いま、なぜ専門家集団薬局なのか

2019/02/14

『いま、なぜ専門家集団薬局なのか』 前書きと目次

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いま、なぜ専門家集団薬局なのか
~薬局の新しい価値をつくるフォーラルの挑戦~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-451-8
初版発行:2019年2月21日




はじめに

日本人の平均寿命は年々延び続け、最近では「人生100年時代」という言葉も聞かれるようになっている。実際、2017年の日本人の平均寿命は、男性は81.09歳、女性は87.26歳で、どちらも過去最高を更新している(厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」)。ちなみに平均寿命とは、その年に生まれた0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す平均余命のことだ。健康意識の高まりや医療水準の向上により、この先も平均寿命が延び続ければ、「人生100年時代」の到来も、けっして絵空事ではない。遠からず、そういう時代がやってくるだろう。そのため政府も、人生100年時代を見据えた政策のグランドデザインを検討する「人生100年時代構想会議」を2017年9月に発足している。

人間にとって長寿は喜ばしいことではあるが、国の財政面にとってはよいとばかりは言えない。高齢化の進展にともなって、国民医療費はふくれあがる一方だからだ。厚生労働省によると、2017年度の概算医療費は42兆2000億円であり、前年度に比べて9000億円の増加となっている(厚生労働省「平成29年度 医療費の動向」)。概算医療費は、労災や全額自己負担の治療費は含まれず、医療機関などでの治療に要した費用全体の推計値である国民医療費の98%に相当するという。つまり、2017年度の国民医療費は43兆円前後となる見通しで、これもまた過去最高を更新することになる。

国はこれまで、国民医療費を削減するために、さまざまな制度改革を進めてきた。診察は医師が行い、調剤は薬局の薬剤師がするという、「医薬分業」もそのひとつだ。それまでは診察を受けた病院や診療所の窓口で薬をもらう院内処方が普通だったが、医薬分業により、医師の書いた処方箋をもとに、薬局の薬剤師が専門性を発揮して、患者が服用する薬について一元的な薬学的管理を行う院外処方にすることで、多剤・重複投薬を防止し、残薬も解消でき、その結果、患者に対する薬物療法の安全性と有効性が向上し、医療費の適正化にもつながるはずだった。

日本の医薬分業元年は、診療報酬改定により処方箋料がそれまでの6点から50点にまで引き上げられた1974年と言われている。それから40年余りの歳月が流れ、いまでは病院や診療所の門前はもとより、街のあちらこちらに「薬局」の看板が見られるようになっている。全国の薬局数は2017年度末時点で5万9138店(厚生労働省「平成29年度衛生行政報告例の概況」)と、コンビニエンスストアの5万5564店(一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報 2018年10月度」)を上まわり、医薬分業率も72.8%にまでのぼっている(公益社団法人 日本薬剤師会「処方箋受取率の推計 全保険(社保+国保+後期高齢者) 平成29年度 調剤分」)

しかし患者にとっては、院内処方から院外処方に切り替わったことで、かえって二度手間になり、そのメリットが実感できないというのが、多くの国民の本音ではないだろうか。しかも、院内処方に比べて調剤報酬が割高となるため、必ずしも医療費削減に結びついていない。

調剤業務による薬局の収入は薬剤料と技術料(調剤報酬点数)からなるが、国が多額の税金を投入しているにもかかわらず、薬局は国が求める本来の機能を果たしてはいないのではないかという批判も少なくない。とりわけ大手薬局チェーンに対する風当たりは強くなってきている。自社の収益拡大に走るあまり、国が求める薬剤の適正使用や医療費の削減には貢献していないのではないかというわけだ。

薬剤師が、医師の処方箋どおりに正確かつ迅速に調剤し、適切な説明とともに患者に薬を手渡す。これだけで薬局としての職務を果たしているといった認識が、かつてはまかり通っていたのかもしれない。だが、それでは薬剤師が専門性を発揮することにはならない。

