本日入社、本日オープン!

2019/08/16

『本日入社、本日オープン!』 前書きと目次

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本日入社、本日オープン!
~AIグループが「センチュリー21」で日本一になった理由~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-460-0
初版発行:2019年8月23日 初版発行




はじめに

経営者の多くは、1つの質問に対し、多くの言葉を返してくる。なかには、こちらが聞いていないことまでをも雄弁に語り、ときに脱線したり、そこから意外な方向へと話が発展したりする経営者もいて、それが取材の楽しみでもあったりする。

このような多弁型の経営者は、いわゆるサラリーマン社長より、創業経営者に多く見受けられる。ところが、今回、話を聞いた経営者は、創業経営者でありながら、多くを語らない。質問にはいたって真摯に答えてくれるのだが、そこから外へとはみだすようなことはない。

坂本繁美氏、71歳(1948年生まれ)。神奈川県横浜市で不動産事業を展開するAIグループの創業者で、同グループの会長を務める坂本氏がまとう雰囲気は、世間一般に思い描かれるような不動産業者の、脂ぎったイメージとは対照的だ。その端正で穏やかな風貌と物腰には、大企業のベテラン総務部長といった趣がある。

AIグループ(旧アーバン・コスモ・グループ。2018年にグループ名を変更)は、ホールディングカンパニーである株式会社アイ建設を中核にした9つの企業で形成され、そのうちのアイ建設、株式会社日立ホーム、株式会社スターライフ、株式会社マイホーム、株式会社アース住販、株式会社ヨコハマホーム、株式会社アイホームの7社が不動産事業を手がけている。

不動産事業といっても、その内容にはさまざまなものがあるが、AIグループでは、売上の約9割を占める不動産の売買仲介を中心に、新築分譲、注文住宅、リフォーム、中古住宅および中古マンションの売買、賃貸仲介などを手がけ、グループ全体で総合不動産業を行っている。

住宅・不動産業における新たなビジネスモデルで事業展開をしているわけでも、世間の耳目を集めるような華々しい手法で経営を行っているわけでもないAIグループに、私が注目した理由は、坂本氏が率いるこの企業グループが、不動産の売買仲介において傑出した存在であるからにほかならない。

独立系不動産業者としては神奈川県でもトップクラスの地位にあるAIグループの各社は、世界最大級の不動産仲介ネットワーク「センチュリー21」に加盟している。「センチュリー21」の名称は、テレビCMなどでご存じの方も多いだろう。そのネットワークは世界の80の国と地域に展開され、約9400店舗、従業員数12万7000名(2019年3月31日現在)を擁するというから、そのスケールにはあらためて驚かされる。

「センチュリー21」を展開する Century 21 Real Estate LLC は、1971年にアメリカ東部のニュージャージー州マディソンで設立された。直営店を持たないフランチャイズチェーンとして、わずか17店舗からスタートした「センチュリー21」は、その後の3年で店舗数を1000にまで増やした。

日本では、1983年に日本法人のセンチュリー21・ジャパンが設立され、翌1984年に首都圏12店舗が一斉にオープン。その後、関東、関西、中部と加盟店を増やしていき、現在では北海道から沖縄まで全国に954店舗、従業員数6498名(2019年3月31日現在)にまで成長している。

そのなかにあってAIグループは、「センチュリー21」の企業グループ部門表彰で全国ナンバーワンを2012年度から2018年度までの7年間に6回も受賞するなど、日本国内の「センチュリー21」加盟店において、まぎれもなくトップの座に君臨している企業グループである。

さらに、AIグループとしてだけではなく、AIグループを構成する各社も、全世界の「センチュリー21」加盟店のうち、わずか4%の成績優秀店舗だけが選ばれる「センチュリオン」に、長年にわたって選ばれ続けていることも見逃せない。なかでもAIグループの筆頭格とも言える日立ホームは32年連続で「センチュリオン」を獲得しており、これは「センチュリー21」の加盟店において日本でナンバーワンの記録である。他のグループ各社も、スターライフは26年連続、マイホームは25年連続、アース住販は17年連続、アイ建設は14年連続で「センチュリオン」を獲得し、現在もそれぞれに連続獲得記録を更新中だ。

なぜ、そんなことが可能なのだろうか。

AIグループには、社員の尻を叩き、馬車馬のごとく働かせる、鬼軍曹のような存在がいるわけではない。それどころか、AIグループの総勢約200名をたばねる会長の坂本氏は、前述のとおり、いたって温厚な紳士である。AIグループの社員で、坂本氏が声を荒げているのを聞いたことがある者はいないというほどだ。

