**鶴蒔靖夫

2020/03/10

『「梅の花」のおもてなし』 前書きと目次

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「梅の花」のおもてなし
~感動を生む「梅の花」の秘密とは~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-363-4
初版発行:2012年4月11日 初版発行




はじめに

近年、世界中で日本食ブームが巻き起こっている。海外の日本食レストランの数はいまや二万五〇〇〇店以上と推定されており、「寿司」などの高級店だけでなく、居酒屋のような大衆的な店も増え、ブームに拍車をかけている。なかには、日本人以外の手による、正当な日本食とはほど遠い「日本食もどき」の店もあるという。

それほどまでに日本食がもてはやされるようになった背景として、世界的な健康志向の高まりがあげられるだろう。米を中心に魚や大豆など、多彩な食材を用いる日本食は栄養バランスにすぐれ、新鮮な素材の持ち味をそのまま生かした調理法が多く、肉中心の料理に比べカロリーも低い。そうした日本食のヘルシーさに、欧米人をはじめ、これまで脂肪やカロリーをとりすぎていた人たちが注目するようになったのだ。

しかもヘルシーなだけでなく、日本食は料理の種類も豊富で、それぞれにおいしく、器や盛りつけなど、見た目も美しい。昨今、日本のポップカルチャーに端を発し、日本のさまざまな文化が「クールジャパン(かっこいい日本)」として人気を呼んでいるが、食文化もその一つである。料理そのものだけでなく、盛りつけなどを含む和のしつらい、さらにはもてなしの精神や作法なども含めた文化として、国際的に高く評価されているのだ。

しかし、東日本大震災にともなう福島第一原発の事故は、日本の食文化にも少なからず影響をおよぼし、日本食を目あてに訪れる海外からの観光客が減少。日本食への安心・安全・信頼が揺らいでいることも否めない。

そんななか、「日本食文化をユネスコ世界無形遺産に」という動きがにわかに高まり、平成二十五(二〇一三)年十一月の登録をめざし、目下、農林水産省を中心に、平成二十四年三月の申請に向けた準備が進められている。世界無形遺産への登録により、日本食の安全性やおいしさを内外にアピールするとともに、古来からの年中行事や人生儀礼とも結びついた伝統ある日本の食文化を、次世代に継承していこうというわけだ。

おいしい料理を味わうと人は誰でも幸せな気分に浸れる。特に日本では、季節の移ろいが感じられる、心地よい空間でそれが味わえれば、なおさらだろう。日常的な外食ではなく、レジャーとして外食にそうした癒しを求める人も少なくないようだ。

日本生産性本部余暇創研の『レジャー白書二〇一一』によると、平成二十二年の日本人の余暇活動として、外食はドライブ、国内観光旅行に次いで第三位。平成二十年までは長い間、外食が首位の座を占めていたが、不況や低価格化のあおりを受けて第三位に後退している。とはいえ、やはり身近なレジャーとして根強い人気があることに変わりない。

とりわけ女性の場合、ふだんは家庭で料理をつくる立場のことが多く、たまには外食でおいしい料理に舌鼓を打ち、お客として心配りが行き届いたもてなしを受け、心豊かな時間をすごしたいと思っている人は多いのではないだろうか。ただ、その場合もおいしいものは食べたいけれど、太りたくはないというのがおおかたの女性の本音だろう。

そんな女性のニーズを先取りし、健康と癒しをキーワードにした湯葉と豆腐の店「梅の花」を、全国六八カ所に展開しているのが、本書で紹介する株式会社梅の花(本社:福岡県久留米市、代表取締役社長:梅野重俊氏)である。

福岡・久留米に「梅の花」一号店がオープンしたのは、女性の社会進出が進み女性の時代といわれた昭和六十一(一九八六)年のことだ。家庭の主婦も遊びや趣味など、自分のために費やす時間やお金を持てる時代になっていた。

そこで「梅の花」では、ターゲットを女性に絞り、「女性がおこづかいで月に一度、ちょっと贅沢ができる店」をコンセプトに、女性にはなじみの薄かった料亭のような雰囲気を提供することにしたのである。

当時、地元でのランチの相場が五〇〇円という時代に、コース料理は二三〇〇円を超える価格設定だったにもかかわらず、連日、あっという間に予約で埋まるほどの盛況ぶりだった。

お客からお客へと「梅の花」の評判は口コミで広がり、その後、九州はもとより、関西、北陸、関東、東北、北海道と、全国進出を果たしている。

自家製の湯葉と豆腐は、大豆や水といった素材から製法までとことんこだわり、妥協を許さないおいしさを追求。そのほかの素材も、最高のものが厳選され、極力無添加の材料を使用している。

また、当初から全国展開を視野に入れていた同社では、昭和六十二年には早くもセントラルキッチンを設置している。店舗ごとの味のブレをなくすため、各店舗には職人は置かず、メインの料理はここで一括して手づくりし、その日の夜に全国の店舗へ出荷される。これにより、店舗の厨房では最終的な仕上げと、盛りつけを行うだけですむというわけだ。そして、熱い料理は熱く、冷たい料理は冷たいうちに、最適なタイミングで提供する。

「『梅の花』では料理がおいしいのはあたり前のこととして、むしろその場ですごす癒しの時間そのものを心ゆくまで味わっていただきたいのです」

こう語るのは、同社代表取締役社長・梅野重俊氏だ。

そのために季節感を大切にした空間の演出、器や盛りつけ、箸、ランチョンマット、明かり、香り、サービスまで、お客に心から満足してもらえるよう、あらゆるところにおもてなしの心配りを徹底させている。

「お客さまに喜ばれることをしてさしあげなさい」

これが従業員に対する梅野氏の口ぐせである。そして、お客の喜びを自分の喜びと感じられるようになることが大切なのだという。そのためにも、「従業員がまず幸せにならなければいけない」と考える梅野氏は、社員だけでなく、パートやアルバイトまで含め、すべての従業員と積極的に交流をはかり、常に感謝の気持ちを伝えることを忘れない。

その根底にあるのが同社の企業理念である「人に感謝、物に感謝」という心のありようだ。実は、梅野氏はこの言葉に出合うまでに数々の失敗を重ね、大きな挫折も味わっている。

同社の創業は、「梅の花」一号店よりさらにさかのぼること十年前。昭和五十一年に梅野氏が二十五歳で夫人の久美恵氏(専務取締役)と福岡・久留米に開業したかに料理専門店「かにしげ」が原点である。一三坪にも満たない小さな店だったが、当時はかに料理の専門店はまだめずらしかったこともあり、店は大いに繁盛し、二年間で二〇〇〇万円を貯めて、二階建ての大型店の出店にこぎつけた。さらに、それと並行して居酒屋やポテト料理専門店、焼肉店などにも手を広げていった。

「もともとじっとしていられない性格なのです(笑)」という梅野氏は、現状にあき足らず、その後もジンギスカン、ふぐ料理、スペアリブの店など、次々と新しい業態の店舗をオープンさせていく。ところが、これらがことごとく失敗、八方ふさがりの状況にまで追い込まれたのである。

若くして成功を手にしたばかりに、梅野氏は「すっかり天狗になっていたのかもしれない」と当時を振り返る。店をつくればお客は来てくれるものと思っていたが、急激に拡大しようとしても人材の確保が追いつかず、せっかく採用しても定着しない。お客も、思っていたようには来てくれない。

「当時は自分のことしか考えず、悪いのはすべて人のせい。こんな身勝手な経営者に従業員がついてくるわけもないし、お客さまが来ないのも当然です。若気の至りというか、そのころはそんな単純なことにも気づかなかったのです」

いったん歯車が狂い出すと、すべてが悪い方向に作用する。自暴自棄になりかけていたとき、転機になったのが訪れた寺の壁に貼られていた「人に感謝、物に感謝」という言葉だったのである。

この言葉を目にした途端、目の前がパッと開け、これこそ自分にいちばん足りなかったものであり、これまでの己の傲慢さに気づかされたのだという。

誰しも失敗のなかから学ぶことはある。数々の失敗を乗り越えてきたからこそ、今日の「梅の花」の成功があるのはいうまでもない。当時、もう後はないという瀬戸際に立たされた梅野氏はすっかり心を入れ替え、「厳しい冬を乗り越えて最初に咲く花が梅」ということと、「梅野に花をもたせてほしい」との決意を込めて店名を「梅の花」と名づけたのである。

経営者の心が変わると、従業員も変わり、モチベーションの高さは見違えるようになり、お客もどんどん増えていった。

「人に感謝、物に感謝」

わずか八文字からなる言葉に救われた梅野氏は、以来、これを常に心の中心に据え、新しいおもてなしのスタイルを創造しつづけてきた。

その際、「お客さまに喜んでいただける」「満足していただける」ためなら、必ずしも和食だけにとらわれない。湯葉と豆腐の店として、日本料理の世界にこれまでにない新しいスタイルを提唱してきた同社では、ほかにはないもの、オンリーワンをめざし、常に進化しつづけているのである。

たとえば、「チャイナ梅の花」として中華料理分野でも「梅の花」ならではの新しいスタイルを提案。業態もレストランに限らず、寿司・おむすび・おこわなどのテイクアウト店「古市庵」をM&Aで取得したほか、通販事業「梅あそび」にも乗り出した。

本書は、湯葉と豆腐の店「梅の花」をはじめとする梅の花の各事業を紹介するとともに、幾多の失敗や挫折を乗り越えて今日の成功をつかんだ創業社長・梅野重俊氏の理念と哲学に迫るものである。これは、外食産業やサービス産業に携わる人にとってはもちろん、一般の読者の方々にとっても、「梅の花」の食へのこだわりやおもてなし、感謝の心から学び取ることは多いはずと考えたいからである。

本書をご一読いただき、一人でも多くの方々が日本の食文化のあり方を改めて考え直すきっかけになれば、これに勝る幸せはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年二月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 からだに健康を、心に感動を提供する「梅の花」

からだにやさしい伝統の食材、湯葉と豆腐に着目
おいしい料理を提供するための素材と製法へのこだわり
想像を超えるおいしさと感動を
均一の味を可能にしたセントラルキッチン
清潔で快適な環境の電化厨房&ドライシステム
熱いものは熱く、冷たいものは冷たいうちに
季節を愛でる料亭の雰囲気を演出
究極の感動を与えるのは真心のおもてなし
気づきと感性がお客の満足度につながる
お客が抱く「自分のことをわかってくれる」安心感
クレームも貴重な意見として受け止める
一人でも多く「梅の花」のファンをつくるために


第2章 度重なる挫折から学んだ「人に感謝、物に感謝」 ――創業社長・梅野重俊の歩み――

【その1 「梅の花」開店までの道のり】
 朝食づくりが日課だった少年時代
 将来は自分で商売をはじめたくて商業高校へ進学
 辛酸をなめた下積み時代
 七年間で二〇カ所ほどを渡り歩き修業を重ねる
 二十五歳で念願の独立を果たす
  早く大きな店にしたい!
 本格的かに料理専門店へとステップアップ
 「かにしげ」のチェーン展開をめざし県外へ
 新業態の店づくりに次々と手を染める
 自分に非はなく、悪いのはすべて人のせい
 暗闇の中で見えてきた一条の光
【その2 「梅の花」の全国展開へ】
 女性客の心をつかんだ「梅の花」
 従業員に対し自らの行動をもって範を示す
 オフィスビルのなかに佐賀店をオープン
 「梅の花」成長の原動力となったセントラルキッチン
 新工場建設にともない、出店を加速化
 全国各地に広がりを見せる「梅の花」


第3章 食文化を中心にオンリーワン企業をめざす

「梅の花」の出店は都心型から郊外型へ
地域に密着した店づくり
一年先を見越しながらのメニュー開発
株式店頭登録から東証二部上場へ
「食の安全」への全社的取り組み
中華料理を「梅の花」スタイルで
「花小梅」は外食事業の第二、第三の柱になるか!?
古市庵をM&Aで取得し中食事業を拡大
百貨店依存型から脱却し「古市庵」ブランドを構築
オンリーワンをめざし常に新しい業態を模索


第4章 梅野イズムの真髄は「人」を幸せにすること

従業員の幸せがお客の幸せにつながる
人の成長なくして企業の成長はない
社長は社員一人ひとりの親代わり
「梅の花」で働くことに誇りを持つ
店舗の支配人はそれぞれが経営者
社員のやる気に誠心誠意応える
接客のレベルアップを目的にコンテスト開催
料理の段取りとチームワークを競う調理コンテスト
がんばった人が幸せになれるように
トップダウンをやめて権限の委譲を
梅野イズムの浸透が成長のカギ


