経営の条件

2017/12/12

『経営の条件』 前書きと目次

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経営の条件
~会社存亡の危機から脱したときに得たもの~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-387-0
初版発行:2013年8月23日




 はじめに


「無縁社会」という言葉がある。

平成二十二(二〇一〇)年、NHKが制作した番組タイトルにつけられた造語であるが、ひとたびテレビで流されると、まさに時代の核心をついたものとして人々に強いインパクトを与え、多くの雑誌、新聞などでも紹介された。番組はその年の菊池寛賞を受賞した。

現代に生きる人々が抱える不安感の背後にあるものをずばりと突いていたからだろう。

日本では旧来、親族・地域社会・会社などで比較的濃密な人間関係が形成されてきた。こうした関係は地縁・血縁・社縁と呼ばれ、しがらみとなる一方で暮らしに欠かせぬ相互扶助の基盤となっていた。「縁」という目に見えない結びつきが、人々に安心と安全を与えていたのである。

だが近年、核家族化、高齢化、都市化の進展という急激な社会構造の変化にともない、社会や家族から孤立する人が増えていった。地域社会が持っていた支え合いのシステムが、次第に機能不全を起こしはじめたのである。

その結果、誰にも看取られることなく孤独死する人は年間で三万人を超えるという驚くべき現実が明らかとなり、この先、なんとかしなければとの試行錯誤がはじめられた矢先に起こったのが、東日本大震災である。

東日本大震災から二年以上が経過し、多大な犠牲を払って教えてくれたものは、人と人のつながりの貴重さではなかったろうかと改めて考える。

いま、私たちは無縁社会と呼ばれる澱おりのようなものから脱却する時期に来ているのではないだろうか。

日本人は他者を慮おもんぱかるというデリケートさを持っている人々である。そして「ふれあう」という心の交流を大事にする習慣も持っている。工夫と知恵を絞ることで、支え合いの精神を取り戻すことは不可能ではないはずだ。

とはいっても、過去に回帰するというのではない。新しいタイプの「縁」をつくることが求められている。

役所の画一的な手法を待っているだけでは、無縁社会の広がりは止められない。人とつながり支え合うことに希望の持てる社会を実現するためには、いま、自分ができること、やるべきことを見つけ、それがどんなに小さなことであろうと淡々と行っていくことがもっともたしかで効果的な方法だと思うのである。

本書で紹介する「セルモグループ」は、九州地区、関東地区、広島地区で冠婚葬祭互助会を展開し、新しいかたちの地域貢献と、共に支え合う互助のあり方を追求している企業である。

私がセルモグループに注目したのは、まず安田征史氏というリーダーが持つ独自の信念と、人間的な魅力、大きさであった。

時代を読み取るセンスと機敏さ、ひらめきから実践へと移す鮮やかなスピード感、周囲の人に夢と希望を与える熱い心……、どれをとっても一級であり、加えて清濁併せ呑む人間観の幅広さと、居丈高なところは微塵もない謙虚さの持ち主である。また、その交際範囲は驚くほど広い。

取材を重ねるなか、安田氏は「見えないところでコツコツと誰かのために努力すること」の大事さを何度も言葉を換えながら訴えつづけた。それが世の中を変えるエネルギーの源泉になるであろうことは、十分、想像できるものであった。

こうした安田氏の人間性に引かれ、セルモグループを調べていくと、それはやはり業界でも特異な存在であることが明らかになっていった。

創業したのは昭和四十三年。当時は父親の謙次氏との二人三脚による小さな婚礼センターにすぎなかった。それが冠婚葬祭を扱う互助会のかたちをとってからは、破竹の勢いで地域に浸透し、九州でも老舗しにせの互助会として大きな影響力を持つまでに成長を遂げる。その間、破は綻たん寸前の修羅場も体験するのだが、安田氏は捨て身で向かっていき、見事に危機をチャンスに変えて会社を再生させていった。

