すべては学生のために

2017/12/12

『すべては学生のために』 前書きと目次

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すべては学生のために
~神奈川工科大学51年目からの挑戦~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-388-7
初版発行:2013年10月25日




 はじめに


大学改革は待ったなし!

平成二十四(二〇一二)年六月、文部科学省は「社会の変革のエンジンとなる大学づくり」をめざす「大学改革実行プラン」を公表、“大学機能の再構築”と“大学ガバナンスの充実・強化”を打ち出すとともに、ただちに実行することを明言した。そのプランを説明する文章のなかに、同省の本気度を示す言葉が次のように挿入されている。

「現下の日本の状況下においては、大学改革は待ったなしの状況であり、実行が求められています」

急速な社会変化が続くなか、大学教育の意味も役割も大きく変化している。現在、大学に期待されているのは「象ぞう牙げの塔」としての学術教育ではなく、活力ある社会を創造するための教育である。つまり、主体的に考え、行動する能力を培う人材育成にあるといってよいだろう。

その実現のために、何をどのように教え、根幹となる大学運営をどう進めていくべきか――現在、各大学は試行錯誤を続けている渦中にある。

十八歳人口の減少にともない、定員を確保できない私立大学が増加するなか、生き残りの命運を左右するポイントは、学生というマーケットを意識した経営体へと変容することである。教育を最大のサービスとして学生に提供し、総合的な学生支援をするなかで人づくりを行うという事業こそ、イノベーションの創出とともに、国民や社会が大学に期待していることではないか。その推進のためには大学ガバナンスの強化がどうしても必要となる。

いま、大学は戦後最大の転換期を迎えていることは間違いない事実である。

「大学改革」が声高に叫ばれているなか、学生支援体制の構築への取り組み、大学ガバナンスの強化など、先陣を切った改革を続けているのが本書で紹介する「神奈川工科大学」である。

神奈川工科大学は神奈川県厚木市にキャンパスを構え、今年でちょうど創立五十周年の節目を迎える。工学部、創造工学部、情報学部、応用バイオ科学部の四学部一一学科と留学生別科、大学院が設置され、約五〇〇〇人の学生を擁する、多彩な内容を持った理工系大学だ。

キャンパスに足を踏み入れた人は、広々とした開放感のなかに、理工系独特の緊張感があることに気がつくに違いない。また、「KAIT工房」と呼ばれる近未来的なガラス張りの建物のなかで行われている機械加工や木工作業などの情景を目にすると、日本のものづくりの精神はこうしてたくましく継承されているのだということを改めて実感する。

「創造性に富んだ技術者を育て、科学技術立国に寄与する」を建学の精神として謳うたっている神奈川工科大学は、その精神にのっとり、数多くのすぐれた技術者を社会に輩出しつづけてきた。大学の教育方針、学生指導、運営のあり方等々、どれを見てもこの大学にしかない流儀というのが貫かれている同大学は、以前から個人的にも注目していた大学であったが、今回、詳しく話を聞いていくと、新しい大学像の「ロールモデル」となるべき要素をいくつも持っていることがよくわかった。
その特質をあげてみよう。

①徹底した学生本位主義の追究

神奈川工科大学の最大の教育理念は「学生本位主義」の追究にある。学生一人ひとりがいまどのような状態にあり、何を望み、どんな適性を有しているか──それらをすべて検証し、その学生が持っている能力を伸ばすために、あらゆる支援を行うことを基本姿勢としている。またその実現のためには、マンツーマン方式による基礎・基本教育や各種相談システムなど、さまざまな工夫が施されており、学生一人ひとりが自分なりの力を身につけることを可能にしている。これにより学生たちの多くは、早いうちから自らが進むべき方向性を見つけ出している。キャンパス内での教育環境だけではなく、経済的支援、安全確保、食と住など、生活環境の隅々までその配慮が行き届いた体制は見事というほかない。“すべては学生のために”をモットーにした周到さが、彼らに自信と活力をつけ、役割意識を持った社会人に成長させている。

②キャリア教育と高い就職率

神奈川工科大学は、「就職に強い」との評価を受けている。平均九〇%以上の就職率は、全国私立大学でも有数のものであり、かつ、卒業後三年以内の離職率は全国平均の三割以下の約一〇%という数値は注目に値する。これは実社会で役立つ能力の開発に力を注ぎつづけた成果といえる。キャリア教育の充実度の高さは、この大学の“特技”といってもよいだろう。企業と連携するプログラムは多彩にそろえられ、その専門性だけでなく、グローバル化には欠かせないコミュニケーション能力の向上もキャリア教育の一環として取り入れている。学生の個性や特性を見極めながら四年間をかけてじっくり育て上げていくシステムは、長年の蓄積があればこそだ。就職サポート体制も万全のものがあり、最後まであきらめさせない手厚い支援が展開されている。

③継承される人づくりの原点

神奈川工科大学を創設したのは、大洋漁業株式会社(現マルハニチロホールディングス)の社長だった中部謙吉氏である。昭和三十八年、高等教育を望む若者に勉学の場を与えようと私財を投じて同大学の前身である「幾いく徳とく工業高等専門学校」を開校したのだが、大学の創始者が企業人であったことの意味は大きい。以来、同校では「自ら考え、行動する」を根幹に、人づくりの教育が形成されてきた。まさに、いま、第一に求められる人間像である。そのアイデンティティを継承している神奈川工科大学の教育課程は「何を教えるか」より「何を学べたか」に主眼が置かれて構築されている。プログラムは改善のたびに研ぎ澄まされ、今般「ユニットプログラム」という独自の教育プログラムを実践。技術力と人間力を同時に鍛えるという内容で、人間的魅力の発掘と向上が大いに期待されている。

