残る薬局、消えゆく薬局
門前立地は終焉に向かい面展開へ
業務提携で一〇〇〇億円規模のグループ形成へ

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