団塊の世代が75歳以上となる2025年には、国民医療費は47兆8000億円、2040年には66兆7000億円に達するとの試算結果もあり(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)―概要―」)、医療費の抑制は待ったなしの状況になっている。そのため国は、国民医療費の増大を抑え、社会保障に関する体制を整えるべく、在宅医療を推進するとともに、2025年までに「地域包括ケアシステム」の構築をめざしている。

それら一連の施策のなかで大きな役割を果たすと期待され、重要性を増してきたのが薬局だ。厚生労働省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」を策定し、「かかりつけ薬剤師・薬局」の機能に加え、地域住民の健康維持および増進に貢献する薬局を「健康サポート薬局」と位置づけて、将来における薬局のあるべき姿や機能を示している。

そうした国の施策を先取りするかのように、独自の手法で新しい薬局のあるべき姿を実践しているのが、本書で紹介する株式会社フォーラル(本社:東京都江東区)である。

現在は1都3県に薬局20店舗(2019年1月現在)を展開しているフォーラルの特徴のひとつが、薬剤師と管理栄養士という国家資格の有資格者で構成された「専門家集団薬局」である点だ。従業員202名のうち112名が薬剤師、76名が管理栄養士であり(2018年4月現在)、管理栄養士の在籍数ではわが国有数である。

通常、薬局のスタッフは薬剤師と医療事務で構成されるが、フォーラルでは、薬剤師とともにメディカルパートナーとして各店舗に配置された管理栄養士が医療事務をも担うようにしている。

「薬剤師のほかに、食事や栄養の専門家である管理栄養士が在籍することで、調剤するだけでなく、地域のみなさまの健康をサポートするための拠点としても薬局が機能できます。各店舗は、薬剤師と管理栄養士が連携して無料栄養相談や各種セミナーを開催するなど、健康に関する情報を積極的に提供することで地域社会に貢献し、薬局の新しい価値をつくっていきたいという想いで活動しています」

と、フォーラル代表取締役社長の松村達氏は語る。

医薬分業が進んだいまでは、薬局とは処方箋を持った患者だけが利用するところと一般的に思われているのではないだろうか。しかし、フォーラルが実践するように、薬局に管理栄養士が在籍し、食事や栄養、運動などの情報提供を通じて予防医療の拠点として機能するようになれば、処方箋を持たない地域住民も訪れるようになり、地域の健康維持や増進に貢献できるばかりか、医療費の削減にもつながるはずだ。

また、フォーラルでは、「地域包括ケアシステム」の一環として、全店舗で在宅医療に取り組んでおり、薬剤師と管理栄養士が地域の医療・介護チームと連携して、居宅や高齢者施設などを訪問する。輸液などの無菌調剤が可能なクリーンベンチも、在宅医療が中心の3店舗を含めた4店舗で完備している。

薬局運営にあたりフォーラルが全店舗共通のコンセプトとして掲げているのは、「地域の人々が応援したくなる人と薬局」だ。ただし、なにをすることで地域の人に応援したいと思ってもらえる薬局になるかについては社員の自主性や独自性を尊重し、店舗ごとにスタッフが意見を出しあい、自分たちで考えるようにしている。

地域の人々に「あなたがいるから、この薬局に来た」と言ってもらえるようになるためには、「専門性」だけでなく「人間性」が高いことも大切な要素になってくる。やさしさや思いやり、つまり「仁」の心が必要であり、社員の採用にあたっても、その点を重視していると松村氏は言う。

その一方で、自信を持って積極的に地域のために貢献できる人材を育成するために、教育にも力を注ぐ。社員個々の専門性を高め、付加価値をつけるために、自社講師陣によるシステム化された教育研修制度を構築している。

「当社では、仕事の目的は『他者貢献』であり、売上や利益は人々に喜んでいただいた結果であるという考え方を徹底し、社員全員がこの共通認識のもとに行動しています」

と、松村氏は語る。専門家集団による地域貢献活動や充実した研修制度もさることながら、こうした共通の価値観こそがフォーラルの最大の特徴であり、強みと言っていいだろう。

「当社は、社員一人ひとりが『地域のみなさんのために、なにができるか』『どうすれば喜んでいただけるか』を考えながら、さまざまな活動をしています。そうした社員の熱き想いや活動で成り立っている会社なのです」