④画期的な大学のガバナンス、強いリーダーシップを持つ理事会

現在の理事長は、創設者・中部謙吉氏の孫にあたる中部謙一郎氏である。

中部氏はまさにイノベーターとして登場し、硬直しかけた大学に「経営」の発想を持ち込み、抜本的な改革を次々と断行していった。強力な経営陣を構築することこそ経営の革新として、教員が主体という理事会の慣習を打ち破り、企業出身者主体へと転換。メンバー一一名中八名が企業出身者という、ほかの大学では類を見ない基盤整備を成し遂げた。その画期的な大学ガバナンスによって、学部学科の編成、カリキュラム、教育環境は魅力ある商品として打ち出され、教育施設も短期間で八割以上が改装・新築し充実をはかった。同時に、コストダウン、人員削減などむずかしい組織的な改革にも時間をかけて取り組み、未来につなげるかたちをつくり上げていったのである。

厳しい環境のなか、先駆的なアイデアが次々と実現されるのは、理事会の強いリーダーシップと徹底した話し合いがあってこそである。

「私は民間企業の経営と思って大学の経営にあたっています」と中部氏は語る。

「知の経営体」としてのそのあり方が、学生本位主義をさらに磨き上げる原動力となっていることを実感する。論理的に考え、果敢に行動する新世紀の骨太の理工系人間がここから生まれ、日本を活気づけていくことだろう。

ほかにも、地域社会との密接な連携、卒業生への支援など、神奈川工科大学ならではの特徴がいくつもあるのだが、詳しくは本書でたしかめてほしい。

二十一世紀の新しい大学像が求められるいま、この神奈川工科大学のありようは、大学改革の一つのモデルとなり得ると確信する。

本書は、神奈川工科大学の教育理念や取り組みを紹介するとともに、大学改革のあり方にも多くの示唆が含まれているものである。これから大学進学を志す若者だけでなく、日本の教育と「ものづくり日本」の将来に関心を寄せる一般読者にとっても貴重な指針の書となるであろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。

平成二十五年九月   鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 理工系大学が支える科学技術立国日本の未来

ものづくり日本の危機
的中したペリー提督の予言
ものづくり日本を取り戻す決め手は人づくりのための教育
神奈川工科大学が持つ大きな意義
その教育方針と理念
日本の発展を支える人材を輩出した工学部
若手技術者の能力の低下と理科離れの現実
中高校の理科・技術教育改善への取り組み
大学に期待される教育とは


第2章 技術立国を担う人材育成――神奈川工科大学の概要――

明確な教育目的と目標の背後にあるもの
可能性を伸ばす学びの四学部一一学科
社会に出る基礎力を身につける「新教育体系」
「新教育体系」の中核「ユニットプログラム」
自分自身を知り、適職を選択させるキャリア教育
学びの基礎を厚くする産学交流プログラム
留学・国際交流の飛躍に期待
日本の最先端が集結する施設の数々
地域・企業・大学がつながるスマートハウス研究センター
新教育体系のもう一つの柱、教員の質を上げる
私立大学の厳しい状況
成長と理念の浸透の基盤は理事会の体制にあり
学校株式会社で徹底したサービスを
財務面はオープンに
大学の価値とは


第3章 すべては学生のために

大人しく真面目な学生
学力に合った習熟度別授業とマンツーマン方式の補習で学力向上を
高い専門性と自主性を持つ人材を鍛えるスーパーサイエンス特別専攻
万全の就職サポートシステム
もう一つの就職支援が示す学生本位主義の真髄
一人ひとりを磨き上げる研究室
保護者との緊密な連携
さまざまな奨学金制度で学生生活を強くバックアップ
教員採用試験、資格取得を大いに援助
モバイル学生証で出欠確認や安否情報も
安心安全は学生本位を支える影の力
“リケジョ”歓迎、女子専用フロア
充実の食と住
文武両道、スポーツにも力を入れる
チームワークを学ぶ多彩なクラブ活動
活発な地域貢献活動
「KAIT未来塾」と出前講義
開かれた大学、愛される大学に
チャレンジを応援する「夢の実現プロジェクト」


第4章 五十年の歩み

創設者・中部謙吉の思いを込めた学校
謙吉の波乱の人生
日本をつくるのは技術を持った若者たち
国立並みの学費、寄付は取らない
高専から四年制大学に
学者肌の二代目理事長
「神奈川工科大学」へと名称変更
三十周年を記念して
現状を変えなければ明日はない
おじいちゃんの大学をつぶしてなるものか
一大事業、一〇〇億円プロジェクト
二十年におよぶ闘い


第5章 基礎固めから飛翔の時代へ

創立五十周年記念事業その①――第二次キャンパス再開発にふさわしい新施設
創立五十周年記念事業その②――記念の年にふさわしい「学生チャレンジ」を!
創立五十周年記念事業その③――記念シンポジウムを開催
先進技術研究所の建設とロボット産業特区の指定
迫る二〇一八年問題
いまは大学改革の好機
大学としての存在感を高めるために
力を合わせて船を漕ぐ
学びの国際化、五年後の大目標
学生本位主義に徹した改革は先延ばしせず
高いサービス精神、中継ぎ意識
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タフな精神、七転び八起き
卒業生が財産、新たな五十年に向けて

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