第5章 百年企業として咲きつづけるために

男性客をターゲットにしたテレビCMがヒット
酒のつまみや男の懐石膳も登場
中食としての提供を見据えた「餃子屋一番」
アメリカでの失敗を糧にアジア市場に挑戦
古市庵のほうがひと足先に海外進出か!?
焦らずじっくり人を育てていくことを優先する
周りのすべての人の幸せを願って咲きつづける


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2020/02/21

『オーレックの挑戦』 前書きと目次

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オーレックの挑戦
~“モノづくり精神”で切り開く農業機械革命~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-364-1
初版発行:2012年4月17日 初版発行




はじめに

日本の農業はいま、崖っぷちの状況にある。

農業従事者の高齢化や後継者難による休耕地の拡大。さらに、東日本大震災で被災した農地の復興計画はいまだ具体化せず、福島第一原発事故にともなう風評被害も深刻な問題だ。また、平成十九(二〇一一)年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで四〇%にまで減少。これは、昭和三十五年度の七九%からほぼ半減した計算になる。ちなみに、世界では「三五%を下回ると国家として壊滅的な状態」という認識が一般的であり、これは有事のときに国家の安全が保てない恐れさえある。

こうした危機意識はここにきてようやく、政界、産業界、学界を中心に浸透し、食料自給率の向上策が議論されるようになった。加えて、農業は緑地造成の保存という環境保全の一面を有していることから、政府も農業・農地の持続的な発展と循環型社会の形成に向けて、農業政策の抜本的な改正に取り組む姿勢を見せ、その一環として市民農園などの普及を支援する方針も打ち出してはいる。

しかし、その一方で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加に向けての事前協議が進められている。TPPでは加盟国間での輸出入は原則自由化が建前だから、今後、農産物への関税の撤廃、安全基準の緩和などが求められるのは必至で、海外から安い農産物が大量に輸入されるようになれば、国内の農業はこれまで以上に厳しい状況にさらされることになるのは間違いない。

こうした厳しい局面を迎えた日本の農業を農業機械メーカーの立場から支援しているのが、本書で紹介する株式会社オーレック(本社:福岡県八女郡広川町、代表取締役社長:今村健二氏)である。

同社は農業機械メーカーのなかでは「草刈機のトップシェアのメーカー」として知られているが、その製品構成は草刈機だけにとどまらず、管理機、耕運機、除雪機・運搬車にまでおよぶ。

創業は昭和二十三年、「戦後の食糧難を解決するためには、農作業の軽減をはかるべき」との思いから、創業者の今村隆起氏(故人)が徒手空拳、自宅脇の車庫を改造して、同社の前身である「大橋農機製作所」を立ち上げ、農業機械をつくったのがはじまりである。創業時の事業発展の契機になったのは動力モーターを利用した「水揚げポンプ」である。これが田植え前に行われる、用水路から田んぼへの水揚げ作業を画期的に改善した。さらに「養分をたくさん含んだクリーク(用水路)の泥土を、稲刈りを終えた田んぼに引き上げたいのだが」という農家の要望に応じて開発した「泥土揚げ機」が好評を博し、同社の農業機械メーカーとしての基盤を固めることになったのだ。

その後、隆起氏は手持ち式の草刈機しかなかった時代に、「もっと楽に草刈りができる機械はないか」という農家の要望に応え、業界初となるタイヤ装備の自走式草刈機を開発した。文字どおり自走式草刈機の草分けである。

「創業者の今村隆起は『世の中に役立つものを誰よりも先につくる』を信条とし、自走式草刈機を他社にさきがけて開発したのです」

こう語るのは隆起氏の長男であり、現在、オーレックの代表取締役社長を務める今村健二氏である。

さらに健二氏が入社したのを契機に、経営基盤のさらなる強化が進められた。

まず、健二氏の進言により昭和五十五年に埼玉県に営業所を開設した。当初、九州の小さな農業機械メーカーの製品に誰も見向きもしなかったが、粘り強い営業活動の末、商圏を関東に広げた。そして社名を「株式会社オーレック」に改めるとともに、工場の拡張、アメリカ・シアトルでの販売会社設立など経営の強化拡大策が推進され、「小型農業機械メーカーの雄」という地歩を確立していったのである。

本書は、オリジナリティと信頼性の訴求で草刈機市場でトップシェアを誇るオーレックの創業者・今村隆起氏の、日本の農業界に残した業績を振り返りつつ、その意志を受け継ぎ、オーレックの事業を世界規模へと拡充した今村健二氏の独自の経営戦略を紹介するとともに、その根幹にある経営理念や人生哲学を解き明かすものである。

現在、農業機械業界に身を置く人のみならず、日本の農業と食料、さらには環境問題などに関心を寄せる多くの一般読者にとっても貴重な指針となるであろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年二月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 日本の「食」と「農」は危機状態!

日本は「農業国」か「工業国」か
食料自給率は先進国中最低の日本
輸入の七割を五つの国・地域に依存する
戦後の工業重視政策で農業は脆弱化
農家に迫る深刻な問題――高齢化・後継者難の波
農業と食料供給体制を見直す潮時
国は農業経営近代化と合理化支援
農業機械市場に見られる新しい波
足元にやるべきことがまだある


第2章 「草刈機」トップメーカーへの道のり

実体は大手メーカーのOEM製造者
用途別に種類がある草刈機
「農具」「農機具」「農業機械」の定義
関東進出で飛躍への契機をつかむ
地を這うように探る現場の情報
徒手空拳、新天地に拠点を構える
止血剤を飲みながら悪戦苦闘する日々
クレームを糧にする
無理に売らなくとも売れる製品
顧客こそがトップセールスマン


第3章 「超顧客志向」で独創的な製品を開発

品格のある農業機械製品とは
連綿と受け継がれる創業の精神
経営の核心を表現する「OREC」
「業界初」をつくることが存在証明
主要な部品の内製化で自立する
開発担当者一人が一製品を担当
バーチャル設計とリアル設計の決定的違い
ハイテク活用と人的な情報交換
マーケットインとプロダトアウト
売上高ではなく貢献高


第4章 小型農業機械分野のさきがけとして
 ――創業者・今村隆起の挑戦人生――

不撓不屈、決してぶれない思考
進取・先攻の気性に富んだ創始者
農作業の軽減化・省力化に注力
極意と日本一のモノづくり志向
先行投資で日本一、先を行く企業
DNAとして伝えられた困難に臨む勇気と決断力
節約しろ、使うときはドンと使え
食品売り場で食文化を諭された話
田舎娘は全国に通用しない
よい家庭環境こそが会社の基盤


第5章 継続のなかに革新を織り込む経営哲学
 ――一を一〇〇にする今村健二の思考法――

研究開発基地のテクノセンター
経営者に不可欠な人材の育成法
じっと十年、我慢の成果
一の力を百人力に変える
人財育成も兼ねたオーレック祭
人との融和で活性化する組織
一人ひとりが考える判断の基準
農業は健康産業であった
健康食品「黒の薩摩青汁」開発経緯
西日本と東日本、そして世界へ


第6章 受け継ぐモノづくり精神で世界へ

世界に飛翔するオーレック魂
難問山積の時代、突破口を探す
海外進出にともなう産業空洞化論に疑問
世界企業になるための四つの道筋
小型農業機械領域を進化・深化させる
伝統とノウハウを生かす新事業
健康食品で探る新機軸の方向性
実現に向け同時進行中の六事業
アジア、オーストラリア、南米の環太平洋州
世界人として世界企業への邁進


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2020/02/06

『信頼への挑戦』 前書きと目次

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信頼への挑戦
~千代田セレモニーグループのあくなき情熱~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-365-8
初版発行:2012年4月29日 初版発行




はじめに

「男性七十九・六四歳、女性八十六・三九歳」

これは日本人の平均寿命(平成二十二〈二〇一〇〉年)で、女性は二十六年連続で世界第一位、男性は香港、フランス、スイスに次ぐ第四位である。第二次世界大戦前には、男女とも五十歳を下回っていたことを考えれば、なんと長命になったことか。

たしかに長寿にはなった。しかし、だからといって無限に生きられるわけではない。人間は、寿命が尽きれば死ぬ運命にある。たとえ若くしても、病気、事故、そして犯罪などに巻き込まれて生命を落とす人は少なくない。死は、いつも生の隣にあるのだ。

それを如実に見せつけられたのが、平成二十三年三月十一日に発生した東日本大震災である。地震と津波は、さっきまで生きていた多くの人たちの生命を一瞬にして奪い去った。それは、生の限界と死の必然、すなわち生あるものは必ず死ぬという冷徹な事実を改めて知らしめることになった。

実際、東日本大震災を契機に日本人の死生観、さらには死者を見送る葬式に対する考え方も変化してきた。震災をきっかけに、葬式は単なるセレモニーではなく、故人と残された人たちとの絆を見つめ直す場であり、祈りと鎮魂の場であることを改めて気づかされた人も少なくないはずだ。

本書で取り上げる千代田セレモニーグループ代表・大石和雄氏は、「大災害の発生を契機に日本人がむかしから大事にしている人と人の絆を見直す気運が高まっています」と指摘する。

その根拠として、被災地ではいまも行方の知れない身内を探索し、倒壊した家から先祖の位牌を捜す人たちが大勢いることをあげる。

人と人との絆は、生者と生者だけのものではない。共に生き、人生に歴史を刻みながら故人となった死者とも絆が結ばれているということだ。

平成二十三年八月十八日のNHKの「ニュースウォッチ9」で、大石氏の言葉を裏づけるような映像が放送された。

被災地の一つである宮城県では、身元不明の多くの遺体が、正規の弔いを受けないままに仮埋葬された。その事実に心を動かされた女性写真家・広瀬美紀氏が、震災から間もない四月に現地を訪れて、仮埋葬の様子を撮影しようとしたのだ。

彼女は、昭和二十年三月の東京大空襲で身元不明のままに埋葬された人たちの墓などを撮影し、『わたしはここにいる』という写真集を発刊し、写真展を開いている人物である。だから、東日本大震災で仮埋葬された人々の墓を写真に記録し、その人たちの生きていた証を世間に知らせたかったのだろう。

大石氏は「葬式は人と人の永遠の別れに際して心の区切りをつけ、故人の冥福を祈ると同時に、残された人たちの悲しみを癒す大切な行事です」と葬儀の意義と必要性を説く。すなわち、葬式は、死者と生者の関係に根ざす厳粛な儀式であり、やむにやまれぬ気持ちが葬式をあげる動機になっているということだ。だから、「葬式で大切なのは故人に対する深い愛情なのです」という。

だが大石氏は、従来の葬儀における葬儀業者と宗教者の考え方や振る舞いに問題があったことも認識している。だから、葬儀のあり方が議論されることは必然であり、生者と死者の永遠の別れを演出する葬式にも、時代の要請が反映されるのは当然ととらえている。

「現代日本人の葬式に対する要求は十人十色。多様化、個性化、簡素化が進むのは、時代のしからしむるところです。ですから、葬儀の主催者も葬儀業者も従来の形式、規模、施行方法にこだわる必要はありません。葬家が納得し、満足する葬式をあげるように最大限の努力をすればいいのです」と明言する。

千代田セレモニーは、この大石氏の考え方にもとづき、「葬家が納得し、満足する葬式の施行」を経営理念に掲げている。

同社は、創業時から一貫して、「故人のため、そして故人の身内のための個性豊かな葬儀を実現し、遺族や会葬者に感動をもたらす」ことを追求してきた。それが同社の企業テーマ「心のサービス」である。

また、大石氏が自身の経営施策においてもっとも重視している点は、「安心・安全の互助会システム」の堅持である。それは、近年、世間で話題を呼んだ『葬式は、要らない』(島田裕巳著/幻冬舎刊)という書物で指摘されている葬儀業者や宗教者に対する不信を払拭するものにほかならない。

同社が運営する「互助会」の正式名称は「冠婚葬祭互助会」である。会員が毎月一定額を積み立て、それを葬儀や結婚式の必要が生じたときに利用するという仕組みである。それは、江戸時代から戦後まで続いた「頼母子講」を起源とする「相互の助け合いの精神」を基盤にするもので、特徴は「少ない掛け金で大きな安心が得られる」ことである。