創業四十五周年を迎えた現在のセルモグループの輪郭は、関東および広島で事業を展開する「株式会社サンセルモ」(本社:東京都港区、代表取締役社長:安田幸史氏)と、西日本を拠点とする「株式会社セルモ」(本社:熊本県熊本市、代表取締役社長:岩上梨可氏)の二社を柱とし、結婚式場一〇カ所、葬祭場「玉泉院」五三カ所、法事会館一一カ所を擁する規模にまでなっている。

そのセルモグループが現在もっとも力を入れているのが、大切な人との最後のひとときを安らかに迎える葬儀の演出である。同社では、欧米で一般的になっているエンバーミング(遺体衛生保全)をいち早く取り入れ、故人と心ゆくまでお別れができる「ふれ愛葬」を提唱する。エンバーミングとは、遺体に消毒・防腐処置を施し、故人の姿の修復と復元を行う科学的技法である。生前の元気な表情を取り戻し、お気に入りの服を着て横たわる様子は、まるで眠っているかのような姿だという。家族も友人も故人の顔や手にふれながら最後の言葉をかける光景は、これまでの葬儀とは違い、温かで、厳粛で、かつ深い癒いやしが生まれてくる。

「大切な人とのお別れを温かく愛に包まれたものにしていただきたいと、私たちは“ふれ愛葬”でお送りするのです」

と安田氏は祭壇中心のこれまでの葬儀から故人中心に移行する、新たな葬儀の意義について語っている。

エンバーマー養成施設の設立も日本で初めて敢行し、いまやセルモグループのエンバーミングは質量ともに日本でもトップクラスの実績を誇っている。

とにかく、ひらめきとこだわりの強い人である。それは婚礼分野でも発揮され、九州地区では初の中世ヨーロッパ風の結婚式場や本格的チャペルを次々竣工。「エルセルモ」の名を冠した結婚式場は老舗の風格と豪華さで、九州地方を代表する結婚式場として広く知られている。

さらに平成二十四年には東京・代官山にいままでとはまったく違うテイストの結婚式場「鳳鳴館」をオープン。ブライダル業界に驚きと感嘆を与えることになった。大正ロマンをテーマにした洋館は、ノスタルジックとモダンさを融合した、まったく新しいコンセプトの結婚式場として、若いカップルのあこがれの的になっている。

セルモグループならではのサービスとしては、挙式の数時間後には結婚式の様子をウェブで閲覧できる「ウェディング・レポート」があげられる。まだ「YouTube」も広まっていなかった時期、安田氏のひらめきによって、超高速動画配信システムを独自に開発した成果である。

このように安田氏は、画期的な試みを数々実現し、発展させつづけてきた。

だが、その志や願望はさらに遠くを見据えていた。

それが、地域社会の活性化への取り組みである。無縁社会を乗り越えるのは人と人の結びつきしかないと考える安田氏は、地域全体の“縁”の掘り起こしというべきものにチャレンジしようとしている。一人暮らしの高齢者、老々介護、子育て支援……、そうした多くの人の手助けが必要な分野には、どんどんサービスの手を差し伸べていこうと動きはじめている。

それも互助会という枠を超え、地域密着で活動する人たちとタッグを組みながら、地域全体を対象にするという大きな取り組みである。これはまさに新しいつながりの提唱であり、地域社会の絆の復権につながる試みといえるだろう。

もちろん、現実に行われることは地道で、小さなことの積み重ねである。「小を積んで大を成す」は安田氏の座右の銘であるが、その言葉どおり、無縁社会を変えていくには一人ひとりの事情とニーズに合わせ、できることからやっていくしかない。

新しい支え合い、新しい互助とはどんなかたちか。それを追求しつづける、セルモグループは多くの人の一生を支援する存在になることをめざしている。

ささやかな縁を大事にする社会へ。支え合いと助け合いの気持ちを育はぐくむことが、本当の意味での社会貢献であり「人生産業」の創造といえるだろう。それが広がり、やさしい社会づくりの動きが高まることは、単なる夢想ではない。

