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2020/06/10

『「シャボン玉石けん」の挑戦』(前書きと目次)

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「シャボン玉石けん」の挑戦
~泡の科学でいま、無添加石けんは新たな領域へ~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-362-7
初版発行:2012年3月20日 初版発行




はじめに

環境問題は地球レベルで取り組まなくてはいけない問題であるが、その大きな特徴としては、科学の先端と日常生活がさまざまな部分で密接にリンクしていることがあげられる。

近年、生活環境にも深いかかわりを持つ化学物質の毒性が注目されるようになってきた。

改めて日常の生活を見渡してみると、自分の身の周りには化学物質を原材料にした製品がたくさんあることに気がつくだろう。プラスチック、合成繊維、医薬品、農薬、洗剤、塗料、ハイテク材料……。豊かで便利といわれている生活とは、これほど化学物質によって支えられていたのかと驚くほどだ。なかには、環境や健康に有害な影響を引き起こす可能性のあるものも少なくない。

環境中に出た化学物質のなかには、すぐに分解されず川や海の底に蓄積したり、食物連鎖を通して生物の体内に濃縮されてしまうものがある。そうした化学物質が人間の体内に取り込まれると、アレルギーやがんの発症、生殖機能の異常など、さまざまな問題を引き起こす可能性があるのである。

このように、化学物質などが環境中に排出され、環境のなかの経路を通して人の健康や生態系に有害な影響をおよぼす可能性を「環境リスク」と呼ぶ。この「環境リスク」を全体として低減させていくためには、行政、事業者、市民、NGOがそれぞれの立場から協力し合って、有害な化学物質の排出抑制に取り組んでいかなければならない。

こうした有害性のある化学物質が、どのような発生源からどれくらい排出されたかといったデータを把握するための制度としてPRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)という仕組みがある。平成四年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で大きく取り上げられ、日本でも導入された。平成十一(一九九九)年には法制化もされている。

このなかで、「難分解性」「高蓄積性」とともに「人または高次捕食動物への長期毒性」を有する物質を「第一種指定化学物質」として、四六二種類の化学物質が指定されている。そこに一〇種類の合成界面活性剤が入っており、なかには一般に流通している洗剤やハミガキ粉などにも使われている物質が含まれているというのである。

「私はとても不思議でなりません。環境問題がこれほど取りざたされているのに、いまだに合成洗剤が堂々と製造・販売され、また、多くのみなさんがなんの疑問も持たずにそれを購入・使用されていることです」

こう語るのは、シャボン玉石けん株式会社代表取締役社長・森田隼人氏である。

シャボン玉石けんは、福岡県北九州市に本社を置く、創業百年を超えた老舗企業だ。そして、この四十年間、無添加石けんひと筋に邁進してきた、無添加石けんのパイオニアでもある。その会社経営の基本には、合成洗剤の有害性に警鐘を鳴らし、「洗う」という行為から環境リスクの低減に貢献しようという啓蒙の理念が込められている。

「石けんは地球の生態系に組み込まれた物質で、人類の長い歴史のなかで、その効果も安全も証明済みの洗浄剤です。私たちは、石けんのなかでも天然素材だけを使った無添加石けんにこだわり、生命あるものすべてが安心・安全にすごせる製品をつくりつづけています」

シャボン玉石けんの最大の特徴は、一切の化学物質および添加物を含まない石けん素地のみでつくられた、「真の無添加石けん」を提供しているということである。製造は「ケン化法」というむかしながらの方式で、一週間以上、釜で炊き込みつくられる。できあがった石けんは、肌と環境の両方にやさしく、しっとりとした品質で消費者からの信頼も高い。同社は現在、年間売上高六二億円までに成長した。

実はシャボン玉石けんの前身は、合成洗剤を販売することで大いに発展してきた洗剤の卸売会社であった。それを改め、合成洗剤とはきっぱりと縁を切り、「無添加」という名前をつけた石けん一本で行くことを決めたのは、森田氏の父親である故・森田光德氏である。

そのきっかけはある出来事を通して、長年悩まされてきた皮膚障害の原因が、当時、自身が使っていた合成洗剤であったと気づいたことによる。合成洗剤の有害性を知った光德氏は、健康に有害なものを売ってはならないとの一心で、昭和四十九年、周囲の猛反対を押し切り石けん製造業へと転身する。しかし、ピーク時の一〇〇分の一にまで落ちる売り上げ、次々と辞めていく社員……。赤字は十七年間にもおよび、その苦闘の歳月は、ある意味、自然の命を守って回復させるという自分の信念を試される日々でもあった。

「化学物質から完全に身を守ることは誰も不可能かもしれない。だが、今日から合成洗剤をやめて、安全な石けんに切り替えることは可能である」といい、まさに「隗より始めよ」と訴えつづけた光德氏の気迫の人生は、経営者としてだけではなく、啓蒙家のそれといえる。

石けん運動が広がりを見せ、環境リスクの低減への取り組みが住民レベルで行われている現在のうねりの背景には、光德氏の捨て身の活動が一つの力となったことは、もっと知られてよい事実であろう。そして今日、シャボン玉石けんの理念である「健康な体ときれいな水を守る」の意義はますます深いものになっている。

そうしたシャボン玉石けんの足跡を伝えるとともに、無添加石けんの可能性がどれほど大きなものかを知らせることも本書の大事な役割である。この数年、シャボン玉石けんは先端科学技術を駆使した新製品の開発を次々と実現させてきた。石けんという大変身近な生活用品を扱いながら、多彩なイノベーションを用いた独特のモノづくりは、ほかに類がないとして各方面から注目を集めている。同社が開発した画期的な製品は以下のとおりだ。