だから、互助会を運営する会社に経営の破綻は許されない。実際、大石氏は「互助会運営企業の破綻は、会員に対する重大な裏切り行為である」と明言している。

その互助会システムで「安心・安全」を確立するために同社は、① 経営基盤の確立、② 人的・物的サービスの向上、③ よいものをより安価に提供する努力、の三項目を経営指針として掲げている。

三項目の経営指針を掲げた裏には大石氏の経験がある。大石氏が入社したばかりのころの、同社を含めた互助会企業や葬儀業者の仕事は、旧態依然としたものだった。

葬家のなかには、式の施行後に感謝の言葉を述べる人もいたが、少なからぬ人たちが不満の念を抱き、実際に苦情の言葉を口にする人たちもいたのである。葬儀現場で、そうした事態を目のあたりにした大石氏は、「いつかきっと心のサービスを実現する」と心に誓ったのである。

大石氏がめざしたのは、「自分が真っ先に入会したい互助会システム」の構築であった。それを実現するために先にあげた三項目の経営指針を策定するとともに、厚生労働省が認定する葬祭ディレクターをそろえ、葬祭ホールや施設を整備、充実させ、二十四時間三六五日、いつでも電話で受け付ける体制を整えた。

同社は、葬祭ビジネスの強化、拡大に力を注ぐだけではなく、地域密着という社会的な使命を果たすことにも尽力している。

「葬祭業は地元産業」というのが大石氏の持論である。互助会会員は、同社の営業所や葬祭ホールがある地域で暮らす人たちである。いずれも同じ地域、町会に所属する「隣組」なのだ。この近隣に住む者同士の関係を重視し、長い間日本人が失っていた「人と人との絆」の再生をはかり、家族の絆と地域連帯意識の再生を達成するのが千代田セレモニーグループの究極の目的である。

本書は、冠婚葬祭互助会システムの普及により、新しい時代が求める葬祭儀式を施行しながら、人と人との絆の再生に取り組む千代田セレモニーグループの事業活動を紹介するとともに、同グループ代表・大石和雄氏の経営理念、葬祭思想を解説するものである。はからずも、東日本大震災は、年齢や病気の有無にかかわらず、死は誰にとっても身近なものであることを知らしめることとなった。それだけに、これは現在、冠婚葬祭業界に身を置く人だけではなく、自分自身、あるいは家族の葬祭儀式のあり方に思いをめぐらす多くの一般読者にとっても貴重な示唆を与えるものとなるはずだ。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年二月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 いま、お葬式が変だ!

人生の節目で実施される冠婚葬祭
葬式論議に火をつけた書籍『葬式は、要らない』
葬式の通俗化に対する批判が主旨
葬式の知識と経験がない消費者たち
人と人との絆を中心にして葬式を考える
変貌する葬式のかたちと内容
「感動の葬式」の実現


第2章 千代田セレモニーグループ・大石和雄の情熱の軌跡

葬儀とは……
感動こそ「心の葬儀」の根幹
「いつかはきっと心の葬儀を」と心に誓う
なかなか成果を出しきれない日々
釣り仲間に誘われて冠婚葬祭会社に入社
会員なくして、なんの互助会ぞ
会員不評の改善を
顧客本位の考え方で葬祭部の業務を改革
脱脂綿を敷き詰める新しいかたちの納棺を実施
コンピュータ化で業務の効率化を
隔月集金の体制を取り、集金の効率化をはかる
労働組合対策の責任を担う
さらなる業務改革をめざして
築地本願寺での社葬の挙行
新たなる船出に向かって


第3章 千代田セレモニーの挑戦

「城北冠婚葬祭互助会」として発足
地域密着の活動で加入者を増やす
首都圏最大規模の冠婚葬祭グループ・千代田セレモニー
「心のサービス」で他社との差別化をはかる
「安心・安全」の互助会システム
時代を読みよりよいものを
旗艦店としてグループを牽引するセレス高田馬場
会員救済と業界の信用保持を目的に互助会再建に乗り出す
ゆかりの地・山梨での再建


第4章 互助会のあり方を問う

伝統的な美風「助け合いの精神」である互助会
「互助会加入者役務保証機構」を設立
儀式の施行と設備の新調などに使用される掛け金
葬祭ディレクターが儀式の万端を取り仕切る
昭和二十三年に横須賀市ではじめて誕生した互助会
経営規模が多様な互助会企業と葬儀業者
異業種からの参入相次ぐ葬儀市場
「安全・安心」「迅速・便利」の千代田セレモニー
頼りになる「安心プラン」と「やすらぎコース」
いざというときにあわてないために
緊急時における連絡と対応の仕方
満足と感動を与える


第5章 時代とともに変化する葬式事情

六万年も前から続いている葬儀
世間をにぎわす「葬式不要論」
変わりはじめた日本の葬式事情
すでに変化している葬式の形式
一挙に通夜と告別式を実施する「ワンデーセレモニー」
自分らしく死ぬ準備をした歴史上の人物
死と向き合い乗り越える
変化しつづける葬儀


第6章 いま「心のサービス」の時代を迎えて

個性化、多様化する市場に柔軟に対応
互助会の真価が発揮できる時代が到来
千代田セレモニーがめざす新しいかたちの葬式
後継者の育成が最後の仕事
在宅介護事業という新たなる分野へ
「とにかくやってみろ」


座談会 冠婚葬祭業界の未来のカギを握る「心のサービス」の継承

生き残りのカギは「心のサービス」
ぶれることのない大石の組織のあり方論
信頼を貫き通す力
受け継がれる「心のサービス」


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2020/01/29

『「タイムズ」が切り開くクルマと社会の新たな未来』 前書きと目次

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「タイムズ」が切り開くクルマと社会の新たな未来
~パーク24グループの飽くなき挑戦~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-462-4
初版発行:2020年1月29日 初版発行




はじめに

クルマをめぐる環境が大きく変わりつつある。

「われわれは、たんに自動車をつくるのではなく、モビリティを提供するのだ」

と、ダイムラーのツェッチェ会長(当時)が株主総会で宣言したのは、2015年のことだ。この宣言は、情報通信技術の進化にともない、自動車メーカーは「自動車の販売台数を増やす」というビジネスモデルから「自動車による移動(モビリティ)を提供する」というビジネスモデルへと自らの事業領域を再考する必要性があると訴えたものとして、世界中の自動車業界に大きなインパクトを与えた。

クルマ社会を取り巻く環境変化を踏まえ、いち早くモビリティソリューション事業へと移行する欧米を急追し、日本でも「MaaS」(マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティをシームレスにつなぐ新たな移動の概念)や「CASE」(コネクティッド化、自動運転、シェアリング、電動化)への取り組みが繰り広げられつつある。世界産業の根幹のひとつである自動車産業は、「所有」から「移動サービス」へとパラダイムを変えようとしているのだ。

そうしたなか、快適でストレスのない移動を実現するための先駆的なサービスを次々と提供している企業がある。それが本書で紹介する、パーク24株式会社(本社:東京都品川区)を中心とするパーク24グループだ。「タイムズ」ブランドの駐車場事業を基軸に発展を遂げ、カーシェアリングサービスへの参入をきっかけにモビリティ事業の拡充にも注力するパーク24グループは、他の追随を許さない圧倒的な強さで業界トップを独走している。

カーシェアリングというサービスが多様性のある社会を支える交通手段としてあたりまえのように使われるようになれば、人々のライフスタイルにも変化が生じてくるだろう。グループの中心であるパーク24株式会社およびタイムズ24株式会社の代表取締役社長を務める西川光一氏は、そのときの到来を見据え、

「カーシェアリングを、鉄道、バス、タクシーに次ぐ第4の交通インフラにする」
「鉄道が大動脈なら、カーシェアリングは毛細血管である」

と宣言し、展開している各サービスのシームレス化の実現を着々と図っている。

パーク24グループは、世界でトップクラスの駐車場運営件数を誇ると同時に、カーシェアリングサービスにおいても100万人以上の会員を有する、名実ともに国内ナンバーワンの企業である。基幹となる「タイムズクラブ」の会員数は約800万人で、これは日本における自動車保有台数の約1割に相当する数だ。

パーク24の歴史は、1971年に西川氏の父親である故・西川清氏が東京の西五反田で「駐車禁止」の看板の製造販売を行ったことから始まった。

並外れたエネルギーと発想力の持ち主であった西川清氏は、駐車機器の販売で企業としての力をつけたのち、1991年に日本初の「24時間無人時間貸駐車場による駐車場ビジネス」という未開のビジネスモデルを築いた。その後も「駐車場はサービス業」という信念のもとに次々と清氏から発せられた構想は、当時は荒唐無稽とも思われたが、西川光一氏の代になり、カーシェアリングサービスを筆頭に、多くが現実のものとなっている。

「先代(清氏)には、『0』を『1』にする力、『無』から『有』を生み出す力がありました。私の役割は、その『1』を『10』にする、あるいは『10』を『100』にすることだと思っています」

と語る西川氏が、先代社長の西川清氏から受け継ぎ、会社のイズムとして大切にしているのは、「誰もやらないことを先駆けて行う」というチャレンジ精神である。

「常に『次なる挑戦』がないと、企業はパワーを失います。パワーのない普通の会社になってしまっては、おもしろくもなんともありません」

と語る西川氏は、2004年にパーク24の代表取締役社長に就任すると、「『1』を『10』にし、『100』にする」という自らの使命感と、先代から受け継いだチャレンジ精神とを最大限に発揮して、海外進出、モビリティサービスの開拓などを展開し、事業領域を拡大してきた。

すべての事業を自前で行う体制により、迅速な開発スピード、顧客の要望への的確な対応、そして挑戦への気概を社風とするパーク24グループは、いまも進化を続けている。

次なるステージは、「人(会員)」「クルマ」「街(目的地)」「駐車場」の4つのネットワークの拡大とシームレス化の推進だ。

レンタカーとカーシェアリングを融合した新しいモビリティサービス「タイムズカー」の構築や、移動の目的地をネットワーク化するツールとしてのキャッシュレス決済サービス「Times PAY」の普及促進といった、従来のサービスの垣根を超えたサービスの提供は、誰もがいつでもどこにでも快適に移動できる社会の実現に、大きな役割を果たすことになるだろう。

それまで千代田区有楽町にあった本社を、2019年5月に創業の地・品川区西五反田に移転したと同時にCI(コーポレート・アイデンティティ)とBI(ブランド・アイデンティティ)をリニューアルしたパーク24グループが掲げる新たなグループ理念「時代に応える、時代を先取る快適さを実現する。」には、チャレンジ精神と、情熱をもち最後まで成し遂げることへの、強い決意が込められている。

本書では、駐車場を軸としたビジネスのパイオニアであり、業界トップを走り続けるパーク24グループの今日までの歩みを振り返るとともに、より豊かな社会を実現すべく「快適さ」をキーワードに挑戦を続ける同グループのさまざまな取り組みについて紹介する。

モビリティサービスの拡充は、交通渋滞の緩和や温室効果ガスの削減、ひいては持続可能な社会の実現へとつながるものであり、その分野を牽引するパーク24グループの取り組みや考え方は、クルマを利用する、しないにかかわらず、現代社会に生きるすべての人々にとって貴重な指標となるだろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


2019年12月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 いま、創業の地から新たなるステージへ

創業の地・西五反田に本社を移転
創業の地で次なるステージへ
新CI、BIに込めたもの
新しいグループロゴが打ち出すモビリティ事業拡大への挑戦
勝利の法則を踏まえ、新たなレースに挑む
「あたりまえ」のなかに隠された不便さにビジネスチャンスがある


第2章 駐車場ビジネスをサービス業にした「タイムズパーキング」

需給バランスの悪さは伸びしろの多さを示す
日本における駐車場の変遷
バブル経済崩壊が追い風となって
足で稼ぎ、地元の人と密着して駐車場をつくる
公共性、社会性の高い「パートナーサービス」
パーク24グループの根幹インフラ「TONIC」
オンラインシステムの衝撃
オンラインシステムが生んだ新たなサービス
最新のテクノロジーと泥臭さを融合
海外駐車場のグループ化で世界ナンバーワンの駐車場事業をめざす
提案から工事、管理まで一貫体制