と言う松村氏の言葉を受けて、本書を執筆するにあたっては十数名の幹部社員にもインタビューを行い、「他者貢献」へのそれぞれの想いを語ってもらった。

本書は、薬局業界の現状と課題を浮き彫りにしつつ、地域社会に健康情報を積極的に提供する「専門家集団薬局」という新しいスタイルの薬局として注目されるフォーラルの活動を現場の声を交えながら紹介するとともに、同社の経営理念と医療哲学に迫るものである。現在、医療や介護に携わっている人はもとより、これから薬剤師や管理栄養士として薬局業界をめざそうとする人にとっても、「他者貢献」を実践するフォーラルの姿勢から学びとれることは多いはずだ。

超高齢社会に突入した日本では、地域医療のあり方と、そのなかで薬局が果たすべき役割が、あらためて問われようとしている。健康長寿社会の実現に向けて、薬局本来の役割を見つめなおし、地域医療のあり方を考えるうえで、本書がなんらかの指針となれば幸いである。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


2019年1月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 超高齢社会における薬局と薬剤師の役割

高齢化の進展でふくらみ続ける国民医療費
薬剤師が医師に薬を奪われていた時代
医薬分業の促進により「薬漬け医療」を回避
国の庇護のもと増大する薬局への厳しい視線
医薬分業の本来の目的に立ち返る
大手門前薬局チェーンに厳しい調剤報酬の改定
「地域包括ケアシステム」で期待される薬局の役割
薬局業務は「対物」から「対人」へ
「箱出し調剤」で調剤業務の簡素化を


第2章 新時代の薬局モデル「専門家集団薬局」

有資格者で構成された専門家集団薬局
「他者貢献」が全社員の共通認識に
地域の人々が応援したくなる人と薬局
フォーラル流「かかりつけ薬剤師・薬局」の職能を発揮
「地域包括ケアシステム」のなかで全店舗が在宅医療に対応
地域のなかで多職種連携によるチーム医療を実践
薬の専門家として「看取り」まで責任を持つ
現場最優先で独自色を打ち出した店舗運営


第3章 地域の人々の健康をサポートする専門家集団

全店舗で管理栄養士による無料栄養相談を実施
薬剤師と管理栄養士の比率は6対4
薬剤師と管理栄養士の強固な連携体制
薬局以外でも予防に重点をおいた指導を実施
約80種のコンテンツが用意された「地域アウトリーチセミナー」
喜びや感謝の言葉が報酬
行政と連携した健康イベントの開催も
学会発表を通して薬局の活動成果を外部に発信


第4章 専門家として、人として成長するための教育研修

社員一人ひとりの「なりたい自分」を応援
「専門性」と「人間性」の両面を高める教育体制
基礎研修からマネジャー育成までのキャリアプラン
専門職能に磨きをかける多彩な勉強会
それぞれが強みをつくり、チームで地域に貢献
社内学術大会「フォーラルフォーラム」
欧米の薬局事情を肌で感じとる海外研修
「指さし英会話」を取り入れた外国人対応
社会貢献の一環として外部にも研修ノウハウを提供
経営者として社員に望むこと


第5章 フォーラルの経営理念とビジネス哲学

薬局の3代目として生まれて
3人の恩師と3人の顧問
創業50周年を機に社名変更し、新たなスタートを切る
「善悪」は「損得」に優先する
社員の熱い「想い」が強みになる
オンリーワン、ナンバーワンの存在に
自分のやりたいことがやれる企業風土
役職についても基本的に「手挙げ制」
女性社員が80%以上を占める職場環境
「FORALL WAY《フォーラルらしさ》」とはなにか
全員が「さん」づけで呼ぶフラットな関係


第6章 フォーラルが描く薬局の未来

「専門家集団薬局モデル」のさらなる普及に向けて
効率化への取り組み
いまこそ薬局が変わるチャンス
人と人とのふれあいで成り立つ薬局の価値
生き残る薬局、淘汰される薬局
駅前立地による出店を進める一方でスリム化も
「連携」をテーマにさらなる進化をめざして

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