本書は、安田氏の理念やこれまでの歩みを中心に構成されている。安田氏の生き方や言葉には、人生の指南書的な要素が含まれ示唆に富んでいる。企業の経営者はもとより、地域社会の活動に取り組む企業や団体、そして一般の人々にも、今後の歩みを考えるうえで、貴重な指針の書となるはずだ。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

平成二十五年六月   鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 人の縁に支えられた四十五年 ―経営者・安田征史の経営理念と人生哲学―

強いインパクトの人間観・人生観を持った人物
人生の原体験は旧満州からの引き揚げ体験
父の帰還と母の死
質屋が貸衣裳屋になって、大あたり
剣道で培った人の道
互助会として新たなスタート、しかし……
坂田親子との交流
互助会の誕生と発展の経緯
初めての納棺体験
割賦販売法の施行で互助会に社会性が与えられる
すべてを投げ打ち危機を回避
崖っぷちからの反転
鹿児島に自社施設第一号
大事なことはみんな鹿児島の体験から教わった
クロード・チアリとともに建てた傑作「くまもと玉姫殿」
ばってん荒川も参加
広島進出
安田を支える人との縁
行動規範「率先垂範」
上杉鷹山を自らの規範として
小を積んで大を成す
スピード、感性、情熱でマイナーのなかのメジャーに
めざすはマイナーのなかのトップ


第2章 人の縁に支えられた四十五年

「ふれ愛葬」で送られた上田馬之助
エンバーミング導入のきっかけとなった衝撃の事件
エンバーミングの第一の効果は感染症の予防
エンバーミングの起源
新しい送り方の創出
平成十二年に一万件を超える
安らかに眠っている姿で美しく
愛のふれあいを広げていったエンバーミング
お気に入りの衣裳を身につけて
“ふれ愛葬”を語る集合写真、ふれ愛の場
新しい死生観創出の時代に向けて
「ふれ愛葬」は葬儀革命
副社長・岡崎猛の葬儀と残したもの


第3章 二人の人生を支える感動を ―個性あふれるセルモグループのウェディング―

代官山に誕生した大正ロマンの空間「鳳鳴館」
いままでにはないものを!
失敗から反転、大入り満員へ
オリジナルの婚礼料理と二人のためのスイーツ
ネット配信で全世界をめぐる「ウェディング・レポート」
若者の心をつかむのが決め手
ユニークできめ細かいセルモグループならではのサービス
チャペルウェディングブームの先駆けからメッカとして
人生を豊かにしてくれる見えないサービス
風格の西日本、個性的な関東の式場
儀式から決意表明の場に


第4章 互助会の原点を見つめて

互助会の抱える問題
安田の理念1――敵はニーズ、最後の答えを持っているのはお客さま
安田の理念2――原点に返る、互助会は地域の人との共生
安田の理念3――コツコツ型でお客さまから入りたいといわれる互助会に
安定経営で顧客の利益を最優先
流れに乗るということ
地域貢献を超えた共生産業へ
地域と共に生きる
世代から世代へつなぐ会社に――保険事業が意味するもの


第5章 次代へ受け継がれるセルモのDNA

新しい世代の幕開け、新体制で発展を
現場を大事にして感動を生み出す
女性にしかできないこと、女性だからこそできることを大切に
安田会長に惚れて入社し……
小さいエリアで一番を重ね、ライフサポート全般を
あこがれの会社セルモに就職、現在は東京だけで一〇〇億円を目標に
時代を先取りした経営方針。事業部門制


第6章 人を育て、未来を育む

褒めてこそ人は育つもの
伸びるのは素直で向上心のある人
スポーツへの熱い想いとさまざまな支援
極上のひとときを満喫――「夢しずく」と別邸「蘇庵」
セルモグループの夢

〈安田語録〉

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