第3章 時代をリードする「タイムズ」のモビリティ事業

新しいブランドコンセプトが意味するもの
カーシェアリングサービスへの参入
わかりやすい利用方法と料金体系
カーシェアリングのメリットは法人にも
「タイムズカーシェア」はITの塊
安全運転へのしくみづくりで利用者に快適さを
「レール&カーシェア」という新たな移動手段
「タイムズパーキング」のあるところに「タイムズカーシェア」あり
ゲーム感覚で競える「エコドライブ選手権」
第4の交通インフラをめざして
カーシェアリングを地域振興の起爆剤に


第4章 「人」「クルマ」「街」「駐車場」の4つの資源をネットワーク化

4つの資源が掲げる方向性
カーシェアリングとレンタカーのよいところを融合
「目的地」をネットワーク化する
「たのしい街」はネットワーク化の先駆例
「Times PAY」のメリットとは
街に根づく個人事業者に歓迎される「Times PAY」
街全体を「タイムズパーキング」の「パートナーサービス」に


第5章 グループの総合力で時代に先駆ける「快適さ」を追求

「第7回 技術経営・イノベーション賞」において「内閣総理大臣賞」受賞
パーク24グループの編成
自前主義の一気通貫サービス体制
グループの一体感を高める新人事制度
「知的創造の場」としての新オフィス
東京オリンピックで金メダル獲得をめざす「パーク24柔道部」
社会貢献はパーク24グループのDNAのひとつ


第6章 稀代の経営者・西川清の「無から有を生み出す」発想と信念

100kgを超す巨体から発せられる圧倒的なエネルギー
資本金は妻の持参金の100万円
最初の事業は「駐車禁止」の看板づくり
病院に狙いを定めて「パークロック」を拡販
貧乏から、グアムへ家族旅行をする家に
50歳を前に起業家人生の勝負をかけた挑戦
知識がないからこそ、がむしゃらにできた
長男・光一の入社と店頭公開
「無」から「有」を生み出すのが本当の起業家
清の病、光一の社長就任
次なるステップへの躍進の時期


第7章 「100年に1度の大変革」の先駆けとして

カーシェアリングにEVを本格導入
ワンウェイ型カーシェアリングへの挑戦
「ETC2.0」データの活用で交通を円滑化
日本版MaaSトライアルの動きが本格化
「カーシェアリング官民共創実証事業」で地方創生推進モデルに
100年に1度の大変革の時代
パーク24グループは挑戦し続ける


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2020/01/24

『「日本リファイン」の挑戦』前書きと目次

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「日本リファイン」の挑戦
~世界に挑む溶剤リサイクルのトップカンパニー~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-367-2
初版発行:2012年6月3日 初版発行




はじめに

近年、世界各地で頻発している異常気象。その多くは、地球温暖化との因果関係が指摘されている。また、地下資源はあと七十年弱しか持たないといわれており、資源の保全と環境負荷の低減は、全世界が共通して掲げる課題なのだ。この二つの課題を同時に解決する有効な方法として考えられるのが、資源のリサイクルである。

これまで日本の化学産業は、資源小国というハンディを克服し、切磋琢磨することで磨かれてきた。この過程で獲得した環境技術の多くは、世界的にみても高水準のものとなっている。今後、日本の企業が世界で存在感を示すためには、環境技術において、さらなる技術の進歩は欠かせないテーマといえる。この点において、重要なカギを握るものの一つに、溶剤のリサイクルがある。

われわれの周辺では、さまざまな場面で溶剤が使われている。それは塗料や印刷インキ、接着剤、医薬品、液晶や半導体の製造工程、ファインケミカル分野、リチウムイオン電池の製造工程など多岐にわたり、現在国内で消費される溶剤の量は年間約二三〇万トンにもおよぶ。問題なのは、これらの溶剤の生産から使用、廃棄までの間に、その質量の数倍~一〇倍もの二酸化炭素が排出されるにもかかわらず、リサイクル率はわずか九・四%にすぎないということだ。

しかしながら、京都議定書における日本の報告書のなかには、次のような事実が紛れ込んでいる。

――使用済み溶剤に関しては、独立した項目として取り上げられておらず、大気に放散したり、燃やして、多量の二酸化炭素が排出されているにもかかわらず、ほとんどカウントされていない。

――EU(欧州連合)では、溶剤の使用による二酸化炭素排出量はカウントされているが、日本の場合、地球温暖化問題からもれている。

この結果、使用済み溶剤は、リサイクルするより、廃棄物として燃焼するほうがよい、というまったく間違った方向性が推奨されている。

「非常に滑稽な話です。これで、環境先進国などと、どうしていえるのでしょうか」と語るのは、溶剤リサイクルのパイオニアとして、国内のみならず、海外からも注目を集めている日本リファイン株式会社(本社:岐阜県安八郡輪之内町)の名誉会長・川瀬泰淳氏と代表取締役社長・川瀬泰人氏である。

「数字を見れば、依然として大量の溶剤が使用されているにもかかわらず、回収もされず、ましてやリサイクルもされず、年間一〇〇万トンが大気中に排出され、リサイクル率はわずか九・四%。いまどきとんでもなく低い数字です。このリサイクル率を少しでも改善し、環境保全・資源循環の一助になろうというのが、われわれの溶剤リサイクルという事業なのです」

溶剤のリサイクルには大きく二つの技術が必要になる。

排気あるいは排水などに混ざった溶剤を分離・回収する技術と、回収した溶剤を精製する技術だ。その両方のオリジナル技術を持つ同社では、これらの技術を顧客ニーズや条件に応じて、設計・装置販売と同社工場内での精製リサイクルとを組み合わせて提案している。

「わが社が販売するガス回収装置を使用した場合、溶剤成分のほぼ全量がロスなく回収されます。さらに、回収された溶剤は、当社の工場において品質のよい再生品として精製され、新品の半額以下で提供できているのです」と、川瀬氏は自社の技術に自信を見せる。

もともと、自動車、家電メーカー向けに塗装機を販売するセールスエンジニアだった川瀬氏は、塗装現場で大量に廃棄されている石油系溶剤を見て、「もったいない」という意識を強く持つようになり、そのリサイクルに着目。その後、廃シンナーの蒸留・精製を目的として「豊田化学工業」の設立に参画する。業務は、トヨタ自動車の生産ラインから排出された廃シンナーのリサイクルが中心で、業績は順調に推移した。しかし、さらに広い分野の資源リサイクルを手がけるために、川瀬氏は独立を決意。昭和四十一(一九六六)年、日本リファインの前身である「大垣蒸溜工業株式会社」を設立した。

当時の日本は、モノを生産することだけが注目される時代だった。そうした環境下、いち早くリサイクルに注目した川瀬氏の先見の明には卓越した才気を感じさせる。一方で、川瀬氏は有機溶剤リサイクルの認知度を上げ、さらなる普及をはかるため、平成六年に日本溶剤リサイクル工業会を発足。現在に至るまで、会長を務めている。

平成十五年から同社の社長に就任している泰人氏は、入社して間もなく、名古屋工業大学応用化学科に研究生として通った。新たな分離プロセスを開発するための技術計算法を学び、同社に当時やっと企業で使用されはじめたパソコンを導入、これを機に同社の技術開発力を強化し、その成長に貢献した。

親子タッグで躍進を続ける日本リファインが、いま力を入れているのが、リチウムイオン電池や液晶といった先端分野だ。特に有望なのは、今後、確実な普及が見込まれる電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池の電極製造に欠かせない溶剤「N-メチルピロリドン(NMP)」の回収・再生事業で、すでに同社では岐阜県にある輪之内工場にリチウムイオン電池向けNMP専用のクリーン充設備を導入、積極的な販売を開始した。また、海外展開にも意欲的で、平成十二年には台湾、平成十五年には中国の蘇州に、それぞれ現地法人を設立。今般、蘇州工場の大幅な増設を完成させるとともに、ヨーロッパ、アメリカへの進出も視野に入れている。

日本リファインは、自社のリサイクル業務をリファインと定義づけ、「環境保全と資源循環」という、世界が直面する課題に、すぐれた溶剤リサイクル技術によって貢献してきた。それは日本だけでなく、世界規模でとらえなければならない大きな課題に、どのように道筋をつけていけばいいのかを示唆しているといえるだろう。

本書では、もったいないという思いから創業し、半世紀にわたりリサイクルを環境問題、資源問題のソリューションとしてとらえ活動してきた日本リファインの事業内容を紹介するとともに、川瀬泰淳氏、泰人氏の親子二代に通じる経営理念、ビジネス哲学を検証する。

これは石油関連業界、リサイクル業界のみならず、地球の将来を考えるすべての読者にとって、貴重な指針の書となるであろう。

なお、本文中の敬称は省略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年三月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 環境保全と資源循環が世界共通のテーマ ――破壊と収奪に急制動!!――

宝の山の「都市鉱山」とは何か
日本がリードしていくべき課題だ
全世界が経済成長をめざした時代
人類のおごりが地球環境破壊の要因
世界共通語「MOTTAINAI」の先駆
ポスト成長というステージで
この先は足るを知るべき時代
資源小国・日本が培う環境技術


第2章 溶剤リサイクルの先駆者「日本リファイン」 ――逆境のなかで描いた夢の結実――

溶剤リサイクルとは
「もったいない」から起業した
溶剤リサイクル事業の先駆者
既存の溶剤業界から猛烈な攻撃
リサイクル事業で地球を救済!!
理論を実践に落とし込んだ背景
化学工学界の権威者に学ぶ理論
化学工学的な視点から得た助言
分離・回収と精製技術の両軸足
日本の環境改善技術で世界牽引


第3章 地球環境と資源を守る溶剤リサイクルとは ――溶剤の回収と再利用は時代の要請――

精製リサイクル事業の業容検証
エルファイン/濃縮乾燥装置で資源リサイクルおよび廃棄物の減量化に貢献
ソルスター/不揮発成分を含む使用済み溶剤・排水などの再資源化と減量化に寄与
ソルピコ/低ランニングコストを実現する高度な技術力を駆使した排水処理
エコトラップ/リチウムイオン電池製造工程の排ガスからNMP溶剤を回収
溶剤回収と再利用は時代の要請
溶剤のリサイクルをリードする
事故を教訓に安全な技術を磨く
海外展開の足がかり台湾へ進出
環境保護対策で中国行政が支援


第4章 リサイクルからアップサイクルへの転換 ――パラダイムシフトが起きている――

二十世紀科学を精査・精算するとき
総合的な解決策の提起と実行
ネイチャー・テクノロジーとは
産業革命で決別した自然へ回帰
地下資源文明から地上資源文明
いまリサイクルからリファインへ
環境ビジネスを成立させる手法
動く日本溶剤リサイクル工業会
パラダイムシフトを生かすには
アップサイクルへの階段を上る


第5章 創業者・川瀬泰淳の経営理念とビジネス哲学 ――はじまりはもったいないから――

台湾に生まれ戦後日本で生きる
医学を断念し、工学の道へ進む
溶剤再生ビジネスで独立を画策
豊田化学工業設立に参画
独力で大垣蒸溜工業の立ち上げ
あのころはなんでもやったもんだ
関東へ進出、組織一元化をはかる
次世代への継承
親子二代にわたる器づくり


第6章 日本リファインが切り開く溶剤リサイクルの未来 ――自然観の涵養と海外構想――

日本リファインが求める人材力
いま、求められる人材とは?
できないのできる変換
オンリーワンの強みを持つ
自然界から学ぶ観察力、洞察力
今後を切り開く人の心のあり方
求められ拡大する海外進出構想
屋久杉は寡黙ゆえに語っている
なんのための事業かを模索
意識改革する人が資源だ!!