◎従来の一七分の一の水量で鎮火できる石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」
◎世界初の「環境配慮型石けん系林野火災用泡消火剤」
◎ノロウイルスなどにも効果がある無添加石けんハンドソープ「バブルガード」

いずれも産学官、および医工連携という、巨視的なスタンスとチャレンジにより、開発されたものである。結果、泡消火剤は世界的な意味での消火剤革命を起こす可能性を持つといわれ、新型ハンドソープは感染症対策の基礎となる重大な発見につながると目されている。その開発の物語に関してはぜひ本文をひもといてもらいたい。

読み進むうち、こうした大きなプロジェクトも、環境と健康への貢献という石けん一個に込められた信念が勝ち取った成果であることがわかるだろう。真実のもの、本来あるべきものへとひた走ってきた軌跡が、まったく新しい製品を生み出すにいたったのである。

本書は、無添加石けんの普及を推進しつづけるシャボン玉石けんのさまざまな取り組みや理念とともに、開発と啓蒙に人生を懸けた人間ドラマが繰り広げられたものである。そこには、地球環境と人の未来を考えるすべての読者にとって貴重な提言が込められている。本書によって日常の暮らしが地球環境につながっていることに気がつき、いま何をするのが適切なのかを少しでも考えてもらえるきっかけとなれば、望外の喜びである。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年一月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 合成洗剤と石けんの違いとは

社会的影響力が大きい無添加石けん
石けんと洗剤の定義に関して
無添加石けんのパイオニア「シャボン玉石けん」
四十年前、初めて知った「無添加」という言葉
一週間で湿疹がきれいに!
恐ろしさは目に見えない
死線を越えて、合成洗剤とは縁を切る決意を
汚れを落とす働きをつかさどる界面活性剤
地球の生態系に組み込まれた石けんの歴史
戦争が開発普及を進めた合成洗剤
日本における石けんと合成洗剤
危険への目覚め――ABSからLASへ
人体と環境におよぼす作用
蛍光増白剤への注意
いまだ調査が必要とされる合成洗剤の有害性
理解したうえでの選択を


第2章 真の無添加石けんと商品群

真の無添加を提起する
原料から無添加にこだわるシャボン玉石けん
二つの石けん製造法
モノづくりの精神が込められた「ケン化法」
肌にふれて喜ぶものを――顧問・井関巌(釜炊き職人)
観光としても好評を集める工場見学
肌の弱い人でもペットでも安心して使える
一度使えばよさがわかる、定番「シャボン玉浴用」
独自の製法で溶けやすく洗浄力も強い、洗濯粉石けん「スノール」
主婦湿疹も改善「キッチン用石けん」
キューティクルを守り健康な髪に戻す「シャンプー・リンス」
低刺激へのこだわりが生んだシリーズ「ベビーシリーズ」
食の安全と同じレベルの安心を――せっけんハミガキ
JIS規格より厳しい品質管理


第3章 信念と波乱の歩み

売り上げが一〇〇分の一に
『複合汚染』が与えた衝撃
合成洗剤有害説から合成洗剤追放運動へ
気がつけば社員は五人に
柳沢文生の孤独な闘いと迫害
迷走と低迷のなか、新入社員採用に踏み切る
やる気満々の若手社員
最大の危機――命を賭けて
決定的瞬間、まったく新しい粉石けん「スノール」の誕生
メーカーとして、信念と思想を売る
十八年目にしてついに黒字転換!
坂本龍一もシャボン玉石けんの隠れファンだった
三代目社長就任と光德との別れ
すべてがゼロからの開拓だった――専務取締役・髙橋道夫


第4章 広がりつづける石けんの可能性

世界初「環境配慮型石けん系林野火災用泡消火剤」の実験成功
阪神・淡路大震災からはじまった
石けん系の泡ならば
小水量消火が課題に
困難極まりない条件
学の参入、分子構造レベルからの開発
プロジェクトで博士号取得者が二人も誕生
オール国産・消防車両の開発
公害都市から環境モデル都市になった北九州市の環境への高い意識
産学官の連携で総務大臣賞受賞
世界に向けて、森林火災用の消火剤
研究機関「石けんリサーチセンター」設立
基礎研究に没頭できる環境――上江洲一也
驚愕の殺菌効果、手洗いせっけんバブルガード
「感染症対策研究センター」の設立、医学と工学の連携


第5章 シャボン玉石けんの理念と啓蒙活動

商品が伝える理念
百年の歴史を持つベンチャー企業
消費者自身に考えてもらうユニークな広告活動
伝道師としての営業とオペレーター
講演や「友の会」に見る幅広い啓蒙活動
アンテナショップ「サロン・デ・シャボン」
市民の石けん運動との地道な連携も
環境への取り組み、大きな目標から小さな活動まで
石けんは本当に熱帯の生態系を破壊するのか
地元とともに発展
東日本大震災への取り組み
「経済界大賞」優秀経営者賞受賞
ユニークな社訓「好・信・楽」が掲げる深い人生観


第6章 世界にはばたく無添加石けん
     ――人々の健康を守るため――

林野火災用泡消火剤、アメリカ特許申請
韓国、中国、ロシア……加速する海外進出
「無添加」の意味再び
環境に安全なものは、健康にも安全
無添加と健康の関係を知らしめる責任
次の百年に向けて、産学連携、医工連携をフルに活用
世界一の石けんメーカーをめざして、さまざまな分野に


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