その坂本氏に、営業におけるモットーや心構えを尋ねたところ、

「そうですね、お客様主義と言いますか、こちらが売りたい物件を売るのではなく、お客様が欲しいと望まれる物件をご紹介するというやり方ですね。押し売りというのは、どうも性格的にできないものですから」

と、静かな口調で答えが返ってきた。

こうした坂本氏の考えを反映し、AIグループでは飛び込み営業をまったく行っていない。店舗を構えて顧客が来るのを待ち、じっくりと顧客の要望を聞いて、それに沿った物件を紹介するというのが基本スタンスである。「センチュリー21」のトップを走る企業グループと聞くと、いかにも精力的な営業活動をしていそうに思うかもしれないが、実際にはあくまでも「待ちの営業」をしているのだ。

また、坂本氏はよく歌を口ずさんでおり、グループ会社にスーツ姿でふらりと現れた坂本氏をみかけた新入社員が、

「さっき入ってきた、鼻歌のおじさんは誰ですか」

と、上司に尋ねたとのエピソードがあるほどだ。これは、坂本氏をはじめとした社員全員が、ふだんから「センチュリー21」の揃いのジャケットを着ているせいもあるだろうが、それ以上に、坂本氏のもつ「不動産業者らしからぬ雰囲気」のためだろう。

この「不動産業らしからぬ」というのは、AIグループがもつ特徴のひとつである。そうした一風変わった特徴をもった企業グループが、なぜ不動産の売買仲介業でトップになれたのか。その理由を解明していくことが本書の目的だ。

AIグループの創業者である坂本氏は、誰も手がけたことがないようなビッグビジネスを築きあげた事業家でも、ビジネス界における大きな英雄というわけでもない。しかし、不動産仲介業という既存のビジネスにおける覇者であるだけに、その成功への歩みには地に足のついたものがあり、多くの読者にとって等身大の手本となるはずだ。AIグループは、いわば地域の不動産会社においてひときわ明るく輝く星だが、その輝きは、けっして奇をてらって得たものではなく、あたりまえのことを地道に積みかさねた結果、得られたものだということを、読者に伝えられたらと思う。

なお、本文中の敬称は略させていただくことを、あらかじめお断りしておく。


2019年7月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 スーパー不動産会社を生んだ5つの成功要因

「住みたい街」ランキング1位の横浜
成功要因① 横浜重点主義
横浜駅西口に集中出店する理由
成功要因② 売買仲介の手堅さ
バブル崩壊後に始動した多店舗展開
創業10年にして始めた建売事業
成功要因③ 別会社展開という競争原理
立地で喚起される店舗間のライバル意識
成功要因④ 社員が長続きする会社
飛び込み営業をしないことのメリット
成功要因⑤ あたりまえを続ける会社
巧みなセールストークはいらない


第2章 AIグループ流「成約をつかむ法則」

インターネット時代への素早い対応
業界の若返りとインターネット
顧客にとって「譲れないもの」をつかむ
ニーズ多様化時代の営業スタイル
インターネットではわからない「生きた情報」を手に入れる
顧客の不安を取り除くことも大切な仕事
営業担当者は人間性を高めなければならない
「人間関係」から「信頼関係」に深めるために
トラブルから絶対に逃げてはならない


第3章 誠実の人・坂本繁美の歩みと経営哲学

東京生まれの隠岐育ち
プロの歌手をめざした大学時代
起業と同時にバブル経済の上げ潮に乗る
バブル経済に踊らされず堅実に足元を固める
求められる住宅を提供することが仲介業の矜持
投資用不動産では味わえない「血の通った仕事」
顧客の好みに臨機応変に対応する
肩の力が抜けるアットホームな社風


第4章 ユニークな別会社展開と人材育成

横浜市内の各駅をまわる新人研修
未経験者だからこそ受け継がれる営業ノウハウ
「社長」という目標がみえる会社
みな「自分にできるのだろうか?」からスタートする
思うようにやってみなさい
自由にものが言える社風はなぜできたか
普遍性のある「しくみ」を武器に首都圏進出をうかがう


第5章 変革期を迎えた日本の住宅事情

事業戦略の見直しを迫られる不動産業界
新築着工戸数はピーク時の半分に
多様化するライフスタイルと住宅ニーズ
リフォームの市場拡大は期待できるか
中古住宅流通に必須のインスペクション
日本中の住宅の3割が空き家になる可能性
空き家の増加と犯罪発生率の上昇は比例する
中古住宅流通の拡充を担う不動産仲介業


第6章 AIグループが描く将来戦略

営業エリアの拡大と事業の多角化
仲介業者でなければできない分譲住宅を
リノベーション事業にも意欲
悠揚迫らぬ着実な歩み
ワンマンでもカリスマでもない「普通人」として
企業の強さのエッセンスとは


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