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2019/11/28

『生きる力を支える医療』 前書きと目次

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生きる力を支える医療
~歯科からはじまる医療革命~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-368-9
初版発行:2012年6月8日 初版発行




はじめに

東日本大震災から一年が経過した。しかし、東北の被災地はいまだ復興の途についたばかりであり、これからが本格的復興に向けて、日本の底力が試されるときである。

今回の震災では命の尊さとともに、「生きる力」について改めて考えさせられた人も多いのでないだろうか。震災直後には一人でも多くの命を救うため、国内各地はもとより、海外からも医療支援チームが続々と被災地入りした。そうした一般の医療チームの陰に隠れ、その活躍ぶりが意外に知られていないのが歯科医療チームの存在である。

災害発生時にまず歯科医師に求められる重要な任務が身元確認作業だ。東日本大震災による死者・行方不明者は約一万九〇〇〇名にのぼるが、日本歯科医師会によると、震災翌月の四月時点で一一〇〇名を超える全国の歯科医師が身元確認派遣に登録。早速、被災地や警察庁の要請を受けて被災各県に派遣され、身元確認作業にあたった。

歯科医療界の震災復興支援活動は、震災直後の身元確認作業から、その後は本来の役割である歯科医療や避難所で生活する人たちの口腔ケアなど、歯科保健活動が重要な仕事となっていった。

そこで、全国各地の歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士の歯科医療チームが現地入りするとともに、歯科医療機器メーカーからは緊急支援物資として歯科器材、薬剤、歯ブラシ、口腔清掃材、義歯洗浄剤などが提供され、歯科医療界と歯科医療産業界が一体となって復興支援活動に取り組んだ。

日本歯科医師会でも会長・大久保満男氏を中心に、いち早く災害対策本部を立ち上げ、被災地を訪れて状況把握に努め、政府に対し、仮設歯科診療所の設置を要望した。というのも、ほとんどの歯科診療所が全壊・流出した地域も多く、そうした地域の歯科医療確保のために、国による設置を求めたのである。

政府も歯科医療の重要性を認識し、その案件は第一次補正予算に盛り込まれ、二一カ所の仮設歯科診療所が設置された。

また、避難所や仮設住宅には介護する人がいなければ自分では外に出られない高齢者も大勢いた。避難所のなかには当初、水道がなかなか復旧せず水不足が続いていた地域も少なくなく、そのために口腔ケアが行き届かないことで誤嚥性肺炎を引き起こす危険性も高い状況にあった。

それに加え、高齢者のなかには、入れ歯をなくしたり、入れ歯が合わなくなって、ものが食べられずに困っている人も多かった。そこで巡回診療用に二〇台以上の車が用意され、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士たちがチームを組んで避難所や仮設住宅を訪問し、訪問歯科診療を行っている。

一般医療が「命を支える医療」とすれば、歯科医療は「生きる力を支える医療」といわれる。生きることは食べつづけることであり、口や歯は人間が日々生きていくためのエネルギーを取り込んだり、人とコミュケーションをとるために会話をするうえで非常に重要な役割を果たしており、それらを支えるのが歯科医療というわけだ。

被災地ではこれからもまだまだ長い戦いが続くだろうが、被災者の復興に向けた生きる力を支えつづけていくためにも、歯科医療界、歯科医療産業界が果たすべき役割はますます大きくなっていくものと思われる。

もちろん、口や歯の健康にかかわる歯科医療の重要性は被災者に限ったことではない。口腔の健康は生活の質(QOL)の向上に直結するもので、歯科疾患による歯の喪失は、食べる、話すといった機能が損なわれるだけでなく、糖尿病、動脈硬化、肺炎など全身疾患とも関連することがさまざまな研究データから明らかになっている。

平成元(一九八九)年からは、当時の厚生省と日本歯科医師会により、「八十歳になっても二〇本、自分の歯を保とう」という「八〇二〇運動」が提唱され、国民運動として展開されてきた。一生、自分の歯で健康的な食生活が楽しめるよう、子どものころからのデンタルケアの重要性を打ち出したものだ。

実際、高齢になって歯がたくさん残っている人ほど元気で、認知症にもなりにくいというデータもあり、仮に歯がなくなっても、しっかりした義歯が入っていれば、健康悪化の度合いは低くなる。

だが、日本人の場合、一般的には歯が痛いなど、なんらかの異常を感じはじめてから歯科を受診しようとする人が多く、欧米に比べ、予防に対する意識が低いことも否めない。これは、日本の医療保険制度が治療重視のかたちをとってきたことが、大きく影響していると考えられる。

こうした事態を考慮し、政府は平成二十三年八月に「歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)」を制定・施行している。この法律では口腔の健康が国民の健康を維持するうえで極めて大きな要因になっているという事実を示すとともに、口腔の健康は日々の予防活動によって実現することが明記された。

まして日本は世界に冠たる長寿国である。いくつになっても健康で自立した生活を営める健康長寿社会の実現に向けて、歯科医療の果たすべき役割はいちだんと増してくる。

小さいころからの歯磨き習慣の定着などにより、むかしに比べ、むし歯の患者数は激減したが、代わって増えてきたのが歯周疾患患者だ。それにともない、歯科診療の形態は局所的な治療にとどまらず、口腔機能の改善、維持・向上をはかるため、予防を中心とした疾病管理へとシフトしつつある。そうした診療形態の変化に即した新たな歯科医療技術を確立するためには、新規医療機器・材料の開発が不可欠になってくる。

日本の歯科医療技術は、いまや世界的にみても高い水準にあるが、医療技術の高度化は歯科医師の技術だけで実現されるものではなく、歯科医療機器や歯科材料の改良・開発なしには考えられない。事実、これまでも、日本のものづくりの技術から生み出されるすぐれた歯科医療製品の数々が、歯科医療の発展に大きく貢献してきたのである。

とりわけ歯科医療技術と歯科材料工業は唇歯輔車(言葉の意味の詳細は本文にて)の関係にあるといわれるように、わが国の歯科医療技術は歯科材料の発展とともに育まれ、その歴史はおよそ九十年前にまでさかのぼる。

当時、歯科材料は外国からの輸入に依存していたのだが、国産の歯科材料としてセメント材料の独自開発・製品化を成功させたのが、株式会社ジーシー(本社:東京都文京区、代表取締役社長:中尾眞氏)である。

創業は大正十(一九二一)年。一般の人への社名浸透度は低いものの、歯科医療総合メーカーとして長年、わが国の歯科医療産業を牽引してきた同社は、世界の大手メーカーとも肩を並べ、現在では世界一〇〇カ国以上で約六〇〇種類の製品が販売されている。ジーシーの歩みは日本の歯科医療機器産業の歴史と歩を同じくするといっても過言ではない。

同社には創業者の一人で、現社長の祖父にあたる中尾清氏が提唱した「施無畏」の精神、すなわち、相手の立場に立って考え、行動するという教えが社是として脈々と受け継がれ、相手の身になった真のものづくりが実践されている。

歯科医療製品を通じて、世界中の人々に「生きる力を支える医療」を提供するとともに、健康長寿社会の実現に貢献する企業グループでありつづけたいというのが同社の基本的な考えだ。

歯科材料分野では国内ナンバーワンであり、国内シェアの約三割を占めているが、非上場の方針は一貫して揺らぐことはない。企業として利益を確保するのは、あくまでも歯科医療製品の研究・開発を続けていくためであり、歯科医療の発展を使命と考えるからだ。同社では社員をはじめ、歯科医療従事者をなかまと呼んでいる。それは、「会社は投資家が動かすのではなく、なかまが動かすもの」というスタンスで、創業以来、貫いている。

同社代表取締役社長・中尾眞氏は、平成二十三年六月まで六年間にわたり、日本歯科商工協会会長を務めていたが、その間、平成十九年には、臨床分野の日本歯科医師会の会長・大久保満男氏、学術分野の日本歯科医学会の会長・江藤一洋氏らとともに臨学産の三者協議を進め、歯科医療界としては初めての「歯科医療機器産業ビジョン」をまとめ、政府に提言。これは現政権の新成長戦略にも盛り込まれている。

世界最速で超高齢社会へ突き進んでいる日本は、健康長寿社会を実現するためにも、生きる力を支える歯科医療を充実させ、世界にその範を示していく必要がある。

本書では、わが国の歯科医療の現状と課題を検証しつつ、世界的に高齢化が進むなか、多様化・高度化する歯科医療へのニーズに応え、地球市民のQOLの向上をはかるために、歯科医療産業の果たす役割について、ジーシーの活動を例に考察したい。

本書をご一読いただき、健康長寿社会の実現に向けて、一人でも多くの方が生きる力を支える歯科医療の重要性を認識し、最先端の歯科医療技術、ならびに歯科医療機器・材料の開発に理解・関心を示してくだされば、これに勝る喜びはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年四月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 生涯にわたり「生きる力」を支える歯科医療

健康寿命延伸のカギを握る口と歯の健康
目標値を上回る「八〇二〇運動」の成果
先進国ほどむし歯は減少傾向に
むし歯は補綴治療から予防の時代へ
世界的な広がりを見せるMIの概念
むし歯に代わって増加してきた歯周病
歯科疾患と全身疾患とのかかわり
欧米諸国に比べて低い歯科受診率
歯科医師は本当に供給過剰か?
歯科医療の新たな可能性を探る
口腔衛生に目を向けはじめた国の施策
生涯を通じた口腔ケアを推進
臨学産の連携で策定された歯科医療機器産業ビジョン


第2章 品質力を誇る日本の歯科医療製品

歯科医療分野でも高評価の日本のものづくり
ユーザーの声を反映した新製品開発
WHOとの共同研究で開発途上国の歯科医療に貢献
MIコンセプトにもとづく研究開発
画期的なボンディング材を開発
ユーザーの利便性を追求した機能包材
歯科医療製品の国際競争力を強化
「絶対品質」をテーマにした生産拠点
世界のものづくりをリードする人づくりにも注力
高品質な製品づくりを支える品質経営


第3章 歯科医療情報の発信とサービスの提供

歯科医療関係者が集うコミュニケーションの場が誕生
歯科医療従事者と歯科材料製造者は唇歯輔車の関係
歯科医療のグローバル化に向け国際歯科シンポジウムを開催
臨床テクニックが学べる各種セミナーを開催
歯科医療の未来を担う人材育成をサポート
医療のMRに着眼したDR構想
「創る人」「売る人」「使う人」の相互関係
教育サポートでディーラーとの連携を強化
生活者への口腔保健の啓発活動を展開


第4章 日本の歯科材料の進化と歯科医療の発展とともに

歯科材料の国産化時代の幕開け
変革の時代を迎えた昭和初期の歯科医療界
歯科材料の輸入品全盛時代の終焉
戦争という激動の時代を乗り越えて
戦後の混乱から新生日本へ
歯科材料業界の復興に向けて
世界品質に向けての第一歩を踏み出す
歯科医療界の転機となったアメリカ歯科使節団の来日
歯科材料に初のJIS制定
歯科医療の近代化への布石
歯科医療のグローバル化に向けて
世界市場に向けたオリジナル製品の開発
ユーザーの潜在ニーズを掘り起こし予防歯科分野に進出
世界戦略を見据えて社名変更


第5章 健康長寿社会の実現に向けて

二十一世紀は健康の世紀
生涯にわたる「かかりつけ歯科医」のすすめ
高齢化で高まる在宅歯科医療の重要性
在宅用歯科医療機器への開発ニーズ
診断・予防の充実による新時代の歯科医療
インプラント、CAD/CAMへの挑戦が課題
日本の強みである再生医療技術を応用した製品開発
アジアを基盤に日本の歯科医療のさらなる発展を


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2019/11/12

『新たなる大学像を求めて』 前書きと目次

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新たなる大学像を求めて
~共愛学園前橋国際大学はなぜ注目されるのか~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-461-7
初版発行:2019年11月16日 初版発行




はじめに

私が若いころは中学校を卒業すると同時に就職して家計を支える者も多く、「高校を出たら大学に進学する」ということは、いまのようにあたりまえではなかった。高校時代を思い返してみても、進学する者はクラスのなかでもほんの一握りだったように思う。

それもそのはずで、私が高校3年生だった1956年の大学進学率は全体で7.8%にすぎず、男女の内訳を見てみると、男性は13.1%とかろうじて1割を超えているものの、女性はたったの2.3%だった。それに対し2018年度の大学進学率は全体で53.3%だ。男女別では、男性が56.3%、女性が50.1%となっており、男女ともに、2人に1人は大学に進学していることがわかる(文部科学省「文部統計要覧」「文部科学統計要覧」)

こうした状況の背景には、高等教育をめぐる環境の変化がある。

日本では、1973年に209万1983人を記録して以降、出生数の減少傾向が続き、2018年には91万8397人(推計値)と、1973年の半分以下にまで減っている(厚生労働省「人口動態統計」)。それにもかかわらず大学の数は増え続け、1973年には405校だった学校数が2019年には786校(文部科学省「学校基本調査」)と、およそ2倍近くにまで増加しているのだ。

そうしたこともあり、2007年春には入学志願者総数が入学定員総数を下まわり、大学や学部を選ばなければ理論上はすべての受験生が大学に入れるようになる「大学全入時代」が到来するのではないかと、教育関係者のあいだで言われたこともあった。

実際には景気回復の影響もあり、2007年以降も入学志願者総数が入学定員総数を上まわり、「大学全入時代」の到来は見送られたが、その一方で大学を取り巻く現実は、もっと厳しいものになっている。大都市圏の有名大学に入学志願者が集中する一方で、地方の大学や知名度の低い大学は学生を集めることができず、定員割れとなる大学が増えているのだ。なかには経営危機に瀕している大学や、すでに閉鎖に追い込まれた大学も出てきた。

こうした状況を打開するために、文部科学省は2016年以降、定員超過抑制策を段階的に強化してきた。だが、大都市圏にある有名大学の入試は熾烈さを増す一方で、地方にある定員割れの大学とのあいだで二極化がますます進む結果となってしまった。

ただし、地方の大学のなかにも、入学志願者が押し寄せ、定員を満たしているところもある。そうした大学に共通しているのは、偏差値だけではみることができない価値を生み、受験生や地元企業から高く評価されていることだ。

本書で紹介する学校法人共愛学園(本部:群馬県前橋市)は、大学、高等学校、中学校、小学校、こども園、さらには学童クラブまでをも含む、群馬県初の総合学園である。なかでも共愛学園前橋国際大学は、そうした高い評価を得ている大学のひとつとして、そのユニークな取り組みが教育業界からおおいに注目を浴びている。

1999年に開設された共愛学園前橋国際大学は、地方にある小規模な私立大学ながらも受験者数は年々増加傾向にあり、『大学ランキング』(朝日新聞出版)の「学長からの評価ランキング:教育面で注目」部門第5位に2018年版から3年続けて入るなど、躍進著しい大学として知られている。学部は国際社会学部 国際社会学科のみで、「国際社会の在り方について見識と洞察力を持ち、国際化に伴う地域社会の諸課題に対処することのできる人材の養成」を目的にしている。

「いまの社会がどのような人材を求めているか、そのために学生たちにどのような力をつけさせる必要があるかを真剣に考えて、教育プログラムを推進しています」

と、共愛学園前橋国際大学学長の大森昭生氏は語る。その結果として同学は、文部科学省の採択プロジェクト事業であるスーパーグローバル大学創成支援事業の「経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援(GGJ)」「地(知)の拠点整備事業(COC)」「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」「大学教育再生加速プログラム(AP)」に選定されている。

また、共愛学園前橋国際大学は約1000人の学生を擁するが、そのうちの約90%が県内出身者であり、卒業生の地元就職率も70%~80%と、地方創生への貢献度も高い。

共愛学園前橋国際大学の母体である共愛学園の前身は、1888年にキリスト教宣教師たちによって設立された前橋英和女学校である。1988年の創立100周年を機に共愛学園女子短期大学が開設され、この短期大学を母体に1999年に、共学の4年制大学として共愛学園前橋国際大学は誕生した。キリスト教主義にもとづく「共愛=共生」の精神は、開校以来の教育理念となっている。

いまでは「地方大学の鏡」とでも言うべき共愛学園前橋国際大学だが、かつては苦境に立たされていたこともある。設立初年の1999年度こそ入学者が入学定員を上まわったものの、2年目からは早くも定員割れに陥り、2001年度にはFランク寸前にまで評価が落ちてしまったのだ。

そこで、起死回生を図るための対策として2002年から、まずコース制を導入した。単一学部である国際社会学部 国際社会学科を「英語コース」「国際協力・環境コース」「情報・経営コース」「地域・人間文化コース」の4つのコースに分け、「なにを勉強するか」を明確化したのだ。なお、その後に何回かのコース変更が行われ、現在は「英語コース」「国際コース」「情報・経営コース」「心理・人間文化コース」「児童教育コース」の5コースとなっている。

そして、もうひとつの対策として、「資格特待生制度」を導入した。これは、英語検定など大学が指定した資格を有している学生に対し、授業料を全額免除するという大胆な制度である(現在は初年度の授業料のみ)

その一方で組織改革にも取り組み、教職一体となって「人件費抑制規程」を定め、人件費が帰属収入(学校法人の負債とならない収入)の55%を超えた場合、その分を全員一律で給与カットするという画期的なしくみを構築した。

なお、共愛学園前橋国際大学では、具体的な大学運営に、すべての教職員が参画する。こうしたフラットな組織によるガバナンスを実現していることも、団結力を強める大きな要因となっている。

そして2016年には小学校を新設し、共愛学園は総合学園となった。

「世代間の交流が可能になったことで得られるようになった教育効果は計り知れません」

と、総合学園としてのメリットを共愛学園理事長の須田洋一氏は強調する。

本書では、長い歴史のなかで培った「共愛=共生」の精神を現代のニーズにマッチさせ、地域に求められる教育機関のあるべき姿を実現させた共愛学園の、さまざまな取り組みを紹介するとともに、同学園の今日までの歩みをたどりつつ、そこにみえる共愛学園前橋国際大学の教育哲学に迫ろうと思っている。それは、将来の進路に迷う青少年はもとより、教育のあるべき姿に思いをはせる多くの一般読者にとっても、貴重な指針となるはずだ。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


2019年10月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 大学教育に求められる新たな価値とは

世界に取り残されつつある日本の大学
日本の大卒者が即戦力にならない理由
「大学全入時代」の到来で危惧される高等教育の劣化
平成の30年間で4年制大学が大幅増加
人気大学と定員割れ大学の二極化が加速
大学偏差値で採用を決める企業体質
新たな価値を模索する地方大学の試み
「選ばれる大学」となるためには、なにが必要か


第2章 V字回復を実現させた数々の施策

学内改革を成功させ、いまや全国大学ランキング5位
コース分けで学びの方向性を明確化
「資格特待生制度」で授業料全額免除
推薦の評定平均を維持してレベルの低下を防ぐ
全教職員対象の人件費抑制規程
「学生中心主義」を貫いて、めざす方向を共有
「地学一体」でグローカル人材を育成
地域から得られる学びで大きく育つ学生たち
「倒産か再生か」の分かれ道になるもの


第3章 グローカル人材を育成する独自のカリキュラム

カリキュラムの中核をなす「共愛コア科目」と「12の力」
「真の国際人の育成」をめざす「英語コース」
実体験で国際的知識を磨く「国際コース」
企業、地域、社会の課題解決スキルを身につける「情報・経営コース」
人間とのつながりを学ぶ「心理・人間文化コース」
教育と地域の国際化を学ぶ「児童教育コース」
「ちょっと大変だけど実力がつく大学です」がモットー
即戦力となる人材を育む研修の数々
文部科学省採択プログラムに同時採択
「GGJ」への採択がもたらしたもの
充実した就職支援
就職活動でも役立つ「Kyoai Career Gate + S」


第4章 地域社会とともに歩む総合学園

小学校の開校により群馬県初の総合学園に
幼稚園と保育園を統合し、幼保連携型認定こども園へ
受験に縛られない、ゆとりのある中学校生活
「英語の共愛」で名高い共愛学園高等学校
一貫教育で伝える「共愛」の精神
総合学園ならではの世代間交流による教育効果
地元への恩返しの意味を込めて学童クラブを開所


第5章 「共愛」の理念とともに歩んだ131年

宣教師たちが起ち上げた前橋英和女学校
世の中に先駆けて取り組んだ女子教育
創立100周年で設立した女子短期大学
短期大学を母体に4年制大学を設立
共愛学園と共に歩む理事長・須田洋一の50年
2018年問題を乗り越えた若き学長・大森昭生
現代の「共生の精神」につながる「共愛の理念」


第6章 日本の明日を担うグローカル人材の育成に向けて

地域に必要とされる大学
地域人材の定着・育成をめざす産官学連携の取り組み
地元学生9割、地元就職8割の実績
学生は大学運営のパートナー
次世代のグローカルリーダー育成へ向けて新プロジェクト始動
「共愛・共生」社会の担い手として飛び立つ卒業生
共愛学園前橋国際大学が描く未来像


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2019/11/05

『屋根の革命』 前書きと目次

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屋根の革命
~屋上庭園で、木造住宅に進化を~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-369-6
初版発行:2012年7月8日 初版発行




はじめに

高層マンションが建ち並ぶ現代社会においても、「庭付き一戸建て」は日本人の夢だ。また、平成二十三(二〇一一)年に内閣府が実施した「森林と生活に関する調査」において、「新たに住宅を建てたり買ったりする場合、どんな住宅を選びたいか」という問いに対して、約八割の国民が「木造住宅を選ぶ」と答えている。

しかし、仮に一戸建ての木造住宅を手に入れたとしても、庭付きの夢を実現するのはなかなかむずかしいのが実情だ。特に地価が高い都市部において増えてきた狭小住宅などでは、ほとんどの場合、庭をつくるスペースはないといっていいだろう。

一方、無機質だった鉄筋ビルでも近年、変化が生じてきた。屋上を植物庭園にした「屋上緑化」が盛んになっているのだ。屋上緑化はヒートアイランド現象の緩和、断熱性の向上など、環境への効果とともに、「木や緑」による癒し効果という側面からも評価されている。このように、環境や癒しの側面から、現代人は「木や緑」を住まいやオフィスビルに取り入れることの重要性を感じているということを指摘できるだろう。

とはいえ、一般の木造住宅では、屋上緑化はなかなか浸透してこなかった。既存の木造住宅に屋上緑化を施す場合、勾配屋根を陸屋根にして施工する必要がある。このときの防水工法や施工者の習熟度の問題から、水漏れなどのトラブルが発生するケースがまま見られた。こうなると、施主はもちろん、施工を請け負う工務店もおよび腰にもなる。

そうしたなか、むずかしいと思われていた木造住宅における「屋上緑化」を実現できる技術を確立し、着実に実績を伸ばしている企業がある。それが本書で紹介する株式会社栄住産業(本社:福岡県福岡市、代表取締役:宇都正行氏)である。

同社は、昭和五十年に創業、以来三十七年間にわたり、金属屋根防水工法「スカイプロムナード」を中心に事業を展開してきた。これは、金属板で防水面をつくり、専用のジョイント材をはめ込む工法である。金属板の耐久性がそのまま防水層の耐久性となり、固定して継ぎ目をジョイントでつなぐだけなので、施工の手間が大きく軽減できるほか、近隣に迷惑となる騒音も発生しない。また、地震や火事にも強く、健康に悪影響をおよぼす恐れのある化学物質も一切使用していない。さらに同工法に対する自信の裏づけとして、亜鉛メッキ鋼板によるスタンダード工法で十年、ステンレス鋼板によるハイグレード工法で三十年の防水保証を付加したことで、工務店の保証負担も軽減。すでに全国で約二五万棟のバルコニー防水と屋根を手がけてきたが、これまでクレームはほとんどないという。

栄住産業の代表取締役・宇都正行氏は、昭和四十三年に鹿児島経済大学を卒業すると、大学時代に貯めた資金で牛乳販売店を設立した。ところが、事業を拡大するとともに管理のむずかしさにぶつかり、大きな赤字を抱えて廃業に追い込まれる。その後、借金を返済するために、東京の会社に勤めた宇都氏は懸命に働き、わずか一年半ほどで借金を完済すると、鹿児島に戻り、父親の工務店に入社した。

それから間もなくして、友人の紹介で金属防水によるバルコニー工法の存在を知り、「常に人と違うことをしなければ、生き残れない」と感じていた宇都氏は、この工法に専念して事業展開をはかるべく、父親の工務店を飛び出し、昭和五十年に栄住産業を創業する。

その後、鹿児島から福岡に進出。九州一帯で順調にシェアを拡大し、タマホームのバルコニー受注をきっかけに、平成十七年に関西、翌平成十八年には関東に営業所を開設するまでに成長した。しかし、知名度の低さからなかなか注文が取れずに苦戦を余儀なくされるのだった。

そんなある日、東京で分譲戸建て住宅の折込チラシを見て、宇都氏はその狭さと価格に驚かされた。たった二五坪で七八〇〇万円。このとき、「われわれの金属防水技術なら、東京の狭小住宅の屋根に庭を提供できるはずだ」とひらめいた。すでに九州で屋上庭園の施工実績のあった栄住産業は、屋上庭園を前面に打ち出す戦略に切り換えた。

現在、同社の「天空の楽園」をキャッチフレーズに展開した屋上庭園は、ゲリラ豪雨に見舞われても雨漏りしないことが認められ、提携する地場工務店三〇〇〇社に導入されている。

この屋上庭園とならび同社の事業のもう一つの柱となっているのが、「マグソーラーシステム」である。従来の太陽光パネルは、設置のために屋根に穴を開けなければならず、経年劣化にともない、そこから雨漏りするリスクがあった。その点、マグソーラーシステムは屋根に穴を開けずに強力磁石を使用して太陽光パネルを設置していくので、雨漏りのリスクがない。また、勾配屋根、陸屋根の両方に対応できるうえ、大がかりな施工を必要としないため、非常に簡単になった。そうしたさまざまなメリットを受けて、省エネ意識の高まっている現在において、マグソーラーシステムの受注は急増し、同社のもう一つの有力事業にまで成長している。栄住産業ではこの二本柱を軸に、五年後には全国に三五カ所の営業拠点を設け、年商二〇〇億円を当面の目標に掲げている。

そんな同社の経営の基本理念は、「工務店さんのお役立ち」の精神である。提携工務店の発展こそ、自社の発展ととらえ、地場工務店が不得意な領域である情報収集を迅速に行い、素早く発信してサポートしている。そのなかで信頼関係を築きあげ、工務店の悩みを聞きながら、それを解決するために知恵をしぼり、次の開発へとつなげていくのだ。それだけに、宇都氏の工務店に寄せる思いは並々ならぬものがある。

本書は、独自の防水技術で「屋上緑化」を進め、日本の屋根に革命を起こす同社の取り組みを紹介しつつ、創業者・宇都正行氏の経営理念、人生哲学に迫るものである。新設住宅着工戸数の減少にともない、ますます競争の激化が予想される住宅業界において、地場工務店が生き残っていくためのヒントになるはずだ。

住まいは誰にとっても、もっとも身近なテーマである。それだけに、現在、住宅産業にかかわっている人のみならず、これからの住宅のあり方を考えるすべての読者に本書を手にとってもらいたいと願っている。それが、地場工務店の復活、そして、日本の住宅業界の隆盛につながれば、これほどうれしいことはない。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年五月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 健康志向とエコ需要時代の工務店

国民の八割が「本当は木造住宅に住みたい」
歴史と個性を失ってしまった日本の家
新建材や家具のシックハウス問題
ガンの発生率が低く、長生きする木造住宅
鉄筋から木造へ変化する教育現場
ヒートアイランド現象に有効な屋上緑化
コミュニティ空間の屋上緑化
進化する木造住宅の屋上庭園
意識改革のときを迎えた地場工務店
団塊世代のリフォーム需要はこれから
地場工務店は家の「かかりつけ医」だ
地場工務店の活性化は内需拡大になる

第2章 屋上緑化とは

日本人の住まいの知恵
屋上緑化のメリット
屋上緑化の注意点
防水工法の種類
知名度の高いFRP防水だが、弱点がある
選ばれはじめた金属防水
弱点を克服した金属防水
屋上緑化に適した植栽とは

第3章 木造陸屋根防水工法「スカイプロムナード」の検証

雨や火山灰の多い九州で鍛えられた防水工法
設計者の価値観をひっくり返す「新しい屋根」
「スカイプロムナード」の性能とは?
スカイプロムナードで施工する屋上緑化
スカイプロムナード~屋上緑化までの施工手順
NPO法人日本金属防水工業会の防水保証体制
屋上緑化防水工法の新保険制度「Oh! みどりちゃん」
ドイツの「パッシブハウス」、国内認定第一号に採用される
建築家とのコラボによる、スカイプロムナード導入事例


第4章 磁石式太陽光パネル設置工法「マグソーラーシステム」

クリーンな「再生可能エネルギー」
災害時の停電に強く、売電ができ、補助金も
低コスト、高性能の新型架台の登場で、太陽光発電に追い風
従来工法の問題とは
穴を開けない、雨漏りしない工法へ
品質と保証体制
開発は現場の声を手がかりに
崖に住宅をつくればコストは安くなる
間伐材でつくる木造シェルター
スーツを破いてもタダでは起きない
マグソーラーシステムの開発
「エコハウス&エコビルディングEXPO」の成功
東日本大震災で高まった太陽光発電の需要
膨大な労力と経費をかけ、全メーカー対応型へ
「着脱がラク」というメリットが需要を広げる
個人発電の時代
太陽光発電から不動産業が変わる

第5章 創業者・宇都正行の経営理念と人生哲学

父への劣等感
牛乳販売店を経営するが失敗
東京に出稼ぎ、借金返済
度量の大きな会社で学んだこと
「栄住産業」創業、バルコニーの金属防水へ
火山灰に敗北、改良を重ねて完成
鹿児島から福岡へ進出
「工務店のお役立ち」の原点
たった二五坪で七八〇〇万円!?
バルコニーから屋上緑化への戦略変更
NPO法人「日本金属防水工業会」を設立
屋上緑化への高評価を得る
失敗を恐れるな
中小企業だからこそ、先進的な新しい発想が生まれる

第6章 工務店のお役立ち企業・栄住産業の挑戦

五年後の目標は年商二〇〇億円
屋上庭園の力
新たな技術・商品開発で「工務店さんへのお役立ち」
人材育成とバックアップ体制ですぐれた人材開発を
国による工務店のバックアップ
素材で売るのではなく、夢を売る
住宅を供給する側の意識も変わる
工務店は自らの強みを自覚せよ
バルコニーのない家はいらない時代へ
事業の根幹に使命感を持ちたい
家+庭こそ「家庭」である
工務店の発展こそ、栄住産業の発展である


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2019/10/25

『21世紀型互助会のすゝめ』 前書きと目次

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21世紀型互助会のすゝめ
~百年企業をめざす、くらしの友の挑戦~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-370-2
初版発行:2012年7月14日 初版発行




はじめに

葬儀のあり方には、それぞれの時代性が如実に反映されるものである。

近年では葬儀の簡素化と多様化が進み、「葬儀は不要」という論調もめずらしくはなくなった。

しかし、未曽有の被害をもたらした東日本大震災以降、その傾向は変わり、葬儀の意味と必要性をもう一度見直す機運が高まってきた。それは「人の命」の大切さを、多くの日本人が改めて痛感したからにほかならない。

事実、震災直後の遺体安置所でもっとも求められていたのは、死者がきちんと「供養」されることだったという。毎日、新たな遺体が運び込まれてくるなかで、たとえわずかな時間であっても死者のためにお経をあげてもらえれば、どれほどの慰めを得られたことか。震災数日後、僧侶が遺体安置所に到着したときには、これでようやく供養をしてもらえると、職員も遺族も安堵の表情を浮べたとの逸話は印象深いものだった。

その後も葬送は何カ月も続き、被災地は弔いと祈りに満ちた場となった。そこではどんなかたちでもいいから、せめて葬儀を出してあげたいと人々は望み、葬儀は不要と口にする人は誰もいなかった。

震災から一年を経た平成二十四(二〇一二)年三月十一日には、被災地だけでなく全国各地で僧侶の読経の声と鎮魂の鐘の音が響きわたり、多くの国民が黙とうを捧げた。

こうした「生と死」の紙一重とも思える境界線のなかで鮮明に浮かび上がってきたものは、私たちのDNAともいえる、古来からの宗教心や死者に対する弔いの思いである。世代から世代へと継承されてきた、いわゆる仏教的な心性が、どれほど深く日本人に根ざしているかを改めて気づかせることになったのだ。

葬儀は遺骨を埋葬するという物理的手続きだけでなく、生きている人と亡くなった人を分ける「別れの儀式」である。別れの儀式を執り行うことによって人々は死を見つめ、同時に命を発見する。死の認識と命の発見は人間にとって永遠の定理であり、葬儀はその厳粛さを体現させるために人類が編み出した最初の儀式といえるのかもしれない。

いずれにせよ、私たちは「供養」や「弔い」、「成仏」という言葉の裏に秘められた生者と死者のかかわりに思いを馳せながら、葬儀の持つ本来の意義や意味を改めて考察しなければならないところにきているといえるだろう。

本書で取り上げる「株式会社くらしの友」(本社:東京都大田区、代表取締役社長:伴良二氏)は、冠婚葬祭互助会のパイオニアとして知られている会社で、その会員数は三八万世帯、一七〇万人のファミリー会員を誇る業界でもトップクラスの規模を有している。

現在、同社では年間約六六〇〇件以上の葬儀を執り行っているが、その一件一件に故人と遺族の思いを深く汲み取るお客さま第一主義が貫かれており、同時に葬儀の持つ意義を的確に表現したものとして高い評価を得ている。

くらしの友の葬儀に向き合う真摯さ、誠実さは、遺族だけではなく、会葬者の胸を打つものであるとの声も高い。そこには同社の「故人を送る」ことへの揺るぎない信念が込められている。

創業者・伴和夫氏は太平洋戦争のなかでもっとも激戦地であったインド北東部におけるインパール作戦の生き残りである。九死に一生を得て日本に生還した和夫氏は、まさに死に取り囲まれたところから命を再発見した体験の持ち主である。昭和四十二年、五十歳で互助会事業を立ち上げるに至ったのは、多くの英霊の鎮魂と弔いのためであり、人生において葬儀はもっとも尊い儀式であるとの思いからであった。

互助会の立ち上げにともない和夫氏は「葬儀憲章」を掲げ、日本人の持つ死生観や来世観を反映した葬儀を重視した。それは、葬儀を通して日本人の伝統文化を継承するとの使命を受け止めてのことであった。

加えて、「儀式で金儲けをすべきではない」との自身の鉄則にもとづき、ぎりぎりの経営を生涯にわたり実践。互助会の原点である相互扶助の精神を礎に、地域の婦人団体とともに、会員の福利向上と地元の利益に貢献しつづけたのである。

その高い精神性は、平成五年に社長に就任した伴良二氏へと継承された。良二氏は、「創業者である父が唱えた相互扶助の精神と、日本の伝統文化としての儀式を大切にしたいという遺志を継ぎ、『感謝される儀式から、感動される儀式へ』をテーマに事業を進めていく」と明確に語る。

良二氏は「時代が変わっても失ってはいけないもの」と「変えてよいもの」を的確に見極めながら着実に事業を推進。儀式文化を歴史的、宗教的に深く追求するかたわら、CS(顧客満足)およびES(従業員満足)向上のためのシステムづくりにも尽力するとともに積極的な中・長期経営ビジョンを打ち出し、百年企業をめざす姿勢には微塵の迷いもない。

現在は、互助会運営・葬祭関連事業を行う「くらしの友」を中心に、冠婚関連事業を行う「グレイスホテル」、企業・団体向けに葬儀支援サービスを行う「全国儀式サービス」の三社で「くらしの友グループ」を形成し、冠婚葬祭に関する多角的な事業を展開。会員の暮らしに役立つさまざまなサービスを提供するなかで、日本人の心の復興に力を注いでいる。

本書は日本の伝統儀礼である冠婚葬祭の正しい継承と、相互扶助の精神に根ざした互助会システムの普及に取り組む「くらしの友グループ」の事業活動を紹介するとともに、創業者・伴和夫氏、現社長・伴良二氏の二代にわたり受け継がれてきた経営理念、人生哲学を検証したものである。

それに加え、葬儀の意義と命の尊厳、日本人の魂に宿る死生観を探っていく内容ともなった。冠婚葬祭関係者のみならず、日本人として生を享け、これからの時代を生きるすべての人々にとっても貴重な指針の書となるであろう。

なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、あらかじめお断りしておく。


平成二十四年五月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 現代葬儀事情 ―― いま、その本質を見直す時代へ

弔う意味を改めて考える契機になった東日本大震災
不眠不休での葬儀、その一方でトラブルも
お客さまのため、そして日本の伝統文化継承のために
国が取り組みはじめた「生と死」の啓発活動
力仕事からサービス業へ、質的変化が進む葬祭業
なぜ葬式は必要か
日本の葬儀の歴史と基礎知識
日本の死生観の変遷――仏教の影響と先祖供養
霊柩車と戦争が変えた葬送文化
自宅から会館葬へ
さまざまな新しい葬儀のかたち
二〇一〇年版「現代葬儀白書」にみる「生の声」


第2章 冠婚葬祭の互助会のパイオニア

互助会の原型「頼母子講」は相互扶助のシステム
家族の絆と地域社会の貢献のために
互助会法制化による通商産業大臣許可第一号を取得
葬祭業界のなか、ただ一社「消費者志向優良企業」の栄冠に二度輝く
互助会ならではの、安心の五つのサポート
新横浜総合斎場「もっと会」の挑戦
新横浜総合斎場から見る斎場の哲学
「葬儀憲章」が打ち出す葬儀の意義
故人と遺族の気持ちを汲み取り癒すということ
尊い役割を果たす儀式・湯灌
最初から最後まで寄り添う哀悼貢献者
感謝される儀式から、感動される儀式へ
伝統文化を忘れずに、変えるものは変える
働く人たちのための福利厚生、儀式共済サービス制度
葬儀・供養に関連するさまざまなサービス
こだわりブライダルを全面応援
会員の暮らし全般をサポートする「くら友倶楽部」


第3章 伴 良二の理念・継承と変革

第二ステージに入ったくらしの友の企業理念と経営方針
日本人の心と暮らしの奥に潜む仏教的心性
日本人に深く根づく死生観
互助会と仏教の関連
心は形から入る
伴 良二の歩み
家族葬、直葬の「流行」が見せる危うさ
「感動品質」が日本人の美しい心を回復させる
互助会は儲けてはいけない
CS向上委員会とCI
地域密着を第一に
教育の重要さ


第4章 受け継がれる思い
 ―― 創業者・伴 和夫の理念と人生哲学 ――

礎を築いた創業者・伴 和夫
インパール作戦の生き残りとして、生と死は紙一重
戦友の死を無駄にしてはいけない
幼少期に身につけたこと――甘露法雨
戦場よりもつらいどん底の日々
チケット販売で蒲田を日本一の商店街に
女性の力に注目
婦人団体の全面支援、万感胸に迫り、ただ泣けて泣けて
世直しをめざして
自分が幸せになるにはまわりの人も幸せに
法制化への和夫の努力、通商産業大臣許可第一号取得に皆が歓喜
冠婚葬祭標準化への取り組み
刃渡りの経営に秘められたもの
創業者・伴 和夫の心に残る葬儀
「日本童謡の会」に込めた心の文化的遺伝子の継承


第5章 それぞれの現場で息づく「くらしの友」の精神

現場からみつめる葬儀の意味
小さな心づかいの積み重ねが感動につながる
ご家族の節目節目に立ち会っていきたい
若手と年配者、どちらもお客さま本位で成功者に
「式は形で心が儀」
信念に貫かれた経営姿勢は変わらない


第6章 創業百年企業に向けて

「くらとも宣言」に見る、中・長期の志
助け合いの精神が発揮された東日本大震災
原点へのこだわり、専一と立志
ES向上のためのシステムづくりと人材育成
悲しみを乗り越えて――「つたえたい、心の手紙」に込められた思い
新しいかたちの互助会とブランド化をめざして
百年企業に向けて新たな一歩 ―― もうすぐ迎える創立五十周年
究極のホスピタリティ産業として
人の一生に寄り添う互助会


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2019/08/16

『本日入社、本日オープン!』 前書きと目次

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本日入社、本日オープン!
~AIグループが「センチュリー21」で日本一になった理由~


著者:鶴蒔靖夫
定価:本体1800円+税
ISBN978-4-87218-460-0
初版発行:2019年8月23日 初版発行




はじめに

経営者の多くは、1つの質問に対し、多くの言葉を返してくる。なかには、こちらが聞いていないことまでをも雄弁に語り、ときに脱線したり、そこから意外な方向へと話が発展したりする経営者もいて、それが取材の楽しみでもあったりする。

このような多弁型の経営者は、いわゆるサラリーマン社長より、創業経営者に多く見受けられる。ところが、今回、話を聞いた経営者は、創業経営者でありながら、多くを語らない。質問にはいたって真摯に答えてくれるのだが、そこから外へとはみだすようなことはない。

坂本繁美氏、71歳(1948年生まれ)。神奈川県横浜市で不動産事業を展開するAIグループの創業者で、同グループの会長を務める坂本氏がまとう雰囲気は、世間一般に思い描かれるような不動産業者の、脂ぎったイメージとは対照的だ。その端正で穏やかな風貌と物腰には、大企業のベテラン総務部長といった趣がある。

AIグループ(旧アーバン・コスモ・グループ。2018年にグループ名を変更)は、ホールディングカンパニーである株式会社アイ建設を中核にした9つの企業で形成され、そのうちのアイ建設、株式会社日立ホーム、株式会社スターライフ、株式会社マイホーム、株式会社アース住販、株式会社ヨコハマホーム、株式会社アイホームの7社が不動産事業を手がけている。

不動産事業といっても、その内容にはさまざまなものがあるが、AIグループでは、売上の約9割を占める不動産の売買仲介を中心に、新築分譲、注文住宅、リフォーム、中古住宅および中古マンションの売買、賃貸仲介などを手がけ、グループ全体で総合不動産業を行っている。

住宅・不動産業における新たなビジネスモデルで事業展開をしているわけでも、世間の耳目を集めるような華々しい手法で経営を行っているわけでもないAIグループに、私が注目した理由は、坂本氏が率いるこの企業グループが、不動産の売買仲介において傑出した存在であるからにほかならない。

独立系不動産業者としては神奈川県でもトップクラスの地位にあるAIグループの各社は、世界最大級の不動産仲介ネットワーク「センチュリー21」に加盟している。「センチュリー21」の名称は、テレビCMなどでご存じの方も多いだろう。そのネットワークは世界の80の国と地域に展開され、約9400店舗、従業員数12万7000名(2019年3月31日現在)を擁するというから、そのスケールにはあらためて驚かされる。

「センチュリー21」を展開する Century 21 Real Estate LLC は、1971年にアメリカ東部のニュージャージー州マディソンで設立された。直営店を持たないフランチャイズチェーンとして、わずか17店舗からスタートした「センチュリー21」は、その後の3年で店舗数を1000にまで増やした。

日本では、1983年に日本法人のセンチュリー21・ジャパンが設立され、翌1984年に首都圏12店舗が一斉にオープン。その後、関東、関西、中部と加盟店を増やしていき、現在では北海道から沖縄まで全国に954店舗、従業員数6498名(2019年3月31日現在)にまで成長している。

そのなかにあってAIグループは、「センチュリー21」の企業グループ部門表彰で全国ナンバーワンを2012年度から2018年度までの7年間に6回も受賞するなど、日本国内の「センチュリー21」加盟店において、まぎれもなくトップの座に君臨している企業グループである。

さらに、AIグループとしてだけではなく、AIグループを構成する各社も、全世界の「センチュリー21」加盟店のうち、わずか4%の成績優秀店舗だけが選ばれる「センチュリオン」に、長年にわたって選ばれ続けていることも見逃せない。なかでもAIグループの筆頭格とも言える日立ホームは32年連続で「センチュリオン」を獲得しており、これは「センチュリー21」の加盟店において日本でナンバーワンの記録である。他のグループ各社も、スターライフは26年連続、マイホームは25年連続、アース住販は17年連続、アイ建設は14年連続で「センチュリオン」を獲得し、現在もそれぞれに連続獲得記録を更新中だ。

なぜ、そんなことが可能なのだろうか。

AIグループには、社員の尻を叩き、馬車馬のごとく働かせる、鬼軍曹のような存在がいるわけではない。それどころか、AIグループの総勢約200名をたばねる会長の坂本氏は、前述のとおり、いたって温厚な紳士である。AIグループの社員で、坂本氏が声を荒げているのを聞いたことがある者はいないというほどだ。

その坂本氏に、営業におけるモットーや心構えを尋ねたところ、

「そうですね、お客様主義と言いますか、こちらが売りたい物件を売るのではなく、お客様が欲しいと望まれる物件をご紹介するというやり方ですね。押し売りというのは、どうも性格的にできないものですから」

と、静かな口調で答えが返ってきた。

こうした坂本氏の考えを反映し、AIグループでは飛び込み営業をまったく行っていない。店舗を構えて顧客が来るのを待ち、じっくりと顧客の要望を聞いて、それに沿った物件を紹介するというのが基本スタンスである。「センチュリー21」のトップを走る企業グループと聞くと、いかにも精力的な営業活動をしていそうに思うかもしれないが、実際にはあくまでも「待ちの営業」をしているのだ。

また、坂本氏はよく歌を口ずさんでおり、グループ会社にスーツ姿でふらりと現れた坂本氏をみかけた新入社員が、

「さっき入ってきた、鼻歌のおじさんは誰ですか」

と、上司に尋ねたとのエピソードがあるほどだ。これは、坂本氏をはじめとした社員全員が、ふだんから「センチュリー21」の揃いのジャケットを着ているせいもあるだろうが、それ以上に、坂本氏のもつ「不動産業者らしからぬ雰囲気」のためだろう。

この「不動産業らしからぬ」というのは、AIグループがもつ特徴のひとつである。そうした一風変わった特徴をもった企業グループが、なぜ不動産の売買仲介業でトップになれたのか。その理由を解明していくことが本書の目的だ。

AIグループの創業者である坂本氏は、誰も手がけたことがないようなビッグビジネスを築きあげた事業家でも、ビジネス界における大きな英雄というわけでもない。しかし、不動産仲介業という既存のビジネスにおける覇者であるだけに、その成功への歩みには地に足のついたものがあり、多くの読者にとって等身大の手本となるはずだ。AIグループは、いわば地域の不動産会社においてひときわ明るく輝く星だが、その輝きは、けっして奇をてらって得たものではなく、あたりまえのことを地道に積みかさねた結果、得られたものだということを、読者に伝えられたらと思う。

なお、本文中の敬称は略させていただくことを、あらかじめお断りしておく。


2019年7月  鶴蒔靖夫




はじめに


第1章 スーパー不動産会社を生んだ5つの成功要因

「住みたい街」ランキング1位の横浜
成功要因① 横浜重点主義
横浜駅西口に集中出店する理由
成功要因② 売買仲介の手堅さ
バブル崩壊後に始動した多店舗展開
創業10年にして始めた建売事業
成功要因③ 別会社展開という競争原理
立地で喚起される店舗間のライバル意識
成功要因④ 社員が長続きする会社
飛び込み営業をしないことのメリット
成功要因⑤ あたりまえを続ける会社
巧みなセールストークはいらない


第2章 AIグループ流「成約をつかむ法則」

インターネット時代への素早い対応
業界の若返りとインターネット
顧客にとって「譲れないもの」をつかむ
ニーズ多様化時代の営業スタイル
インターネットではわからない「生きた情報」を手に入れる
顧客の不安を取り除くことも大切な仕事
営業担当者は人間性を高めなければならない
「人間関係」から「信頼関係」に深めるために
トラブルから絶対に逃げてはならない


第3章 誠実の人・坂本繁美の歩みと経営哲学

東京生まれの隠岐育ち
プロの歌手をめざした大学時代
起業と同時にバブル経済の上げ潮に乗る
バブル経済に踊らされず堅実に足元を固める
求められる住宅を提供することが仲介業の矜持
投資用不動産では味わえない「血の通った仕事」
顧客の好みに臨機応変に対応する
肩の力が抜けるアットホームな社風


第4章 ユニークな別会社展開と人材育成

横浜市内の各駅をまわる新人研修
未経験者だからこそ受け継がれる営業ノウハウ
「社長」という目標がみえる会社
みな「自分にできるのだろうか?」からスタートする
思うようにやってみなさい
自由にものが言える社風はなぜできたか
普遍性のある「しくみ」を武器に首都圏進出をうかがう


第5章 変革期を迎えた日本の住宅事情

事業戦略の見直しを迫られる不動産業界
新築着工戸数はピーク時の半分に
多様化するライフスタイルと住宅ニーズ
リフォームの市場拡大は期待できるか
中古住宅流通に必須のインスペクション
日本中の住宅の3割が空き家になる可能性
空き家の増加と犯罪発生率の上昇は比例する
中古住宅流通の拡充を担う不動産仲介業


第6章 AIグループが描く将来戦略

営業エリアの拡大と事業の多角化
仲介業者でなければできない分譲住宅を
リノベーション事業にも意欲
悠揚迫らぬ着実な歩み
ワンマンでもカリスマでもない「普通人」として
企業の強さのエッセンスとは


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